性犯罪で最も重い「強制性交等罪」(1)~「強姦罪」から改正~

女性の危機

「強姦罪」から「強制性交等罪」へ

2017(平成29)年7月13日に施行された刑法改正において、かつて「強姦罪」として定められていた性犯罪は、「強制性交等罪」に置き換わることになりました。

これは単に性犯罪を処罰する法律が改正され、犯罪の名称が変わっただけではなく、その処罰の対象となる行為や範囲が大幅に改められ、刑罰も厳しくなっているものです。

本項では、新たに定められた「強制性交等罪」について説明します。

刑法で新たに規定された「強制性交等罪」

性犯罪の中でも、最も重罪とされるものが「強制性交等罪」です。

まず、新しくなった刑法の規定を引用してみましょう。

「強制性交等罪」は、刑法第177条から第180条に、次の通り規定されています。

刑法
(強制性交等)
第百七十七条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。

(準強制わいせつ及び準強制性交等)
第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

(監護者わいせつ及び監護者性交等)
第百七十九条 十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第百七十七条の例による。

(未遂罪)
第百八十条 第百七十六条から前条までの罪の未遂は、罰する。

ここでは、第177条の「強制性交等」を始め、第178条に「準強制わいせつ及び準強制性交等」、第179条に「監護者わいせつ及び監護者性交等」、そして第180条にはこれらの「未遂罪」が定義されています。

旧「強姦罪」とは

2017年7月以前は、性犯罪の中で最も重い罪は「強姦罪」でした。

旧条文では、次のように定められていました。

刑法
(旧)第177条

(強姦)

暴行又は脅迫を用いて十三歳以上の女子を姦淫した者は、強姦の罪とし、三年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の女子を姦淫した者も、同様とする。

後に詳しく述べますが、強姦という言葉自体が、男性が加害者、女性が被害者という見方に立ったものであり、強姦の意味を成す姦淫とは、膣性交のみを指すものでした。

そのため、男性は強姦の対象ではなく、膣性交以外の性交に類似した行為は「強姦罪」に問えないという解釈や考え方もありました。

しかし男性が被害者となるような犯罪が増え、性交の意味もより幅広くなってきたという、時代や社会情勢の変化により、この法律の改正の必要が高まり、ようやく実現されたものです。

性犯罪の厳罰化が進む

2017年の刑法における性犯罪規定の大幅な改正は、実に刑法が制定された明治時代以降110年ぶりのことでした。

時代を経て犯罪の状況や社会情勢が移り変わってきたにもかかわらず、これだけ長きにわたり放置されていたというのは問題ですが、今回の改正により、性犯罪の厳罰化を望む世間の声に合わせ、かなりの変更が行われています。

まず、刑法上での性犯罪の刑罰が、「強姦罪」の時代には3年以上の有期懲役であったものが、新設された「強制性交等罪」では5年以上の有期懲役となっています。これはただ懲役刑が2年引き上げられたということだけではなく、性犯罪に対して厳しく罰を下すという方針の表れであり、裁判においても強い影響を与えることになるでしょう。

「強制性交等罪」の定義

「強制性交等罪」は、刑法の条文に規定されている通り、13歳以上の者に対して暴行や脅迫を用いて、性交等と定められる性交や肛門性交または口腔性交をすることで成立します。

犯罪の成立要件として、暴行や脅迫が定められていますが、これは殴って気絶させたり、抵抗の意思を弱めさせたり、押さえつける、監禁して縄で縛るなどして身動きができず逃げられないようにする行為です。脅迫とは、凶器をちらつかせることや、言葉による脅しも含まれます。

また、条文の後段に定められているように、13歳未満の者に対する性交等の行為は、暴行や脅迫の有無にかかわらず、同意があっても「強制性交等罪」となります。性交等の定義については、いわゆる膣性交(通常のセックス)だけではなく、肛門性交(アナルセックス)と口腔性交(オーラルセックス)も含まれるとされています。

そのため、通常の性交(男性器を女性器に挿入する)だけではなく、幅広い意味での性行為が対象となります。結果として、男性が加害者、女性が被害者という性犯罪の古い見方だけではなく、女性が加害者、男性が被害者というケースも「強制性交等罪」にはあり得るのです。

旧「強姦罪」の要件は?

