刑事事件の逮捕には「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」がある

逮捕する

刑事事件の逮捕は三種類

刑事事件の手続きにおいて、警察などの捜査機関が罪を犯したと疑われる者を拘束するのが逮捕です。逮捕は捜査機関による対人的な強制処分ですが、国民の権利である自由を奪うものですから、罪を犯した疑いがあるからといって捜査機関だけの判断で逮捕を行うことは原則としてできません。

逮捕を規定する法令では、逮捕は司法官憲が発する犯罪を明示した令状により行われると定められています。この際、司法官憲とは主に裁判官を指し、令状とは逮捕状のこととなります。よって、裁判所の裁判官が逮捕状を発行すれば、そこに記載されている罪を犯したと疑われる者は、警察などの捜査機関に逮捕される、ということです。

しかしながら、事件の様相や緊急性から考えて、必ずしも逮捕状を準備しなければならないということはなく、逮捕状は後でいいとか、なくても逮捕しても構わないということもあるのです。

「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」の違いは?

刑事事件の被疑者を逮捕する際、逮捕状の有無や必要性により「通常逮捕」「現行犯逮捕」「緊急逮捕」の三種類に分かれます。これらはそれぞれ法令によって定められているもので、刑事事件の手続き方法が違うものです。

簡単なイメージで説明すると、早朝に被疑者宅に警察関係者が訪れ、逮捕状を示して逮捕するのが「通常逮捕」、そして罪を犯した場面を発見しすぐさま取り押さえて逮捕するのが「現行犯逮捕」です。

「緊急逮捕」は少し想像し難いのですが、犯行の場面を見たわけではなくても、明らかに罪を犯したと考えられる者を逮捕する場合に用いられるものです。

必ずしも刑事事件に逮捕は必要ない

刑事事件の被疑者は必ず逮捕されて警察署に連行され、留置施設などに入れられた後に厳しい取調べを受けなければならないというようなイメージが一般的にあります。しかし、逮捕とは人の自由を奪う強制処分であり、逮捕状は裁判官が逮捕に相当する理由があり、逃亡や証拠隠滅の可能性があると判断した時に初めて出すものです。

この強制処分に対しては「強制処分法定主義」というものがあり、いかなる方法によっても、警察や一般人による被疑者の身柄拘束は、法的な根拠がない限り行ってはならないものとされています。

そのため、刑事事件であっても在宅捜査や在宅起訴などで手続きを進めることは可能で、被疑者に逃亡や証拠隠滅のおそれがなければ逮捕される必要はないのです。

「通常逮捕」は逮捕状を示して行われる

司法業界で普通に逮捕といえば、「通常逮捕」のことを指し、憲法第33条や刑事訴訟法第199条第1項に定められているもので、逮捕の原則的な方法となります。

憲法

第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。

刑事訴訟法

第百九十九条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する逮捕状により、これを逮捕することができる。(以下略)

憲法33条で定められている「犯罪を明示する令状」とは逮捕状のことで、憲法では逮捕状を示して行われる「通常逮捕」を原則としているのです。

そして「通常逮捕」を行う要件は刑事訴訟法第199条に定められている通りで、「被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」が必要であり、特定の犯罪の疑いがあることが求められるため、「罪を犯した可能性がある」という程度では逮捕状は発行されず、逮捕は行われないのです。

そして「通常逮捕」においては、「逃亡や証拠隠滅のおそれ」がないことも逮捕の要件となります。

刑事訴訟法の下位規範である刑事訴訟規則の第143条3項には、次のような規定があります。

刑事訴訟規則
(明らかに逮捕の必要がない場合)

第百四十三条の三 逮捕状の請求を受けた裁判官は、逮捕の理由があると認める場合においても、被疑者の年齢及び境遇並びに犯罪の軽重及び態様その他諸般の事情に照らし、被疑者が逃亡する虞がなく、かつ、罪証を隠滅する虞がない等明らかに逮捕の必要がないと認めるときは、逮捕状の請求を却下しなければならない。

例えば有名人で世間一般に顔が知られているために逃亡は難しいとされる場合や、会社の役員など責任のある立場で逃亡はしないと考えられる時、罪証(証拠)を隠滅することがないと考えられる時などには、裁判官は逮捕状を発行してはならないのです。

しかしながら一般人だと、多くの場合は検察からの申請通りに逮捕状は発行されてしまうと言われています。

逮捕状とはどういうものか

警察や検察といった捜査機関が刑事事件を捜査した結果、罪を犯したと考えるに十分な証拠があると、特定した被疑者の身柄を確保するために裁判所の裁判官に逮捕状の発行を申請します。

そして発行された逮捕状を持って、被疑者の居所に行き逮捕が行われるのですが、逮捕状とはどういったものなのでしょうか。ドラマや映画などではチラリと見えるだけなので、ここで何が書かれているのか紹介しておきます。

これは、刑事訴訟法の第200条1項に明確に規定されているものです。

刑事訴訟法

第二百条 逮捕状には、被疑者の氏名及び住居、罪名、被疑事実の要旨、引致すべき官公署その他の場所、有効期間及びその期間経過後は逮捕をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。

以上の通り、逮捕状には被疑者の氏名、住居(住所)、罪状の名称、被疑事実の要旨、連行される警察署などの名称、有効期限などが書かれており、発行を認めた裁判官の記名押印が行われています。

いきなり警察官が訪問してきて逮捕状を見せられた時、冷静にその内容を確認できる人は少ないと思われますが、自分が何の罪で逮捕されるのかくらいは確認しておいた方が良いでしょう。身に覚えのない罪ならば、即座に弁護士に相談しアドバイスを仰ぐべきです。

