逮捕後、警察の捜査官が作成する書類。弁解録取書と2つの供述調書(事実の調書と身上調書)

書類

警察に被疑者が逮捕されると、警察署への連行後まず弁解録取が行われ、その内容に基づき「弁解録取書」が作成される。
その後、取調べが始まり警察官は「供述調書」の作成を始める。供述調書として作成されるのは、たいていの場合「犯罪に関する事実の調書」と「身上調書」の2種類となる。
供述調書は、後の裁判において重要な証拠となるため、少しでも事実と異なる点があれば、署名押印を行ってはならない。

被疑者の逮捕後に作成される書類とは?

逮捕の現場を描いたドラマやマンガなどでは、捜査官や警察官が逮捕した後の場面を細かく紹介しているものはほとんどありません。

逮捕された側の視点でストーリーを描いている場合でも、逮捕された後はいきなり留置場へ入れられているシーンとなる場合が多く見られます。

しかし現実の刑事手続きでは、逮捕後に警察署へ連行した被疑者をそのまま留置場に入れてしまうことは滅多にありません。

弁解録取書

警察署への連行後、最初に行われる弁解録取

留置場に入れる前、被疑者が警察署に連行されるとまず行われるのが弁解録取です。

弁解録取では、まず警察官側から逮捕の理由となった犯罪事実の要旨と弁護士を選任できる旨が説明されます。その上で、被疑者は被疑事実に対して弁解を行う機会が与られます。

弁解録取は被疑者と対面で行われるのが通常です。
録取された被疑者の意見・弁解は「弁解録取書」に記載されます。

被疑者に弁解録取を行い、弁解録取書を作成する法的根拠

警察が逮捕状を取り、被疑者を逮捕した後、弁解録取を行うことの法的根拠は、下記の刑事訴訟法203条に規定されています。

刑事訴訟法

第二百三条 司法警察員は、逮捕状により被疑者を逮捕したとき、又は逮捕状により逮捕された被疑者を受け取つたときは、直ちに犯罪事実の要旨及び弁護人を選任することができる旨を告げた上、弁解の機会を与え、留置の必要がないと思料するときは直ちにこれを釈放し、留置の必要があると思料するときは被疑者が身体を拘束された時から四十八時間以内に書類及び証拠物とともにこれを検察官に送致する手続をしなければならない。

供述調書

逮捕された被疑者から聞き取った供述を記録する書類

取調室では、担当の警察官が被疑者から容疑や事件に関する証言を聞き出し、それを「供述調書」と呼ばれる書類にします。

「供述調書」は、被疑者が話した(供述した)内容を聴き取り、パソコンを使ってまとめる形で作成されます。

警察での取調べを通じて、供述調書として、通常は

  • 犯罪に関する事実の調書
  • 身上調書

の2種類が作成されます。

供述調書は、後の刑事裁判の際の証拠にもなる、非常に重要な書類となります。

被疑者の取り調べを行い供述調書を作成する法的根拠

警察が取り調べを行い「供述調書」を作成することの法的根拠は、下記の刑事訴訟法第198条に規定されています。

刑事訴訟法

第百九十八条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。

○2 前項の取調に際しては、被疑者に対し、あらかじめ、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げなければならない。
○3 被疑者の供述は、これを調書に録取することができる。
○4 前項の調書は、これを被疑者に閲覧させ、又は読み聞かせて、誤がないかどうかを問い、被疑者が増減変更の申立をしたときは、その供述を調書に記載しなければならない。
○5 被疑者が、調書に誤のないことを申し立てたときは、これに署名押印することを求めることができる。但し、これを拒絶した場合は、この限りでない。

検察官も作成する供述調書

供述調書は警察官のほか、検察官が作成するケースもあります。
警察が作成する供述調書は「員面調書(司法警察員面前調書)」と呼ばれ、検察官が作成する供述調書は「検察官面前調書(検面調書または検察官調書)」と呼ばれます。

逮捕後に作成される書類「弁解録取書」の内容は?