今回の改正以前に規定されていた「強姦罪」が成立するための要件は、姦淫を目的として暴行や脅迫を行った点で犯罪の実行に着手したと見なされ、男性器の一部でも女性器に挿入した時点で罪を犯したものとされました。そして抵抗が著しく困難な程度の暴行や脅迫が行われることが必要とされていました。

「強姦罪」の加害者である主体は原則として男性のみで、対象となる客体は女性のみと限定されていました。女性が男性に、暴行や脅迫をもって性交を強要して行為を行ったとしても、「強姦罪」は成立せずに「強制わいせつ・強要罪」として処罰を受けていました。

一方で、女性が男性を通じて他の女性の強姦の手助けをする、加担したとなれば、「強姦罪」の共同正犯として女性に「強姦罪」が成立する場合はありました。

「非親告罪」への変更

今回の性犯罪における刑法改正のもうひとつの大きなポイントとして、性犯罪が改正以前の「親告罪」から「非親告罪」へと変更されたことが挙げられます。「親告罪」とは、被害者から、あるいは被害者が死亡してしまった場合にはその親族などから刑事告訴が行われなければ、刑事事件として警察などの捜査機関が捜査を進めることができないものです。

改正以前の「強姦罪」が「親告罪」であった理由は、被害者の感情やプライバシー保護を重んじていたからと言われ、強姦の被害に遭ったことを周りに知られたくない、あるいは捜査によって事件を思い出したくないという気持ちを勘案しているとされていました。

また「強姦罪」の加害者の多くは被害者の身辺を知るものであり、捜査を進めて告訴したならば、刑期を終えた後に復讐されるのではないかという恐れを感じることもあったでしょう。

しかし性犯罪に対しては厳罰で臨むべきだという社会情勢の変化を踏まえ、これまで段階的に、集団による強姦行為は「非親告罪」になったり、告訴期間が廃止されるなどの措置が行われたりしてきましたが、今回ようやく「強制性交等罪」となったのと同時に、「非親告罪」とされたのです。

刑法上では、今回の改正で「親告罪」を規定していた旧刑法第180条は廃止されました。

「強姦罪」の被害者には、告訴の敷居が高かったために泣き寝入りする人も多かったと言われていますが、今後告訴件数が増えるのかどうか、見守っていかなければなりません。

「非親告罪」の問題点

性犯罪として「強制性交等罪」が「非親告罪」となったことは、新たな問題を生むという可能性が指摘されています。

例えば被害者が告訴を希望しない場合にも、捜査機関が独自に捜査を進めることができるため、被害者が第二次被害や第三次被害に遭ってしまうことも考えられるのです。性犯罪は、たとえ軽い犯罪であっても、被害者の心には一生の傷を負わせてしまいます。

捜査が進められてしまった場合は、プライバシーの保護に問題が生じ、報道機関やSNSによるセカンドレイプといった状況も生みかねません。加えて、冤罪を生んでしまう可能性も指摘されています。「強制性交等罪」の「非親告罪」化については、慎重な運用が求められるところです。

「強姦罪」の件数は?

以上のように、性犯罪の「強制性交等罪」が新設されましたが、ここでその前年度までの「強姦罪」の件数を確認してみましょう。

平成29年(2017年)版の犯罪白書によると、平成28年の「強姦」認知件数(警察が把握している件数)は、989件であったと発表されています。

「強姦」の認知件数は、平成9年から増加傾向を示して平成15年には2,472件に達していましたが、その後は減少傾向をたどっています。また検挙率は平成10年から低下し、平成14年には62.3%と戦後最低を記録しました。

しかしその後は上昇傾向をたどり、平成28年の検挙率は98.1%でした。

その他にも大幅に改正された刑法

以上に説明した「強制性交等罪」の新設や、「非親告罪」化の他にも、今回の刑法改正においては「準強制性交等」や「監護者わいせつ及び監護者性交等」などが新たに規定されています。

これらの詳細や、もし万が一「強制性交等罪」で起訴された場合の対応方法などは、<性犯罪で最も重い「強制性交等罪」(2)~性犯罪の厳罰化が進む~>をご覧ください。

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