牢屋、監獄とは?今は「刑事施設」と呼ばれる場所
- 2024年7月16日
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監獄、牢屋という言葉は過去のもの
刑事事件を起こしてしまった犯人は、警察に捕まると牢屋に入れられる、または監獄に放り込まれるといったイメージを持っている人はまだ多いのではないでしょうか。
牢屋、あるいは牢獄とは、罪人を閉じ込めておく所を示す言葉で江戸時代から使われているもので、明治時代以降は近代的な監獄制度に変化していったものです。しかし慣用句として、時代劇の中だけではなくこれらの言葉は社会に残り、現在でも使用されることは少なくありません。
一方で、もはや旧時代の制度であった監獄制度も、つい近年まで実質的には法令が残っていました。日本では「監獄法」によって刑事事件の被疑者や被告人、そして受刑者が収容される施設が運用されていたという事実があります。
本項では、これらの制度の移り変わりを踏まえて、刑事施設とは何かを見ていきます。
刑事事件に関係する収容施設は?
刑事事件の手続きにおいて、逮捕はされたもののまだ起訴されていない被疑者、起訴されて裁判の判決を待つ被告人、そして裁判で有罪となり刑罰が確定した受刑者といった人たちを、逃亡しないように身柄を拘束し、刑罰を与えるために収容される場所があります。
この場所はかつて牢屋や監獄と呼ばれていた施設なのですが、現在ではまとめて「刑事施設」と呼ばれるようになり、それぞれの刑事手続きの進み具合によって収容される場所は違ってきます。
原則として、警察に逮捕されて検察に送検されるまでは「留置場」に、勾留が始まり起訴され裁判において判決が下されるまでは「拘置所」に、実刑判決となり刑が確定すると「刑務所」に収容されることになっています。
手続きの進み方の状況やさまざまな事情により、本来ならば「拘置所」に収容されるべき人が「留置場」に入れられっぱなしという現実もありますが、本来ならばこの段階を踏んで移送されていくものです。
「刑事施設」に統一されたのは最近のこと
刑事事件の被疑者や被告人、受刑者が収容される場所が「刑事施設」という名称に統一されたのは比較的最近の、2006(平成18)年のことです。それまでの施設は、100年ほど昔の1908(明治41)年に制定された「監獄法」という法令に基づいて運営されていたのです。
社会情勢の変化や人権意識の移り変わりにもかかわらず、大きな改正はされずに「留置場」や「刑務所」は「監獄法」で運営されていました。「監獄法」には現代にそぐわない内容が多かった上に、施設に収容されている被疑者や被告人、あるいは受刑者の処遇に関してほとんどルールが明文化されていなかったのです。
それでは、どのような変化が起こったのか確認していきましょう。
「監獄法」から「刑事収容施設法」「被収容者処遇法」へ
刑事事件の被疑者、被告人、そして受刑者が収容される「留置場」、「拘置所」、そして「刑務所」については、この法令の改正を待たずに整備は進められていました。
例えば1980(昭和55)年以前に建てられた「留置場」は、収容者が入れられる居室と呼ばれる部屋が基本的には扇形に配置され、扇の要の位置に看守台があるという、監視する側の都合を重んじた形が主流でした。
しかし1980(昭和55)年から「留置施設における処遇改善」が行われ、常に監視されているという圧迫感を避け、向かい側の居室の中が丸見えにならないように、以降に新設される留置場はホテルの部屋のような櫛形に配置されるようになっていました。
一方で実際の施設運営については、法務省の内規でその都度通達が行われ、刑務所の所長などの意向で処遇が決まるなど、外部からは分かりにくいことを利用していたのか、かなりいい加減な状態だったと言われています。
刑事施設における不祥事が引き金に
旧態依然とした体制で刑事施設の運営が続けられてきた結果、2000年代に入りそれまで隠されてきたさまざまな問題が明らかになってきます。
名古屋刑務所では、2001年に刑務官が消防用ホースで受刑者の肛門をめがけ放水して傷を負わせ、その受刑者が死亡し、また2002年には革手錠で受刑者を強く締め付けたことが原因で受刑者1人が死亡、1人が重傷となるなど、凄惨なリンチとも言える事件が続発したことが明らかになりました。
