弁護人とは~私選弁護人、国選弁護人、当番弁護士の違いと依頼方法~

ビジネスマン3人

刑事事件に関わる弁護士の種類

刑事事件において、被疑者や被告人の手続きを代行したり、弁護活動をしたりする人は弁護人と呼ばれます。弁護人になれるのは、基本的には弁護士資格を持っている、弁護士を職業としている人です。

ただし、裁判において極めて特殊な専門知識が必要な場合、弁護士以外の人でも被告人の弁護人になれるので、弁護人は必ずしも弁護士資格を持っているとは限りません。しかし刑事事件の裁判では、特殊な専門知識が必要なケースは少ないので、万が一刑事事件で被疑者や被告人になってしまったら、弁護人として雇うのは普通の弁護士で良いと考えられます。

また、刑事事件手続きの説明をする際に、弁護人と弁護士という言葉が混同されて使用されていることがありますが、法律上の言葉の違いであるため、手続きや弁護を依頼する際には特に区別を意識する必要はないでしょう。

依頼方法で弁護士の呼称が変わる

基本的には弁護士が被疑者や被告人の立場に成り代わり刑事事件手続きを進めたり、さまざまな弁護活動を行ったりするのですが、その依頼のタイミングや依頼方法で、弁護士の呼称が変わってきます。

被疑者や被告人が関わる弁護士は、選任や依頼の方法より、私選弁護人、国選弁護人、当番弁護士と呼ばれるようになります。簡単に言えば、被疑者や被告人が自身で選んで依頼するのが私選弁護人で、国に選んでもらうのが国選弁護人、当番弁護士制度で1度限り相談をしてもらうのが当番弁護士となるのです。

弁護人と代理人

弁護人という呼称を使うのは、刑事事件に限られます。これも法律上での言葉の違いですが、民事事件においては、弁護士が被疑者や被告人の代理をするために選ばれた弁護士は、代理人と呼ばれます。そのため、民事事件でも被疑者や被告人のために弁護士が活躍するのは同じなのですが、弁護人という言葉は使われません。

私選弁護人とは?

私選弁護人とは、刑事事件において被疑者や被告人、あるいはその関係者自身で探し出し、その依頼者の費用で選任する弁護士です。契約を結んだ瞬間から被疑者や被告人はその弁護士にとってクライアントとなりますから、まだ事件の捜査が自分自身に及んでいない、逮捕される被疑者以前の段階から契約を結ぶことも可能になります。

事前に契約をしておけば、警察に踏み込まれて逮捕された時、「弁護士に電話する」と連絡を取り、契約を結んでいた弁護士からのアドバイスもすぐにもらえるのです。しかし刑事事件の被疑者として逮捕されるかもしれないといって弁護士と契約を結ぶということはほぼありませんので、例えば会社を経営していて、顧問弁護士として既知の仲である人にアドバイスを求めるのが現実的なところでしょう。

弁護士は資格があれば、刑事でも民事でも手続きや弁護活動を行ってもらうことは可能なのですが、弁護士によってその分野の得意不得意、経験の有無はさまざまですので、あらかじめ知っている弁護士であっても、その人が弁護人として適切かどうかは不明です。

私選弁護人のメリット・デメリット

前述の通り私選弁護人の選任はいつでも可能ですから、逮捕前から刑事事件手続きのアドバイスをもらうことができます。また犯してしまった罪が軽くても重くても選任が可能で、時間があれば信頼できる弁護士を選ぶ余裕があり、必要であれば複数の弁護士に相談し最も適している人を弁護人とすることもできます。

弁護士を選ぶ際に重要となってくる相性も、複数の弁護士とコンタクトすることで吟味することができ、もし合わなければ弁護士を代えることも可能です。そして私選弁護人はクライアントである被疑者や被告人に対し、親身になって活動を行ってくれることでしょう。

私選弁護人を選任することのデメリットは、弁護士費用が必要となること以外はあまり考えられません。

国選弁護人とは?

国選弁護人とは、よくドラマや小説の題材にもなり、ニュースでもたびたび見聞きするワードですから、名称だけは知っている方も多いと思われますが、その言葉通り国が被疑者と被告人に対して選んだ弁護人です。

例えば刑事訴訟法第289条には、重い罪にあたる事件には、必ず被告人に弁護人をつけて裁判をしなければならないという規定があります。

刑事訴訟法

第二百八十九条 死刑又は無期若しくは長期三年を超える懲役若しくは禁錮にあたる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできない。
○2 弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないとき若しくは在廷しなくなったとき、又は弁護人がないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければならない。
○3 弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないおそれがあるときは、裁判所は、職権で弁護人を付することができる。

私選弁護人を選任できる被告人は問題ないのですが、弁護士費用は一見すると安価なものではなく、逮捕されて身柄が拘束されて仕事もストップしている被告人にとって、簡単に払えそうな金額ではないと思われます。

そのため、経済的な理由によって弁護人を選任できない被告人には、弁護士費用を国が負担して弁護人をつけるという、国選弁護制度があり、その制度を利用して選任した弁護士が国選弁護人と呼ばれます。

この国選弁護制度は、かつて被告人のためだけでしたが、2016年の法改正により勾留される被疑者にも選任することが可能となりました。

国選弁護人のメリット・デメリット

国選弁護制度を利用することの最大のメリットは、費用負担がないことです。私選弁護人では接見に来てもらうだけでも費用が必要な場合があり、一時的に高額な着手金や報酬金が必要となりますので、被告人にはかなりの負担になることがあります。

