刑事事件の捜査と取調べ~被疑者が留置場(留置所)外に出て行われる実況見分~

現場検証

勾留中に行われる「引き当たり」とは

刑事事件の被疑者として逮捕され勾留された場合、ほとんどの場合は長期の留置場(留置所)や拘置所での生活となり、被疑者は連日警察や検察に呼ばれ、取調室で担当捜査官から取調べを受けるのが一般的です。

取調べの目的は裁判に進んだ際の証拠となる供述調書を作るためで、検事調べの場合は検察庁に呼ばれることになりますが、基本的には収容施設と取調室の往復で日々は過ぎていくのです。ただし、事件の内容によっては捜査の一環として、「引き当たり」と呼ばれる調べが行われることがあります。

「引き当たり」とは俗称ですが、警察や検察が被疑者を外に連れ出し、犯行現場などを調査することで、「引き連れられ犯行場所を当たる」ということが元の意味です。これはいわゆる「実況検分」のことで、実際に事件が行われた現場へ被疑者を連れて行き、警察や検察が作る事件のシナリオにおいて、被疑者や被害者の供述に間違いがないかを確認するのです。

「引き当たり」の重要性は?

「引き当たり」により犯行を再現した結果を記した書面は、供述調書よりも裁判において証拠として採用されやすいと言われています。この書面は被疑者の行動を客観的に観察したものであり、被疑者が犯行を認めたという意味合いがあり、犯行時の行動などに誤りが入る余地が少ないということが理由です。

この点は、刑事訴訟法第321条および同条第3項に明記されています。

刑事訴訟法

第三百二十一条 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。
一 裁判官の面前(第百五十七条の四第一項に規定する方法による場合を含む。)における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異った供述をしたとき。

二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異った供述をしたとき。但し、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。

三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、且つ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。但し、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
○2 被告人以外の者の公判準備若しくは公判期日における供述を録取した書面又は裁判所若しくは裁判官の検証の結果を記載した書面は、前項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
○3 検察官、検察事務官又は司法警察職員の検証の結果を記載した書面は、その供述者が公判期日において証人として尋問を受け、その真正に作成されたものであることを供述したときは、第一項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
○4 鑑定の経過及び結果を記載した書面で鑑定人の作成したものについても、前項と同様である。

「引き当たり」に応じるかどうかは弁護士と相談を

一方で、「引き当たり」による犯行現場の再現も、基本的には被疑者の供述が元となっているため、実質的には普通の供述と変わらないという側面があります。しかし、「引き当たり」により作成された書面は、実質的には供述調書と何ら変わりはないのに、より緩やかな要件で証拠として採用される可能性があります。また「引き当たり」を行う際に、警察や検察はその重要性や、何に使われるものなのかを丹念に説明してくれることは少ないでしょう。

もちろん犯罪の事実を隠すことが大切、というわけではありませんし、事実は事実として供述することも必要ですが、曖昧な部分や疑問に感じることを、言われるがままに指し示して証拠として残されてしまうのは避けなければなりません。「引き当たり」に関しては、優秀な弁護士ならば事件の内容から考え、事前に行われる可能性を示し、適切なアドバイスをくれるはずですので、慎重に対応した方が得策と言えます。

「引き当たり」はどのように行われる?

「引き当たり」は、当該刑事事件に関係する場所に、警察や検察の捜査官と被疑者が一緒に行き、写真などを撮影するような形で行われる捜査活動です。一方で、実際にその犯行現場には赴かず、警察施設などで犯行の模様を再現し、写真などを撮影することもあります。

刑事事件の被疑者として勾留されている人は、留置場から取調室に向かう短い時間も移動中は手錠を掛けられ、腰縄を打たれます。当然、「引き当たり」で警察の施設から外に出ることになれば、外出中はずっと手錠と腰縄の姿になるわけです。

