逮捕状請求・発行からはじまる逮捕の仕組みと注意点

逮捕状とは何か

ある犯罪につき疑いをかけられている人がいたとしても、誰でもいつでも捕まえられるわけではありません。法律で逮捕さることができる条件は定められており、いくつかの要件と準備をした上で行われます。
逮捕にはいくつかの種類がありますが、「逮捕状」は通常逮捕をする上で必要なものです。ここでは逮捕状とは何か、そして逮捕の仕組みや流れなどを解説します。

逮捕とは?

そもそも逮捕は、被疑者に対して比較的短い時間に身体拘束をする強制処分を言い、身柄を拘束して所定の場所に引致します。
憲法上の解釈としてはこの警察署等までの引致を逮捕の範囲としていますが、その後の留置も含めて言うことも多いです。逮捕の目的は逃亡や罪証隠滅を防止することです。
そのため、取り調べることだけを目的とすることや、再犯の防止を目的とすることは許されません。

また被疑者とは犯罪をしたと疑われている者のことを言い、一般的に用いられている「容疑者」とほぼ同義です。実際には必ずしも犯罪者だとは限らずあくまで疑いがかけられているにとどまるため、無罪である者を強制的に拘束することになる可能性も考慮し、慎重に行わなければなりません。そこで、現行犯逮捕などではなく、通常逮捕を行うためには逮捕状が必要になってきます。

逮捕状とは?

逮捕状は逮捕をするために必要なものです。「令状」の一種で、警察や検察などに対し裁判官が発する許可状という意味合いを持ちます。

ほかにも、家宅捜索に対する捜索差押許可状や、身体検査に対する身体検査令状、鑑定に対する鑑定処分許可状などがあります。
いずれも強制的に執行するもので、対象者への不当な権利侵害が起こらないよう裁判官による許可を要するのです。

逮捕は強制的に身体を拘束し最大72時間過ごすことになる可能性があり、負担も非常に大きいです。
中立の機関で、法律の専門家である裁判官が請求内容のチェックを行い不当な負担を防ぐ役割を担っています。

この考え方は令状主義と呼ばれ、基本的人権を保護するための重要な原則として憲法にも定められています。
取り調べなどによって得た供述を証拠として使うことがありますが、この令状主義に反して行われた違法な逮捕があれば、その拘束中に得られた供述の証拠としての能力は否定されることがあります。

逮捕までの流れ

1:逮捕状請求

逮捕にもいくつかパターンがあります。ひとつは令状主義に従った原則通りの逮捕で、逮捕状が必要となる「通常逮捕」です。そして令状主義の例外にあたる「現行犯逮捕」と「緊急逮捕」があります。

通常逮捕を行うためには逮捕状の準備が必要です。そして逮捕状を手に入れるには審査を要するためすぐに用意できるとも限らず、犯行から数日後に発行、そして執行されることも珍しくありません。こうした特徴があることから通常逮捕は「後日逮捕」と呼ばれたりもします。

そして、逮捕状請求の方法ですが、これは請求者の所属に対応する管轄地方裁判所または簡易裁判所の裁判官に対して行います。
請求が可能なのは検察官または司法警察員に限られ、私人はもちろん、検察事務官と司法巡査も請求権者とはなりません。警察官であっても誰もが逮捕状の請求をすることはできないのです。
これはこの強制処分が重大な権利侵害を起こす可能性を持つということに鑑みて、慎重に請求をするべきだと考えられているためです。

逮捕状請求の際には、被疑者の氏名と年齢、職業、住居、罪名と被疑事実の要旨、逮捕を必要とする理由、その他所定の事項を記載します。
ただし、氏名は必ずしも判明している必要はなく、氏名が不明であっても人相や体格その他の情報から特定ができれば良いとされています。
年齢や職業、住居に関しては不明なら不明である旨を記載すれば足ります。
また、請求時には逮捕の理由および逮捕の必要があることを認めるべき資料も提供する必要があります。この資料は疎明資料で良いとされており、つまり客観的に見ておそらく逮捕をする必要があるだろうと言える程度の資料が用意できていれば良いと考えられています。

逮捕される側の立場とすれば、請求権者が限られているものの氏名が明らかである必要がないことや疎明程度の資料があれば請求できてしまうということからやや不安に思うかもしれません。
ただしその次の段階として裁判官による具体的な審理がありますので、実際には本当に逮捕をする必要があるのかどうか、しっかりと検討されたうえで請求がなされています。