被疑者が逮捕された直後に作成が始められるの が、「弁解録取書」(通称:弁録)です。

この「弁解録取書」は、刑事事件の容疑に対して被疑者が主張を行う最初の言い訳 と分と言ってもいいかもしれません。

被疑者による事件の認否と言い分を10~15分程度で録取する

弁解録取書に記載されるのは、「自分の犯行に間違いない」「自分はその犯罪をやってない」といった被疑事実の認否が中心となります。
実際には、警察署への連行後10~15分程度の範囲で行われる手続きで、ここで書類に記録されるのは、犯罪に対する被疑者の認否とわずかな言い分だけです。

弁解録取で行われるのはあくまで被疑者からの「弁解」であり、犯罪事実の核心に触れる内容は、弁解録取書には記載は行いません。

犯罪の内容や発生の経緯、動機などは、取り調べの上で作成される供述調書に記載することになっています。

取り調べを経て作成される書類「供述調書」の内容は?

逮捕後の取調べで作成される「供述調書」には、「犯罪に関する事実の調書」と「身上調書」があります。

犯罪に関する事実の調書

犯罪に関する事実の調書は、その言葉の通り、どういう犯罪内容なのか、実際のところについて、取調べで得た供述をまとめた調書です。

犯罪に関する事実の調書は、起こした犯罪の内容、犯罪を起こした原因、事件後の行動など、事件内容に応じて、分けて録種を行うことが一般的です。

そのため、ひとつの事件につき、複数の調書で構成されるのが通常です。

身上調書

「身上調書」とは、簡単に言えば調書形式で作る履歴書のようなモノです。

生まれた場所はどこで、どの学校に通い、どんな仕事をしてきたかといった、履歴書に書くような内容を供述形式で作る調書です。

警察が捜査を進めるうえで、誰の証言を取るのか、交友範囲はどのようなものか、生活範囲はどこかなど、重要な手がかりを見つける鍵が潜んでいる可能性が高いと考えられ、調査は行われます。

現行犯以外の場合、身上調書は逮捕前に「ほぼ完成」しているケースも

ただし、実際のところ、現行犯の場合を除いては、身上の取り調べでわかるような内容は警察側も逮捕前に把握している方が一般的です。

そうした場合、被疑者が逮捕された時点で身上調書はほぼ完成した状態で、わからないところだけを質問して穴埋めしていく形で身上調書が作成されることもよくあります。

「供述調書」の内容は出来上がりを見て初めてわかるもの

これら「犯罪に関する事実の調書」や「身上調書」は、いくつか作成される調書のひとつであり、取調べを行う担当者は「これから、身上調書作成のために生い立ちを聞きます」などと、いちいち作成する調書の呼び名までは教えてくれません。

そのため、取調室で取調べを担当する警察官からあれこれ質問され、最終的に作られる調書をみて初めて理解できるものです。

取調べ・調書作成時に取るべき態度は

実際に罪を犯したなら素直に応じるのがベター

取調べに素直に応じるか、黙秘するか?

テレビや映画でおなじみのシーンですが、警察官は取調べを始める前に「あなたには黙秘権があります」と告げてきます。

自分に不利な証言は行わなくてよいということですが、実際に罪を犯している場合には、素直に取調べに応じた方がいいでしょう。

取調べを行う側の心証が良くなるのはもちろん、「供述調書」には反省の言葉が記載されることになるでしょう。

後の裁判においても、反省の色が見えるのか見えないのかは、量刑に差がつくことが考えられます。

納得できないなら黙秘・否定の意思をハッキリと

反面、身に覚えのない罪で逮捕されていたり、警察の言い分があまりにも自分に不利であったりした場合などには「黙秘します」「違います」「わかりません」と言い切ることが大切になってきます。

しかし、たいていの場合は初めて一人きりで取調室に入れられ、百戦錬磨の警察官と向かい合うことから、思うような言葉が出てこないこともあるでしょう。

そのような場合には、弁護士の力を借りることを思い出しましょう。

取調べで嘘をついてもいいの?

