取調べを受ける時の心得(1)~警察官は正義の味方ではないかも?~

逮捕取り調べ

取調室とはどんなところ?

警察に逮捕された人は、その瞬間から被疑者と呼ばれ、身柄が拘束されて一般的には所轄の警察署に連行されることになります。警察署にある取調室において捜査官による取調べを受けるのですが、映画や刑事ドラマでたびたび描かれている取調べの光景を実際に体験するのです。

ただし簡単に制作されたフィクションでは、シナリオを書いている作家のほとんどが実際に逮捕された経験がありませんから、昔見た取調べシーンをなぞって描写していることも多いので、実際の取調べとは違った部分があるのも事実です。

現在の取調室には窓も卓上ライトもなく、マジックミラーがない部屋ということが多いのですし、たいていの警察署の施設は完全禁煙で、取調べ中には、取調室のドアは開けていないといけないという決まりもできました。

このように、取調室については古いイメージは取り払うべきで、実際に遵守されているかどうかは別としても、被疑者の人権を守る意識も高まっていると考えて良いでしょう。

手錠に腰縄を打たれ、狭い部屋での取調べ

連行された警察署や事件の内容によって違いますが、一般的に取調室は4畳から6畳ほどの小さな部屋で、殺風景な場所であるということはイメージと変わりはありません。しかし近年、密室状態での取調べは禁止されたため、取調室のドアは開けられたままになっています。

プライバシーを守るためにパーティションなどで外から見えないように工夫がなされていますが、ドアが閉めきられて誰にも助けを求められないような状態ではないことがほとんどです。そのため取調室は、外部とは一切の連絡を絶たれて空気もよどんでいると感じられる留置場よりは、少しは開放的な気持ちになるかもしれません。

反面、取調室は外部にも出ていける場所という理由から、留置場を出る際には手錠を付けられて腰縄を打たれるという状態にされ、また居室に戻ってくるまで外されることはありません。決して居心地の良い場所ではありませんが、留置場で長時間放置されているよりも、取調室で捜査官と話をする方が、気がまぎれるという人もいるでしょう。

そもそも、取調べは受けなければいけないのか?

刑事事件の被疑者として逮捕された時、一般的には犯人が捕まったわけですから、取調べは当然のように受けなければならないというイメージが持たれています。

取調べについては、刑事訴訟法で次のように規定されています。

刑事訴訟法

第百九十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
○2 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
○3 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
○4 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
○5 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。

この条文に「但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる」とあり、これを反対解釈し、逮捕されている被疑者は取調べに応じる必要があるとするものです。

しかし一方で憲法第38条には、次のように黙秘権が規定されています。

憲法

第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
○2 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
○3 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。

このように、「何人も、自己に不利益な供述を強要されない」わけですから、必ずしも取調べに応じる必要はないという見方もあります。

警察や検察という刑事事件の取り締まりを行って犯人を逮捕する側とすれば、刑事訴訟法の解釈に基づいて取調べは行われるべきだと主張し、被疑者にとっては人権を第一にする憲法の定めによって守られるべきだと考えるでしょう。

そのため、手錠と腰縄姿で取調室まで連れて行かれるのは仕方ないとしても、そこで捜査官の求めに応じて供述する必要はないと考えることもできるのです。

しかしこの件については被疑者個人で最適な判断をすることは難しく、事件の内容によっても対応方法が変わってくるため、法律の専門家である弁護士にアドバイスを求めるべきでしょう。

捜査官はあの手この手で取調べを行う

刑事事件の被疑者に対する取調べは捜査官2人で行われ、1人が怒鳴ったり机を叩いたりして威圧的な態度で被疑者を追い詰め、もう1人の捜査官が荒ぶる相棒をなだめて優しく被疑者に接するというようなシーンが、よく刑事ドラマで見られます。

社会情勢の変化に伴い、被疑者を暴力的に追い詰めるような取調べは禁止される方向にありますが、このような硬軟合わせた取調べの手口は、実際の現場でも結構行われているようです。

オープンになっているとはいえ密室に近い取調室で孤立している被疑者を、1人の捜査官が威圧的な態度で追い詰め、もう1人が優しく理解のある態度で接すれば、被疑者はその相手が味方であると印象づけられてしまいます。そこで被疑者から信用を得た物腰の柔らかな態度の捜査官が、被疑者を説得して自白を引き出すのです。

ただし警察の捜査官すべてがこのような取調べをしているわけではなく、取調べの方法はある程度現場の裁量に任されていて、2人で威圧的な態度で臨み被疑者を締め上げることも、1人で被疑者と懇々と向き合うこともあるなど、さまざまな取調べの方法があるようです。

警察は正義の味方とは限らない!

