「迷惑防止条例」とは?~痴漢などの犯罪に刑罰を与える各地の条例~

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「迷惑防止条例」とは?

「迷惑防止条例」とは、各地方自治体が制定している条例の総称で、公衆に著しく迷惑をかける不良行為等を防止し、生活の平穏の保持を目的とするものです。

日本の47都道府県や一部の市町村にこの種の条例は制定されており、以下の通り、都道府県によって名称が違い、独自の条例を制定しているところもあります。

  • 「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(北海道)
  • 「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」「宮城県ピンクちらし根絶活動の促進に関する条例」(宮城県)
  • 「公衆に著しく迷惑をかける行為の防止に関する条例」「茨城県押売等防止条例」「茨城県入場券等の不当な売買行為の防止に関する条例」(茨城県)
  • 「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(東京都)
  • 「神奈川県迷惑行為防止条例」(神奈川県)
  • 「京都府迷惑行為防止条例」(京都府)
  • 「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」「行商人の押売防止に関する条例」(大阪府)
  • 「公衆に不安等を覚えさせる行為の防止に関する条例」(鹿児島県)

以上のような名称がありますが、たいていの都道府県でこの条例によって禁止されている行為は同じであり、刑罰もほぼ同等となっています。

そもそも「迷惑防止条例」は、名称および条文に採り入れられているように、「ぐれん隊防止条約」と呼ばれていた時代があり、社会問題になっていたぐれん隊による暴力的な行為を取り締まるためのものでした。

その後、社会問題化したダフ屋行為、痴漢行為、つきまとい行為、ピンクビラ配布行為、押売行為、盗撮行為、のぞき行為、客引き行為、スカウト行為、悪臭行為なども条文に追加され、「迷惑防止条例」によって取り締まられるようになりました。

「迷惑防止条例」と痴漢

先に説明した通り、「迷惑防止条例」はもともと痴漢行為だけを取り締まるために作られたものではありません。

終戦後に各所の治安を安定させるために制定されたものですが、1990年代以降に痴漢行為が社会問題化し、この犯罪に刑事罰を与えることを目的として条例に追加、あるいは解釈が拡大され適用されるようになりました。

日本国内の公共交通機関では年間2,000件ほどの痴漢事件が発生していると言われていますが、その痴漢行為に適用されることが多いのは、この「迷惑防止条例違反」です。

それ以前は「強制わいせつ罪」までは問えないような、比較的軽度な痴漢は微罪事件として交番で警官に訓戒を与えられて釈放というパターンが一般的でしたが、「痴漢は犯罪」というスローガンと共に、どのような痴漢でも刑事手続きで処分されるようになったのです。

「迷惑防止条例」による痴漢検挙数は?

犯罪白書によると、直近の年度版では記載がありませんが、平成27年版には次のような報告があります。

「迷惑防止条例違反」の痴漢事犯(電車内以外で行われたものを含む)および電車内における「強制わいせつ」事犯は、平成26年の認知件数はそれぞれ3,439件と283件でした。

電車内での痴漢行為は全体の60~70%を占めるとされています。

電車内での痴漢行為の冤罪が映画などで有名になり、どのような行為が犯罪に該当するのかが周知されたこともあり、減少傾向にはあるようですが、依然として件数としてはかなりの数に上ると考えられます。

東京都の「迷惑防止条例」による痴漢の規定

「迷惑防止条例」で、痴漢行為がどのように規定されているのか、東京都の例を採り上げて見てみましょう。

東京都の「迷惑防止条例」の正式呼称は、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」です。

公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(東京都)
(粗暴行為(ぐれん隊行為等)の禁止)

第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。
(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
(2) 公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
(3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
(第2項以降省略)

以上のような条例が全都道府県の「迷惑防止条例」に規定されており、また性別においても女性を対象としたものから、性の別を問わない規定へと変更されています。

「迷惑防止条例」による痴漢の刑罰は?