本当は罪を犯しているのに、被疑者が嘘をついて容疑を否認した場合はどうなるのでしょうか。

被疑者自身が裁判で罪を認めれば、「弁解録取書」で嘘をついた件に関しては非難されるようなことは、表面上はあまりないかもしれません。

しかし、たとえ罪を認めることに対する恐怖心があったが故の嘘でも、警察や検察、そして裁判所は温情を持った判断をしてくれるとは限らないのです。

心証が悪くなるようなことは避けるべき

逆に「弁解録取書」で容疑を認めておいて、その後否認に転じると、警察も検察の検事も激怒することでしょう。

更に裁判所も「あなたの言う事は信用できない」と感じ、非常に心証が悪くなってしまうわけです。

本当はやっていないのに「弁解録取書」で罪を認めるという事は、誰かをかばっているとか、司法側の人間を納得させるだけの理由がなければ、ただ証言が不利に働くだけです。

罪を認めていた人間が、裁判の法廷で突如無罪を主張して、それが認められるなどという展開は、ドラマや漫画の世界でしかあり得ないのです。

逮捕容疑や内容に不同意の時、書類に署名押印しないこと!

「供述調書」には、被疑者が署名押印を行うことで初めて、その内容は後の裁判における重要な法的証拠となります。

日本の司法では、自白を重視する傾向にあるため、逮捕後に作成される「供述調書」の内容を認めたということは、そこに書かれた罪を認めたと同じことにされてしまうのです。

被疑者には、認められない内容の供述調書には、署名押印をしない権利が認められています。

そのため、自分の身に覚えのない罪が書かれていた場合には、絶対に署名押印をしないことが重要です。

一度認めてしまった内容は、その後に訂正することは非常に難しいということを知っておきましょう。

問題があれば、訂正を要求すること!

「供述調書」はパソコンで作成されますが、後の改ざんを防止するため必ず印刷を行い、被疑者の前で読み上げが行われます。

何も問題がなければ、印刷された「供述調書」に被疑者が署名押印を行い、法的な証拠として取り扱われます。(実際の押印は左手の人差し指の指印で行われるのが一般的です。)

ここで注意したいのは、間違っていることは、どんな些細なことでも訂正を求めておくことが重要だということです。

警察側は、その被疑者が罪を犯したに違いないという確証を持って逮捕を行います。

その警察官が作成する書類ですから、思い込みや事実誤認があったり、誘導的な文言が書かれている場合があったりするのです。

そのため、「供述調書」の一言一句を丁寧に確認し、誤字脱字まで訂正を求めるような態度で臨むことが大切です。

取調べでの冤罪・誤認を防ぐために覚えておきたいこと

冤罪や誤認を防ぐために覚えておきたいこと

もし身に覚えのない罪で逮捕されたのであれば、一切が事実と異なるとして署名押印を拒否しましょう。

しかし黙秘権を行使して逮捕の有効期限である72時間を過ごすことはなかなか難しいことです。

取調官もプロですから、あの手この手で口を開かせようと、事件とは関係のないことで穏やかな話しやすい雰囲気を作ろうとしてきます。

「冤罪であるのになぜ最初は罪を認めてしまったのだろう」とニュースを聞いて感じることがありますが、それほどに逮捕後の取調べというものは精神的に追い詰められるものなのです。

一人で戦うのには限界があります。

もちろん自分が罪を犯しているのであれば素直に認めることも大切です。

しかし身に覚えのない罪や、どうしても警察側が誤った事実で「供述調書」を作成しようとしている場合には、第三者に相談するだけでもかなりの力添えになりますので、躊躇や遠慮をせずに、弁護士に連絡を取ることをお薦めします。

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