どんなタイプの捜査官が刑事事件の担当になっても、共通して言えることは、相手の言いなりになってはいけないということです。もし実際に逮捕された容疑の罪を犯していたとしても、事実だけを認めるようにしましょう。

警察の捜査官は決して正義の味方ではなく、自分たちが作り上げた犯罪のシナリオに基づき、被疑者から証拠となり得る証言を引き出し、裁判において有罪となるための供述調書を作成するのが仕事なのです。警察は時として、ある罪を犯したという疑いで逮捕した被疑者を、未解決の同種事件の被疑者として余罪をあたってくる場合もあるのです。

正義の味方である警察がそんな無茶をするわけがないと思いたいところですが、刑事事件の現場では、警察官は被害者の味方という方が正しく、少なくとも被疑者の味方であるとは言えません。被疑者の味方になってくれるのは、弁護士だけなのです。

捜査官も組織の中の社会人

警察官は、一般の会社員と同じく、組織に属する社会人です。職務上で検挙率のアップを求められる中、管轄内で起きた未解決事件と手口が似ていれば、余罪の追求を行うというのは自然な判断だとも言えます。仮に被疑者自らの自白がなくても、あたかも自白したかのように取調べで誘導され、「やったこと」と断定されてしまう恐れさえあるのです。

捜査官の言いなりになって、逮捕されたら終わりだと自暴自棄になって言われたことをすべて受け入れていると、身に覚えのない罪を被せられて罪が重くなってしまうリスクがあるのです。取調べでは、ただ言われるがまま捜査官に誘導されるのではなく、犯した罪の事実だけを認め、たとえ些細な点であっても事実ではない部分はきっぱり否定することが大切です。

身に覚えのない罪は絶対に認めないこと!

逮捕された容疑そのものに身に覚えのない場合は、絶対に罪を認めてはいけません。警察や検察は、自ら描いた事件のシナリオを被疑者に認めさせようとして、徹底した追及を行ってきます。

相手は言わば追求のプロであり、近年の取調べでは、さすがに殴る蹴るの暴力を振るうことはないとされていますが、被疑者は精神的に追い詰められることになってしまいます。中には、罪を認めればすぐに帰れる、認めないと何日も留置場にいることになると自供を迫る捜査官がいるかもしれません。

普通の社会生活を過ごしていていきなり逮捕され、やってもいない犯罪を、早く帰りたいがために認めてしまうという精神状態に追い込まれても不思議ではないのです。たとえ比較的軽い犯罪であっても、有罪となれば一生その罪を背負って生きていかなくてはならないのです。

やってもいない罪を認めて早く社会に帰っても何の得もありませんから、いち早く弁護士に相談し、身に覚えのない罪への追求には屈しないようにアドバイスを受けましょう。冤罪は絶対に起こしてはいけません。

取調べの適正化への取り組み

前述の通り、密室での取調べは禁止されています。

違法な取調べが横行し、それを根拠として無罪判決が続いたことから、警察庁は2008(平成20年)に「警察捜査における取調べ適正化指針」を発表し、不適切な取調べが行われないような取り組みを進めています。

同指針によると、次に掲げるような行為を取調べにおいて行ってはならないとされています。

  • 被疑者の身体に接触すること(やむを得ない場合を除く)。
  • 直接又は間接に有形力を行使すること。
  • 殊更不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動をすること。
  • 一定の動作又は姿勢をとるよう強く要求すること。
  • 便宜を供与し、又は供与することを申し出、若しくは約束すること。
  • 被疑者の尊厳を著しく害するような言動をすること。
  • 一定の時間帯等に取調べを行おうとするときに、あらかじめ、警視総監若しくは道府県警察本部長(以下「警察本部長」という)又は警察署長の承認を受けないこと。

もし以上のような取調べを受けたとしたら、弁護士に訴えて取調べの適正化を求めるべきでしょう。この指針の存在を知っておくことも、不適切な取調べが行われたと主張するために必要です。

取調べの可視化も進められている

「言ってもいないことを供述調書に書かれた」「事実と違うことが書かれた調書への署名を強要された」といった不正な取調べや不適切な証拠作成が問題となり社会問題化したため、2016(平成28)年に改正刑事訴訟法が成立し、取調べの全過程の録音録画制度の導入が進められることになりました。

密室での取調べは冤罪を生む原因となるため、取調べを録音録画するものですが、まだ義務付けられているのは裁判員裁判対象事件と検察独自捜査事件に限られ、全事件の3%未満です。より幅広い同法の適用が求められるところです。

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