「迷惑防止条例違反」は「親告罪」ではないため、被害者からの告発がなくても事件化され、捜査機関は捜査を進め、加害者は起訴されることになります。

東京都の「迷惑防止条例」に規定されている痴漢行為に対する刑罰は、6月以下の懲役または50万円以下の罰金とされています。

常習の場合の刑罰が条文に規定されているのも特徴的で、その場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。

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「強制わいせつ罪」と「迷惑防止条例」

「強制わいせつ罪」と比較した場合、「迷惑防止条例違反」の方が刑罰は軽く、より重い痴漢行為の場合は「強制わいせつ罪」、比較的軽い場合は「迷惑防止条例違反」として起訴されることが理解できます。

この境界は明確ではありませんが、条文にもあるように、一般的には衣服の上から触る痴漢行為が「迷惑防止条例違反」で、衣服の中に手を入れた場合は「強制わいせつ罪」に問われる可能性があると言われています。

しかしこの判断基準はケースバイケースで、決して衣服の上からだから刑罰が軽くなるというものではありません。

被害者を動けない状態にして、下着の上からであっても、性器を触るような痴漢は「強制わいせつ罪」に問われる可能性が高いと言えるでしょう。

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「迷惑防止条例違反」で捕まったら?

痴漢行為は犯罪であり、たとえ自分が軽く触ったつもりでも、被害者には一生の傷を負わせるもので、絶対に行ってはいけません。

「迷惑防止条例」により、比較的軽い痴漢行為も処罰の対象になったことと、電車内での痴漢を撲滅させようという動きもあり、加害者の逮捕に周囲の人間も協力するようになってきました。

もし万が一、出来心で痴漢行為を行い、現行犯逮捕されてしまった場合には、早急に被害者との示談交渉を進めることが大切です。

「迷惑防止条例違反」は「親告罪」ではないため、被害者に起訴の意思がなくても、現行犯逮捕されてしまえば、捜査機関は捜査を進めて加害者は起訴されることがあります。

しかし、逮捕直後に弁護士に依頼し、被害者との示談が成立すれば、不起訴となる可能性があります。

逮捕直後は加害者自身で示談交渉を行うことはできませんし、家族や知人では交渉のノウハウがないため、専門家の力を借りるべきでしょう。

冤罪も多い「迷惑防止条例」による痴漢の逮捕

痴漢事件の多くは、被害者の証言だけで警察が加害者(と訴えられた人)を逮捕し、捜査を進めてしまう傾向にあることから、冤罪を生み出す可能性が高い事件と言われます。

組織立って痴漢の被害者を装い、加害者に仕立て上げた人から慰謝料などを奪い取ろうとする事件も起こりました。

映画では冤罪を晴らすためにはかなりの労力が必要だということが描かれ、痴漢を疑われたら逃げるが勝ちという話も出てきました(これは間違いです)。

しかしたとえ軽い事件であっても、冤罪は生み出してはいけないものです。

もし、まったく身に覚えがないのに痴漢の加害者として調べを受けさせられそうになったら、毅然とした態度で自分はそのような行為は行っていないと主張し、その場で目撃者を募り、なるべく多くの味方を得る努力が必要です。

それでも現行犯として駅員や警察官に逮捕されてしまったら、弁護士に依頼して無実を証明する力になってもらいましょう。

「親告罪」と「非親告罪」とは?

「迷惑防止条例」は「親告罪」ではなく、「非親告罪」と呼ばれるものです。

「親告罪」とは、刑事事件の被害者が被害届を提出し、加害者を起訴する意思を明確にしてから初めて犯罪の捜査が行われるものです。

一方で「非親告罪」は、現行犯で一度逮捕されてしまえば、被害者の意思とは関係なく刑事手続きが進められます。

そのため、一般的には罰金刑が中心となり、痴漢行為に関しては「強制わいせつ罪」より軽いとされている「迷惑防止条例違反」ですが、考えようによってはより厳しい側面があると言えます。

「親告罪」の場合は、弁護士が示談をまとめて被害者に告訴を取り下げてもらえれば、刑事事件の手続きは終了します。

それに対して「迷惑防止条例」の場合は、一旦警察などの捜査機関に事件が認知されてしまった以上、被害者が被害届を取り下げても刑事手続きは止まりません。

なんらかの刑事処分が決定するまで事件は終わらないのですが、示談交渉が上手く進めば、不起訴処分となる可能性はあるのです。

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