着衣の女性を、服の上から撮っても盗撮になる?

着衣の女性を撮影

服の上から女性を盗撮しても捕まるのか?

盗撮と聞くと、女性の下着やトイレ内の様子を撮影する犯罪というようにイメージされる方も多いでしょう。もちろん、盗撮の容疑で立件される事案の多くは、皆さんが想像されるこのような典型的なパターンが大半です。しかし、最近では、着衣女性をそのまま撮影しただけでも盗撮の容疑で逮捕される事案も増えています。

そこで、今回は着衣女性を盗撮した場合に、どのような根拠に基づいて立件されることになるのか、着衣状態を撮影しているだけで逮捕されるのは、果たしてどのような法的根拠に基づくのか、実際に着衣女性を盗撮した事例でどのような判決となったのか、ということについて解説します。

東京都の迷惑防止条例の条文

盗撮を規制しているのは各都道府県の迷惑防止条例です。都道府県ごとに内容に微妙な差異はありますが、ここでは東京都が定める迷惑防止条例を紹介します。

東京都が定める迷惑防止条例

(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)
第5条
第1項 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。
1号 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
2号 次のいずれかに掲げる場所又は乗物における人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
イ 住居、便所、浴場、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所
ロ 公共の場所、公共の乗物、学校、事務所、タクシーその他不特定又は多数の者が利用し、又は出入りする場所又は乗物(イに該当するものを除く。)
3号 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。

典型的な盗撮事案に対する適用法令

電車の中でスカート内部にスマートフォン搭載カメラを差し向けたり、公衆トイレに盗撮機械を設置したりしたというような事案は、第5条1項2号に触れることになります。

明示的に規定されている通り、イやロの場所で、「通常衣服で隠されている下着又は身体を」撮影する行為は、典型的に人を著しく羞恥させたり、不安を覚えさせたりする行為であると考えられることから、分かりやすく条例で規定されているというわけです。

着衣女性を撮影する事案に対して適用可能な法令とその考え方

それでは、着衣女性を撮影した場合はどのように考えればよいのでしょうか?

先程の第5条1項2号では、「通常衣服で隠されている下着又は身体を」撮影する行為が禁止されているだけです。着衣女性の姿を撮影したとしても、衣服姿は「通常衣服で隠されている下着又は身体」には当てはまりません。それにもかかわらず、なぜ盗撮事案として立件されることになるのでしょうか?

この疑問に対する答えは、第5条1項3号にあります。迷惑防止条例第5条1項という条文は、人を辱めたり不安を覚えさせたりするような行為全体を規制するものです。1号の痴漢行為、2号の下着等に対する盗撮行為というものは、人を辱めたり不安を覚えさせたりするような行為の中でも典型的なものです。

このような典型的な行為類型は、分かりやすく明示した方が賢明だという判断から1号、2号でそれぞれ規制されるという形が取られています。しかし、人を辱めたり不安を覚えさせたりするような行為は、痴漢行為や下着等の盗撮行為だけに限られたものではありません。

これらはあくまでも例示でしかなく、他の行為によっても人は辱められたり不安を覚えさせられたりするケースはあるはずです。1号や2号以外のもので、このような形で人に迷惑をかけるものについては、網羅的に第5条1項3号でカバーしようと考えるのが、迷惑防止条例第5条1項の趣旨であると考えられています。

したがって、第5条1項3号に定められるように、痴漢行為や典型的な盗撮行為類型に該当しない犯行であったとしても、「人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動」をしたと評価される場合には、迷惑防止条例違反として逮捕されることになるというわけです。

着衣女性の盗撮についての裁判例

ここまでの説明で、女性の着衣内に対する盗撮行為でなかったとしても、「公共の場所又は公共の乗物において、卑猥な言動」をしたと評価される限りで逮捕されるケースがありうるということをお分かり頂いたと思います。

では、どのようなケースにおいて、「卑猥な言動」であると考えられるのでしょうか?北海道が定める迷惑防止条例に関してのものですが、最高裁判所が「卑猥な言動」に対する考え方を示した事件があります(最決平成20年11月10日)。ここでは、実際の裁判例も紹介しながら解説します。

事件の概要

事件の概要は、まさに今回テーマとしている着衣状態の女性に対する盗撮行為が問われたものでした。

被告人が、ショッピングセンター内で27歳の女性客の後ろを執拗につきまとい(少なくとも5分間、距離にして40メートル以上)、デジタルカメラ機能搭載の携帯電話でズボンを着用した女性の臀部を至近距離(1~3メートルの距離)から11回撮影しました。衣服内部を盗撮したわけではないために、典型的な盗撮類型には該当しません。そのため、この行為が、迷惑防止条例に定められる「卑猥な言動」に該当するかが問題となりました。