2:逮捕状の発付

逮捕状が請求されると、裁判官は逮捕状を発付するかどうかの判断を行います。
その審査にあたり裁判官は請求者の出頭を求めて陳述を聴き、または書類その他のものの提示を求めるなど、取調べを行うことができます。
通常逮捕において逮捕状を発付するかどうか、その要件は大きく分けて

  1. 「逮捕の理由」の有無
  2. 「逮捕の必要」の有無

があります。

① の「逮捕の理由」は憲法第33条が関係しています。
この条文では「逮捕の理由となっている犯罪」を明示する令状によらなければ何人も逮捕されないとあり、さらに、発生した犯罪と逮捕者が一定の関連性を持つことが確からしいと認められる必要もあるとされています。
刑事訴訟法第199条でも被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる「相当な理由」があるときに逮捕が認められており、ここでの「相当な理由」も憲法第33条における理由と同様、犯罪の存在および被逮捕者がその犯罪をしたという関連性が相当程度認められなければなりません。
逆にこの関連性(犯人性)が相当程度認められるのであれば逮捕要件のひとつを満たすということになるでしょう。

ただし、この判断は単なる主観的嫌疑では足りません。
つまり、何となくそう思えるという程度では不十分で証拠資料によって合理的かつ客観的な嫌疑でなければなりません。通常、誰が見ても同じ結論になるような資料が必要となります。
しかしながら、あまりに厳格な資料を要すると逮捕がほとんどできなくなってしまいますので、有罪判決の事実認定に要求されるほどの嫌疑である必要はありません。

②の「逮捕の必要」についてですが、刑事訴訟法において、上で説明した逮捕への「相当な理由」があったとしても裁判官が明らかに逮捕をする必要がないと認める場合には逮捕状は発せられなくなります。
具体的には、ある者がある犯罪をした者であると明白だったとしても、その被疑者の年齢や境遇、犯罪の軽重・様態、その他の事情に照らして逃亡するおそれがない、かつ罪証を隠滅するおそれもないのであれば「逮捕の必要」はなくなります。
結果として逮捕状請求は却下されます。

上でも少し説明した通り、逮捕の目的は逃亡や罪証隠滅の防止にあります。取調べや再犯防止が目的ではありません。
よってここでの「逮捕の必要」の要素として含まれることはなく、被疑者を取り調べる必要がある、もしくは再犯を防止する必要があったとしても逮捕の必要はないとして逮捕状請求は却下となります。
ただし、逃亡・罪証隠滅のおそれは明確に分かるものでもありませんので、逮捕によって得られる逃亡防止および罪証隠滅の防止という捜査上の利益の程度、これと逮捕による権利利益侵害の程度とのバランスが考慮されます。

たとえば、証拠を隠すおそれがないとまでは言えないものの、被疑者が高齢もしくは病弱なため身体を拘束することで著しい法益侵害が生じ得る場合にはバランスが保たれないとして逮捕の必要はないと判断されるかもしれません。
こうしたバランスを考慮しながら判断する考え方を比例原則と言い、この原則の観点から比較的軽い罪(30万円以下の罰金・拘留または科料にあたる罪など)に対する逮捕要件の加重や、国会の会期中における国会議員の不逮捕特権なども説明されます。

裁判官は①②の要件を満たせば逮捕状を発付します。
逮捕状には氏名等の情報、罪名や被疑事実の要旨など、そして有効期間も記載されます。原則逮捕状の有効期間は7日として定められます。

3:逮捕の執行

逮捕状が発付されればいよいよ逮捕が執行されます。
逮捕状を請求するのとは異なり逮捕の執行は捜査機関であれば幅広く行うことができます。ただし、発付された逮捕状を原則は呈示する必要があります。
また逮捕の際、逮捕の完遂をするために必要かつ合理的な範囲であれば実力行使は許されます。暴れる被疑者に対し口頭のみで制止させるのは不可能な場合もありますので、手で体を押さえつけるなどの必要最低限の行為は認めなければなりません。ここでも、どの程度の実力行使が許されるのかは比例原則に従い判断され、武器の使用も認められる場合もあります。
しかし、逮捕のために他に手段がないと思える状況でなければ危害を加えることは許されません。

逮捕状がなくてもできる例外的な逮捕

現行犯逮捕

令状主義に従い、原則的は逮捕状の請求・発行を待ち、そして逮捕状を見せた上で逮捕をしなければなりません。
しかし、常にこのルールを守っていると機動的な刑事手続を採ることができず、明らかに逮捕をする必要があるとみられる者でも逮捕をすることができないというケースがあります。現行犯逮捕がその代表です。
これは、現に罪を行っている者が目の前にいる、もしくは行い終わって間もない場合に即座に行われる逮捕のことです。