金銭的に厳しい状態の被疑者や被告人にとって、国選弁護制度は非常に有り難いものだと言えます。また日頃弁護士に縁がなく、どうして探せば良いのか、どういう基準で探せば良いのかが分からない人も多いと思われますが、国が代わりに選んでくれるのですから、迷う必要がありません。

反面デメリットとしては、制度を利用する基準が厳しいことが挙げられます。国選弁護制度を利用するためには資産を申告せねばならず、概ね50万円以上あると利用が不可となります。現預金や有価証券などが50万円以下というのは、逮捕されるような状況の人ならばありがちかもしれませんが、処分可能な資産が50万円以下というのは、なかなかハードルが高いものでしょう。

そして国選弁護人となる弁護士にとっては、直接選任されたわけでもなく、また国選の案件は国から出る報酬が低いという話もあり、いくら有能な弁護士でも、なかなか全力を注いで弁護活動を行うというモチベーションが持ちにくいかもしれません。中には選任されたからには被疑者や被告人のために全身全霊弁護活動を行うという弁護士もいると思いますが、国が選ぶわけですから、ある意味で運任せになってしまいます。

国選弁護制度の経緯

国選弁護人に関しては、刑事訴訟法だけではなく、憲法第37条にも定められています。

憲法
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
2 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
3 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。

しかしこの条文では国選弁護人を雇えるのは被告人だけであり、補足する意味で刑事訴訟法第30条には、まだ起訴されていない被疑者に対しても弁護人を選任できる旨が定められています。

刑事訴訟法

第三十条 被告人又は被疑者は、何時でも弁護人を選任することができる。
2 被告人又は被疑者の法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹は、独立して弁護人を選任することができる。

かつては起訴される前の被疑者は、国選弁護人を選任することはできませんでした。実は逮捕直後の身柄の解放を始めとして、刑事事件に巻き込まれた人にとって、被疑者段階の状態こそ、法律に詳しい専門家のアドバイスが必要なのです。

起訴された後に弁護人が登場しても、その時には既に警察や検察のペースに乗せられて、取り返しのつかない供述調書が作成されてしまい、実際より重い刑罰になってしまったというケースは枚挙の暇もなかったのです。そして冤罪が生まれてしまうのも、被疑者の段階で弁護人からの適切なアドバイスが得られなかったことが、遠因となっていたと言えるでしょう。

この不公平な司法制度を改善するため、日本弁護士連合会などが国に働きかけ、被疑者段階でも国選弁護人を選任できる被疑者国選弁護制度が2006年から実施され、当時は死刑、無期懲役、懲役3年を超える刑を求刑される可能性がある罪であれば、国選弁護人を雇えるようになりましたが、現在では被疑者すべてに国選弁護制度の利用が可能となっています。

当番弁護士とは?

当番弁護士制度とは、満足な法知識もなしに警察や検察に対峙しなければならない被疑者の不利を、少しでも解消するために日本弁護士連合会と全国の弁護士会が行っている制度です。具体的には、法律の専門家である弁護士が、逮捕後に1回だけ無料で、身柄が拘束されている留置場まで面会に訪れ、刑事事件手続きの相談に乗ってくれるというものです。

一般的に弁護士は、弁護士事務所に赴いて相談するだけでも時間単位の費用が相談料としてかかるのが普通ですが、被疑者が身柄を拘束されている留置場まで面会に来て、法律相談に乗ってくれる、非常に便利な制度です。

当番弁護士のメリット・デメリット

刑事事件で逮捕された直後に当番弁護士を依頼すれば、かなり早い段階から手続きの相談が可能で、罪の軽重、資産の有無といった条件もなく、身柄が拘束されているということが唯一の条件です。

逮捕された自分がこれから何をされ、いつまで身柄拘束を受け、どうすれば自由になれるのかなど、初期段階から専門家に無料で相談することができるのは、非常に有用で利用しない手はないと思われるほどです。しかし、当番弁護士も国選弁護人と同じく、どのような弁護士が来るのかは運任せで、1回きりの面会で、すべての手続きを理解するのは難しいと考えられます。

迅速に行動し親切丁寧な弁護士が来てくれれば良いのですが、中には呼んでもなかなか来てくれなかったり、説明が下手な弁護士もいたりするという話があります。それでも、知識がゼロよりは少なくとも自分がこれからどうなるのか、くらいは知っておいた方が良いので、私選弁護士の当てがなければ、必ず利用したい制度です。

状況に合わせて使い分けを

以上のように、刑事事件で逮捕され被疑者や被告人になってしまった場合に関わりを持つ弁護士は、私選弁護人か国選弁護人、そして当番弁護士ということになります。

最初から私選弁護人を選任できるネットワークや資金があれば、すぐさま私選弁護人に連絡を取ってもらうことをお勧めします。また知り合いに刑事事件の得意な弁護士がいない場合は、まず当番弁護士を呼んでアドバイスをもらい、その弁護士が気に入ったら私選弁護人として契約するというのも良い方法でしょう。

刑事事件の手続きは、警察や検察のような捜査側の人間は初動が肝心と言いますが、逮捕され取調べを受ける側も最初が肝心なのです。状況に応じて、的確に弁護士を選び、助けを求めることをお勧めします。

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