勾留理由開示請求とは?起訴前に身柄を解放する方法はある?

勾留

刑事事件の被疑者として逮捕され、検察が勾留請求を行い裁判所に認められてしまうと、真犯人が現れるなどの特殊なケースを除き、起訴前に身柄の拘束が解かれることはほとんどありません。

被疑者の立場からすると、一日でも早く在宅捜査に切り替えてもらい、社会生活を行いながら捜査の進展を待ちたいものですが、いったん勾留が始まってしまうと、たいていは満期になるまで自宅に戻ることができないのが現状です。

そして起訴されてしまえば起訴後の勾留が行われて裁判を待つことになり、最悪の場合は有罪判決で出された懲役刑に服した後に釈放されるまで一般社会に戻れないということになります。しかし制度上は、刑事訴訟法などの法令に定められたルールにおいて、勾留を取り消して身柄の解放を実現させ、自宅に戻る方法があるのです。

その方法はいくつかありますが、代表的なものは「勾留理由開示請求」、「勾留決定に関する準抗告」、「勾留取消請求」の3つです。

本項では「勾留理由開示請求」について詳しく説明します。

「勾留理由開示請求」とは?

逮捕や勾留など、本来ならば憲法で保障されている移動の自由を奪う強制措置を実行しているのは警察や検察の捜査機関ですが、その許可を出しているのは裁判所です。そのため、裁判所が勾留の許可を取り消したとすれば、捜査機関は被疑者を釈放しなければなりません。

その裁判所に勾留の処分の取り消させる方法のひとつが「勾留理由開示請求」です。この請求は、簡単に言えば、なぜ被疑者の勾留をする必要があるのかの理由を裁判所に求め、それが法律や状況に照らし合わせて正当なものであるかどうかを改めて判断させる、というものです。

「勾留理由開示請求」は、直接勾留の取り消しを求めたり決定させたりするものではありませんが、捜査や勾留延長に慎重にならざるを得ない状況を作り出し、後の取調べや裁判において有利な展開が期待されるものです。

憲法と刑事訴訟法に規定されている

「勾留理由開示請求」は、その名の通り裁判所に対して、なぜ被疑者を勾留したのかという理由を明らかにするように要求する手続きで、憲法第34条および刑事訴訟法第82条に定められているものです。

憲法
第三十四条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。

刑事訴訟法

第八十二条 勾留されている被告人は、裁判所に勾留の理由の開示を請求することができる。
○2 勾留されている被告人の弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹その他利害関係人も、前項の請求をすることができる。
○3 前二項の請求は、保釈、勾留の執行停止若しくは勾留の取消があつたとき、又は勾留状の効力が消滅したときは、その効力を失う。

このように、憲法第34条の後段には、被疑者段階での勾留(拘禁)には正当な理由が必要であり、要求すれば公開の法廷においてその理由が示されなければならないと定められています。また刑事訴訟法第82条には、被疑者(被告人)は勾留の理由開示を請求する権利があることと、誰が請求できるのかが規定されています。

「勾留理由開示請求」の具体的な進め方

以下、具体的な「勾留理由開示請求」を行う際の手順を紹介します。

前出の刑事訴訟法第82条に定められているように、「勾留理由開示請求」を行えるのは、被疑者本人に加え、弁護人(弁護士)、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族、兄弟姉妹、その他の利害関係人とされています。

請求は書面で裁判所に対して行いますが、被疑者が勾留されている事件名と、勾留理由開示を請求する旨を記載し、署名押印が必要となります。請求を起こす期限は、勾留を受けている間ならいつでも可能ですが、「勾留理由開示請求」は当該事件において1回のみです。

「勾留理由開示」は裁判所の法廷で行われます。雰囲気はまるで裁判の本番のようですが、被疑者を裁く裁判ではなく、この際、被疑者も裁判所に呼び出され、法廷で裁判官から裁判所が勾留を決定した理由を聞くことになります。

一般的な流れでは、開廷宣言に続き人定質問が行われた後に、開示宣言となります。そして勾留の理由が開示され、弁護人による意見陳述となりますが、裁判官は具体的な意見を述べることはせず、弁護人に対して意見書を提出するように求めたり、勾留取消の手続きを行うように告げたりすることになります。

通常はこのまま閉廷となり、勾留の取り消しがここで実現するのは稀です。

「勾留理由開示請求」の狙いは?