この場合、逮捕状を請求していたのでは間に合いません。
目の前で包丁を人に刺し、さらに振り回しているにも関わらず発付されていない逮捕はしない、というのであれば被害が広がってしまいます。さらにその犯行者がその発行を待ってくれるわけもなく、逃げられてしまいます。
そこで、この場合には発付を要さず、さらに警察官ではない一般人(私人)でも現行犯逮捕を行うことが許されています。

緊急逮捕

緊急逮捕とは現行犯でない被疑者に対し、事前の令状をなしに執行できる逮捕のことです。
事後的に令状審査を行い呈示することになり、現行犯逮捕と並んで令状主義の例外となります。

対象となる犯罪は、死刑または無期もしくは長期3年以上の懲役もしくは禁錮にあたる罪に限定されます。つまり重大な罪を犯した被疑者に対しては、例外的に逮捕のあとから請求するのでも良い、という制度です。

捜査機関は、その対象者が犯したと疑うに足りる「充分な理由」と、緊急事態であることから請求をしている時間がない、という要件を満たさなければなりません。
この「充分な理由」は、通常逮捕の要件とされた「相当の理由」より高度な嫌疑が求められ、より確からしい犯人性がなければなりません。

緊急執行

緊急執行は、原則通り逮捕状を請求したものの現場において逮捕状を所持しないため見せることができないというケースになります。
現に逮捕状持っていないものの、非常に急がなければならない状況であれば被疑者に対し被疑事実の要旨および逮捕状が発せられている旨を告げることによって逮捕をすることが認められます。このことを緊急執行と呼びます。
厳密には令状主義の例外ではありませんが、逮捕状を呈示しなければならないという定めに反した例外的な対応となります。

逮捕に関して注意すべき点

逃げることで現行犯の要件を満たさないようにする

現に罪を行っている、もしくは行い終わって間もない場合には私人にも逮捕されるかもしれません。
この時点では逮捕は免れませんが、罪の内容が30万円以下の罰金にあたるような比較的軽いものであれば、逃亡や罪証隠滅の恐れがなく、氏名住所も明らかなら現行犯逮捕されることはありません。

しかし、これを知らずに逮捕を免れようとして逃げ出すと、本来現行犯逮捕されないはずが逮捕要件を満たしてしまうことになります。

この規定とは別にも、準現行犯というものがあり、例えば声をかけられ呼び止められた際に逃走するとこれも現行犯と同等に扱われてしまいます。

軽微な罪であれば逃走によってかえって不利益を被ることもあり得るのです。

不利な供述をしない

逮捕された場合、取調べを受けることになります。このとき高圧的な態度で対応される可能性もあり、自白を無理強いされることもあるでしょう。
しかしその供述が正式に記録として残されてしまうと、その後刑事裁判において不利になってしまう可能性が高く、これを覆すのも難しくなってしまいます。
そのためどのような対応をしたら良いのか分からない場合には黙秘しておくと良いでしょう。

逮捕されたらすぐに弁護士を呼ぶこと

逮捕された場合に重要なのは、弁護士をできるだけ早く呼ぶということです。
今後の流れがどうなるのか聞くことや、どのような態度でどのような対応をすべきかアドバイスを得ることができるでしょう。
身内でも逮捕後すぐに面会することはできませんが弁護士ならこれが可能です。

勾留決定までされてしまうと長期的に身柄拘束が続くことになり身体的にも精神的にも負担が増してしまいます。最大20日間自宅に帰ることもできないままになってしまうのです。
弁護士を付けておけば勾留決定とならないよう、そして勾留されていたとしてもこれを止めてもらうよう働きかけるということもしてもらえます。早めに弁護士に依頼しておけばそれだけ早期釈放の可能性も高くなるでしょう。

弁護士を呼ぶ費用を気にしている人でも、当番弁護士が呼べるという制度を利用することで初回は無料でサポートが得られます。
その後当番の弁護士と相談しながら引き続きサポートしてもらうのか、別の弁護士事務所に連絡するのか、判断すると良いでしょう。
刑事事件において、弁護士は裁判のときにだけ必要な存在ではありません。
逮捕から裁判まで、一連の各手続きにおいて依頼主が取るべき行動などを教えてくれ、被害者がいる場合には示談交渉や、不起訴の獲得に向けた活動もしてくれます。

また、弁護士にもそれぞれ得意分野がありますので、弁護士に相談をするときには刑事事件に強い弁護士に相談をするようにしましょう。

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