これらの事件だけではなく、この事件を隠蔽しようとしていた刑務所の体制が問題となり、国会でも取り上げられるなど社会問題化し、受刑者に対する人権侵害が日常化しているのではないかという議論が起こり、それは嘘ではないという元受刑者たちの声も湧き上がってきました。
そこで刑務所を管轄する法務省は、受刑者の処遇改善を中心とする行刑改革を進めようとしますが、代用監獄制度に対する反発があるなどの理由でなかなか整備は進まず、実際に「監獄法」の改正である「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」案が国会に提出されたのは2005(平成17)年となり、翌年に施行されることになったのです。
しかしこの改正を行った結果、新法により規定される受刑者と、旧「監獄法」の規定のままとなった未決拘禁者の間に不合理性が指摘されたことから、同年中にさらに改正法案が提出され成立、翌2007年に改められ施行された法律は「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」となっています。
略称は「刑事収容施設法」と「被収容者処遇法」
この改正が実施されたのは1908年の「監獄法」の制定からほぼ100年が経過していたことになり、その間の社会情勢や人権への考え方が変化を考え合わせると、いかに長い間放置されていたものかが分かります。
そしてようやく「監獄法」は「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」へと改正されたのですが、あまりにも長いために一般的には「刑事収容施設法」、あるいは「被収容者処遇法」と呼ばれています。
この「刑事収容施設法」が施行され、2007年には「監獄法」が廃止されたことから、「刑務所」や「留置場」は、前述したように「刑事施設」と呼び名が統一されました。
施設内の呼称も改められており、たとえば昔は収容者が入る部屋を「房」、一人部屋を「独居房」、複数の収容者が入る部屋を「雑居房」と呼ばれていましたが、現在では一人部屋を「独居室」多人数の部屋を「雑居室」と言われています。
呼び名が変わっただけで施設を建て直すわけではないので、被疑者や被告人、受刑者にとってこの法改正が劇的な変化をもたらすわけではなかったのですが、かつては監獄と呼ばれ人権を無視した暗いイメージがあったため、名称を変えることで矯正施設という意味合いを強める狙いがあったのでしょう。
「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」の問題点
通称「刑事収容施設法」と「被収容者処遇法」と呼ばれる「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」の目的は、その第1条に「刑事収容施設(刑事施設、留置施設及び海上保安留置施設をいう)の適正な管理運営を図るとともに、被収容者、被留置者及び海上保安被留置者の人権を尊重しつつ、これらの者の状況に応じた適切な処遇を行うこと」と定められています。
法務省管轄の「拘置所」と「刑務所」、そして警察が管轄する「留置場」の双方に及ぶ法律で、刑事施設の定義から始まり、被収容者の人権に配慮したさまざまな取り決めが定められているのが特徴です。
例えば刑事施設は第3条に次のように定義されています。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
(刑事施設)
第三条 刑事施設は、次に掲げる者を収容し、これらの者に対し必要な処遇を行う施設とする。
一 懲役、禁錮又は拘留の刑の執行のため拘置される者
二 刑事訴訟法の規定により、逮捕された者であって、留置されるもの
三 刑事訴訟法の規定により勾留される者
四 死刑の言渡しを受けて拘置される者
五 前各号に掲げる者のほか、法令の規定により刑事施設に収容すべきこととされる者及び収容することができることとされる者
そして以下の第4条に規定されているように、人権に配慮し、性別や収容される人の状況によって分離して収容されることになっています。