「通常逮捕」はどうやって行われるのか

「通常逮捕」の特徴は警察や検察などの捜査機関の捜査員が逮捕状を持って被疑者の居所を訪れる点であり、逮捕場所は被疑者の自宅というケースが多く聞かれます。事前に捜査機関が被疑者の居所をつかみ、被疑者が在宅している可能性が高い早朝に行われることから、別名おはよう逮捕などとも呼ばれているようです。

当然ですが、なんの前触れもなく突然私服警官たちが家に来て、警察手帳を見せられ初めて逮捕されることを知ります。この場合、いきなり逮捕状を突きつけるのではなく、まず家宅捜索令状を見せられ、任意同行を求められることが多くあるようです。

前述の通り、逮捕とは条件付きではあっても人の自由を奪う行為となりますから、タイムリミットが定められており、警察では送検までの48時間となります。「通常逮捕」してしまえばそのカウントダウンが始まってしまうので、とりあえず任意同行で警察署に被疑者を連行し、時間稼ぎをしてから取調室で初めて逮捕状を突きつけるという手段もあるようです。

「逮捕!午前5時48分!」などと逮捕時間を必ず宣言するのはテレビドラマの通りで、被疑者に48時間の逮捕時限の始まりを告げる目的もあるのですが、普段から刑事事件に縁のない人にとってはこの時限を知る人は少ないでしょう。

万が一、家族や友人・知人が逮捕されてしまった場合には、弁護士を通じてその後の手続きがどう進められるのかだけでも知らせてあげましょう。いつまで警察に拘留されるのか分からないでいると、ただでさえ逮捕されて訳が分からなくなっているのに、ずっとこのまま外に出られないのではないかと不安は増すばかりです。

「現行犯逮捕」には逮捕状が不要

「現行犯逮捕」は、「通常逮捕」とは違い逮捕状が必要ありません。この場合の現行犯とは、今まさに犯罪が行われる瞬間や行われた直後を意味します。

つまり、犯罪を行う場面が第三者に確実に目撃されているケースで、他に犯人がいないのが確実な状況です。このような状況で行われる逮捕は、逮捕状が不要です。

「現行犯逮捕」の定義は?

「現行犯逮捕」については、刑事訴訟法第212条および第213条に規定されています。

刑事訴訟法

第二百十二条 現に罪を行い、又は現に罪を行い終った者を現行犯人とする。
○2 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終ってから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。
一 犯人として追呼されているとき。
二 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき。
三 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき。
四 誰何されて逃走しようとするとき。

第二百十三条 現行犯人は、何人でも、逮捕状なくしてこれを逮捕することができる。

以上の条文の通り、罪を犯している者、罪を犯したばかりの者は現行犯人と呼ばれ、逮捕状なしで逮捕することが可能なのです。

加えて、同条第2項に規定されている、犯人として追いかけられている者や、贓物(他人から盗んだもの)や凶器を持っている者、返り血を浴びていて明らかに罪を犯したと見られる者、何かを聞かれて逃げようとする者については、準現行犯と呼ばれ、「現行犯逮捕」の対象となります。

現行犯あるいは準現行犯は、その者の身元は明らかでないため、そのまま逃亡すると二度と連絡などが取れない可能性があるため、逮捕の要件となり身柄を確保する必要があることになるのです。

「現行犯逮捕」も「通常逮捕」と同じく逮捕の時限は身柄を確保されてから48時間となりますが、一般人でも逮捕は可能となりますので、いつ逮捕が行われたのかが曖昧になるという問題はあります。

「現行犯逮捕」は意外と身近な出来事

先に説明した「通常逮捕」は、刑事事件の犯行自体は逮捕よりも先で、警察などの捜査機関が十分な捜査を行い、被疑者を特定して逮捕状を取って行うものです。この場合に逮捕される人は、身に覚えのない犯罪というケースという可能性はゼロではありませんが、たいていの場合はもしかして、という心当たりがあるものです。

その反面、「現行犯逮捕」で身柄を拘束されることは、いつ何時自分の身にふりかかるかもしれない出来事です。刑事事件などに縁のない一般人が、ある日突然、ケンカに巻き込まれ、暴行罪や傷害罪の疑いで逮捕されることがあります。

また、つい出来心で行ってしまった痴漢などのわいせつ行為は、強制わいせつ罪で「現行犯逮捕」されてしまいます。しかしながら犯罪が軽微であって、犯人の氏名や住居が明らかで逃亡のおそれがない場合には、「現行犯逮捕」は許されません。

「緊急逮捕」は後で逮捕状を請求

「緊急逮捕」とは、刑事訴訟法第210条1項で定められた特殊なケースで行われる逮捕です。

刑事訴訟法

第二百十条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期三年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。

「緊急逮捕」とは、例えば重罪にあたる指名手配中の被疑者を偶然発見したような場合に、逮捕状なしでも逮捕が可能だとするものです。

逮捕状の有効期限は発行日の翌日から7日間であり、容疑者が逃走中であるなどの理由で7日間を超えることはありますが、有効期限を過ぎた逮捕状は無効となるため、指名手配犯の逮捕状をあらかじめ取っておくことはできないのです。

逮捕の種類を知っておく意味は?

以上のように、逮捕には「通常逮捕」、「現行犯逮捕」、「緊急逮捕」の三種類がありますが、それぞれのケースにおいて逮捕状をめぐる刑事手続きに違いがあることを理解しておきましょう。

万が一刑事事件の被疑者となってしまった場合、あるいは家族や友人・知人が逮捕されてしまった場合に、きちんと手続き通りに逮捕が行われるかどうかは、被疑者の権利を守るために非常に重要なのです。

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