前述の通り、「勾留理由開示請求」を行ったからといって、勾留が取り消され身柄の拘束が解かれた人はごく少数のケースに限られます。実際に行われている「勾留理由開示」の法廷では、裁判官が勾留状に書かれた勾留理由を読み上げるだけです。

それも、逃亡や証拠隠滅のおそれがあるといった、法令に定められている逮捕や勾留を許可する場合の要件が読み上げられるだけで、事件ごとに被疑者が逃亡したり証拠隠滅したりする可能性を具体的に指摘することはないのです。そのため、基本的に刑事手続きにおける「勾留理由開示請求」を行っても、法廷で裁判所が勾留の取り消しを命じるケースはめったにありません。

ただし「勾留理由開示」の法廷において、弁護人や被疑者本人が裁判所に対して、質問や意見を述べる機会は与えられていますので、ごく稀に警察や検察が無茶な捜査や取調べを行った結果、不当に被疑者を勾留していることがその場で明らかになってしまい、勾留や勾留延長が取り消される可能性はあります。

しかし平成28年度の司法統計によると、勾留状の発付は109,457件であったのに対し、「勾留理由開示請求」が行われたのは694件(被告人と被疑者合計)と、わずか0.6%なのです。この理由は、弁護士が「勾留理由開示請求」に積極的ではないためとも言われています。

「勾留理由開示」が行われる裁判所の法廷は公開の場であるため、被疑者の段階で公の場に出ることになるという側面がありますが、行っても効果がないから、という指摘があります。一方で次に挙げるようなメリットが存在するのは事実であり、弁護士と相談のうえ、少しでも可能性があるのであれば、「勾留理由開示請求」を行うことを検討してみるのも良いでしょう。

「勾留理由開示請求」のメリットは?

「勾留理由開示請求」を行っただけで裁判所が勾留を取り消すというケースは、それを体験した弁護士が得意げにブログで自慢するくらい珍しいとされています。しかし「勾留理由開示請求」を、身柄の拘束を解くこととは別の目的で行う弁護人も実在します。

まず、「勾留理由開示請求」が提出されると、裁判所は警察や検察にその時点での捜査資料の提供を要求しますから、裁判所向けに資料をまとめなければならない警察や検察は余計な仕事が増え、捜査機関への嫌がらせになると言われていることがあります。

別に嫌がらせをしたからといって被疑者側の利益になることはありませんが、優秀な弁護士がつき、一筋縄では起訴、あるいは裁判において有罪確定とはいかない事件、と思わせることが可能でしょう。

また裁判所は起訴前から事件に関する資料を見ることになるため、もし正式な裁判が始まった場合、あるいは勾留延長に対して慎重にならざるを得ません。さらに弁護人としては、捜査機関がどうやって立件し裁判に進もうとしているのかなどの方針が分かりますので、裁判に向けた対策が立てやすいというメリットもあります。

家族との対面が可能になる

以上のような司法の駆け引き以外にも、身柄を拘束されている被疑者が留置場や取調室といった閉鎖空間から一旦開放されるのは、精神的にプラスに働くでしょう。

「勾留理由開示」の法廷は普通の裁判と同じく一般の傍聴は可能ですので、いきなり逮捕されてしまい、接見も実現できなかった家族や友人・知人に顔を見せることもできるのです。

罪を犯してしまい合わせる顔がないと感じるかもしれませんが、健康状態などを心配している家族や友人・知人が応援してくれていると知れば、起こしてしまった事件についてより深く反省する機会になるかもしれません。

弁護士と相談しながら進めよう

「勾留理由開示請求」は、本来の勾留取消という目的とは違う理由で行われることが多いのですが、前述の通り現実の刑事手続きではほとんど使われない方法です。

勾留されている被疑者の身柄を解放するには、「勾留決定に対する準抗告」という手続きを行うのが一般的でしょう。しかしその準抗告を行うにしても、その前に「勾留理由開示請求」をしておくことは決して無駄ではありません。

以上の手続きは被疑者自身でも可能なのですが、法律の知識に乏しい一般人には難しく、勾留されたままで身柄の拘束を解く請求を行うのは無理だと考えた方が良いでしょう。刑事事件に詳しい弁護士に依頼するべき手続きであると言えます。

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