現場まではパトカーではなく、普通のワンボックスカーで向かいますので、はた目には被疑者を護送しているようには見えませんが、逃亡防止のために被疑者は後部座席の真ん中で、私服の捜査官に両脇を固められた窮屈な状態で現場に連行されるのです。手錠や腰縄を打たれた姿ではあっても、被疑者にとっては久しぶりの一般社会への外出となり、気分転換になるのか、もしくは、プライバシーに配慮はされているものの外に出て他人には見せたくない姿で出歩くのは嫌な気分になるのかは、その人次第です。

逮捕後に勾留されてしまうと、被疑者は留置場と取調室、あるいは検察庁や裁判所など、ずっと屋内で蛍光灯の光の下でしか生活できないため、どれほど窮屈な環境であろうと、一時的であっても外に出られるという開放感は、身柄を拘束されている被疑者にとって、とても大きな気分のリフレッシュだと、「引き当たり」に連れ出されることを意外に喜ぶ人もいるようです。

長期間にわたり身柄を拘束されている状態で、気分転換のお出かけと感じる被疑者もいる反面、外に出ると知り合いに出くわすかもしれない場所で、手錠に腰縄の姿で引き回され、事件の現場を再び訪れることで、後悔の念に囚われてよりブルーな気分になってしまう被疑者もいるのです。

現場などで犯行時の状況を再現する

逮捕されたことがない人でも、重大な交通事故を起こしてしまって、後日警察の立会いのもとで、事故現場で実況検分を行った経験のある人はいるかもしれません。刑事事件の実況検分も基本的にやることは同じで、実際に犯行が行われた現場に出かけ、被疑者自身がどのような行動をしたかを担当捜査官が立ち会って確認します。

たとえば空き巣の場合は、進入した窓などを被疑者自身が指をさして、捜査官がデジカメで撮影し、犯行現場の場所や犯行方法などが、被疑者や被害者などの供述と矛盾がないかを確認する作業となります。たまにテレビドラマで事故現場を再現するシーンで、ブルーシートに囲まれた被疑者役の役者が現場を指さし、ここに間違いありません、というような写真を撮る場面と同じです。

前述の通り「引き当たり」の目的は裁判資料の作成になるため、裁判官に提出する証拠として、被疑者などの供述をまとめた文章だけではなく、わかりやすい現場写真を添付するのが目的なのです。

理不尽な要求は断固拒否すべき!

「引き当たり」では、被疑者を真犯人だとするシナリオを描いている警察や検察の意向で撮影が行われます。そのため、実際に写真を撮る捜査官の言いなりになってポーズを取っていると、あたかも被疑者が真犯人であるような「引き当たり」の現場写真が撮られてしまいます。本当に逮捕された通りの罪を犯している場合は、それは仕方ないことだと言えますので、正直に犯行時と同じポーズを取るべきですし、捜査官の要求に応えるべきかもしれません。

しかし逮捕容疑が身に覚えのない冤罪だった場合や、警察や検察が描いている犯行場面に事実と相違がある場合は、断固撮影を拒否するべきです。このような画像を撮られた場合、後に裁判に進んだ際に、裁判官の誤解を招いてしまう可能性があるのです。

事前に弁護士と十分協議を重ねて、どこまで認めるのか認めないのか、しっかりと確認しておきましょう。

捜査や取調べにはさまざまな手法がある

「引き当たり」は、どんな事件でも必ず行われる方法ではありません。犯行の現場が特に定まっていない罪、たとえばインターネットを利用した犯罪などでは「引き当たり」は行われないのです。電車内の痴漢事件のケースでも、事件が起こった電車やバスに乗って実況検分をすることは滅多にありません。

ただし痴漢事件の場合は、被疑者と被害者の立ち位置を写真に撮りますので、警察の施設内で、被害者に見立てたマネキンのそばに被疑者を立たせて撮影が行われます。

このように、犯罪捜査や被疑者への取調べには、さまざまな手法が講じられます。覚せい剤の自己使用が疑われる場合には強制採尿、いわゆるうそ発見器と呼ばれるポリグラフ検査や、音声鑑定、DNA鑑定といったものも採用されることがあります。

中には拒否できない強制的なものもありますが、どのような取調べを受けて何をされたか、何を供述したかは、常に弁護士に報告し、来る裁判に向けて準備を入念に進めておく必要があります。

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