(被収容者の分離)
第四条 被収容者は、次に掲げる別に従い、それぞれ互いに分離するものとする。
一 性別
二 受刑者(未決拘禁者としての地位を有するものを除く)、未決拘禁者(受刑者又は死刑確定者としての地位を有するものを除く)、未決拘禁者としての地位を有する受刑者、死刑確定者及び各種被収容者の別
三 懲役受刑者、禁錮受刑者及び拘留受刑者の別
2 前項の規定にかかわらず、受刑者に第九十二条又は第九十三条に規定する作業として他の被収容者に接して食事の配給その他の作業を行わせるため必要があるときは、同項第二号及び第三号に掲げる別による分離をしないことができる。
3 第一項の規定にかかわらず、適当と認めるときは、居室(被収容者が主として休息及び就寝のために使用する場所として刑事施設の長が指定する室をいう)外に限り、同項第三号に掲げる別による分離をしないことができる。
しかし条文に「分離をしないことができる」とあるように、さまざまな理由で状況の異なる収容者が一緒に収容されることが可能だという問題点は残ります。
代用監獄制度につながる法律
また、第14条において警察が管轄する留置施設、いわゆる「留置場」についての規定がなされていますが、本来ならば警察の元から離れて検察の管轄である「拘置所」に移送されるべき勾留が決定された人についても留置施設に留置できるとすることが明文化されてしまっています。
第十四条 都道府県警察に、留置施設を設置する。
2 留置施設は、次に掲げる者を留置し、これらの者に対し必要な処遇を行う施設とする。
一 警察法及び刑事訴訟法の規定により、都道府県警察の警察官が逮捕する者又は受け取る逮捕された者であって、留置されるもの
(以下略)
第十五条 第三条各号に掲げる者は、次に掲げる者を除き、刑事施設に収容することに代えて、留置施設に留置することができる。
一 懲役、禁錮又は拘留の刑の執行のため拘置される者(これらの刑の執行以外の逮捕、勾留その他の事由により刑事訴訟法その他の法令の規定に基づいて拘禁される者としての地位を有するものを除く)
二 死刑の言渡しを受けて拘置される者
(以下略)
加えて第15条では、「刑事施設に代えて留置施設に留置することができる」と定められてしまったため、刑事事件の被疑者として逮捕されてしまった人は、実際に裁判を起こされるまで、要するに捜査が終了するまで、ずっと警察の管轄下で身柄を拘束されてもよいと読めてしまいます。
これは冤罪や違法な捜査の要因となり、消えたはずの監獄法が代用監獄として残されている、代用刑事施設と名前を変えても意味はない、といった指摘がなされています。
逮捕された人に面会を
「刑事収容施設法」は、単に施設の呼称を変更するだけではなく、監獄法と比べて収容されている被疑者や被告人、そして受刑者の人権に配慮した処遇が定められています。刑事施設に収容されている被収容者が施設側の処遇に不満がある場合には、外部に訴え出るシステムもできています。
しかしいくら法律が変わっても、上記で説明したように代用監獄という実際の運用は変わっておらず、加えて刑事施設内は密室で、プライバシーの観点から逆に外部の第三者から見えづらいという状況は変わっていません。たいていの「刑務所」は所長の権限が絶大なままで、所長が交代するだけで所内のルールが激変するとも言われています。
依然として厳しい環境である刑事施設に収容されてしまった人は、いつ終わるとも知れない取調べをずっと受け続けなければならず、そういう状況で心のよりどころになるのは、やはり家族や友人・知人が気にかけてくれているという思いです。
弁護士を通して面会を依頼する
ただし、個人で留置場や刑務所に面会に行くとしても、どこに行けば良いのか分からないですし、面会が可能なのかどうかの判断や、面会時間や差し入れなど施設ごとの決まり事も理解できないものが多いでしょう。
そういう際には、弁護士に連絡を取り、どうすれば面会できるのか、差し入れに持って行ける物は何かなど、適切なアドバイスをもらうことをお勧めします。もし面会がかなわなくても、弁護士を通して差し入れや伝言は可能ですので、依頼する価値はあります。
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