裁判所の判断

最高裁判所は、「卑猥な言動」とは、「社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」であると解釈しました。確かに、街中では多数の人が常に往来しています。その人たちの姿をただ見やるだけならば、法的に卑猥性が認められる程度には至らないでしょう。

しかし、しつこくつきまとって何度も至近距離から撮影するという行為は、当然撮影された女性側が辱められるものでしょうし、不安な気持ちにもされるでしょう。他人の臀部を至近距離から複数回撮影する行為自体、そもそも性的道義観念に適った行為であると考えるには無理があることです。本件でも、有罪の判決が確定することになりました。

したがって、スカート内部や、トイレ内部の盗撮行為のような典型的な盗撮行為ではありませんが、本件のような着衣女性に対する盗撮行為も、事情によっては迷惑防止条例違反として有罪となりうることになります。

着衣女性の盗撮に関する他の事案

着衣女性に対する撮影行為が迷惑防止条例違反として立件されたのは、上で説明した事案だけに限られません。

たとえば、ショッピングモール内で買い物中の女性(細身のズボンを着用)を約5メートル後方から数十秒間にわたってスマホで動画撮影をした事案でも、この行為が「卑猥な言動」に該当するとして迷惑防止条例違反として逮捕されています。

この事案では、先程の事案と異なり、臀部のみを特にピックアップしたわけではありません。しかし、スタイルの良い女性などを特に選んで後ろ姿を撮影する行為は、明らかに性的道義観念に反するものですし、被害女性が羞恥心を感じることになるような撮影内容と言えるでしょう。

犯人も犯行を認めているという事情もあいまって逮捕に至ったと考えられます。他にも、飲食店舗内で他の女性客の全身を一度だけ撮影した行為、チアダンスの練習中の女子高生の太ももを撮影した行為など、着衣女性に対する盗撮行為が立件されたケースは数多く存在します。

着衣女性の盗撮事件で考慮されること

卑猥な言動」とは、「社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな言語又は動作」でした。もしも仮に、ショッピングモール内においてこの女性を撮影する行為であったとしても、10メートルほどの距離から全身を1回だけ写真撮影したケースならどのように判断されるでしょうか?

なぜその女性を撮影する必要があったのか、常識的に考えると疑問が残るような気はします。しかし、至近距離とは言えないところから、1回だけ写真を撮った。しかも、特に臀部等の性的欲求に呼応するような部位を撮影したわけでもないのであれば、女性が被害を訴えたとしても迷惑防止条例違反での立件は難しいかもしれません。「卑猥な言動」に該当する可能性はあるものの逮捕の必要があるという段階に至っているとまでは言えない、と判断される可能性が高いでしょう。

以上のように、確かに着衣女性に対する撮影行為も、場合によっては「卑猥な言動」に該当すると判断されることもあるでしょう。しかし、どのような部位を撮影したのか、画像なのか動画なのか、どれだけの回数・時間盗撮したのか、撮影に至るまでにつきまとい行為があったのかどうか、被写体との距離はどの程度離れていたのかなど、諸般の事情が考慮された結果、「卑猥な言動」には該当しないと判断さるケースも往々にしてあり得ることです。

着衣女性の盗撮で逮捕されたら弁護士に相談!

スマホに高性能カメラが搭載され、非常に便利な世の中になっているのに間違いはありません。しかし、その便利さから、僅かながらの出来心で安易に盗撮行為に手を染めることができる状態に置かれているのもまた事実です。安直な撮影行為が、モラル違反の次元を超えて犯罪であると評価されうる時代であるとも言えるでしょう。

しかしながら、以上でご説明したように、着衣女性に対する撮影行為であったとしても、事情によっては迷惑防止条例違反で逮捕される可能性があります。事案ごとの細かな事情が捜査機関の判断に影響を与えるものですし、それゆえに被害女性の被害感情を捜査機関が重視しがちな傾向も否定することはできません。本当に景色を撮影していただけなのに、たまたま映り込んでしまった女性が被害を訴えてしまい、捜査機関がその感情を重視してしまった場合であっても、盗撮の被疑者として逮捕されてしまう可能性もあります。

着衣女性に対する盗撮は、判断が非常に難しいものです。したがって、万が一容疑をかけられた場合には、できるだけ早い段階で盗撮事件に強い弁護士に相談して、プロから法的な助力を得るようにしましょう。

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