不同意性交等罪とは?構成要件と刑罰、強制性交罪との違い

不同意性交等罪とは?構成要件と刑罰、強制性交罪との違い
相手の同意を得ずに無理やり性交等を行った場合、不同意性交等罪が成立する可能性があります。

法改正により新設された不同意性交等罪は、構成要件が拡大したこともあり、これまで「強制性交等罪」や「準強制性交等罪」では処罰しきれなかったグレーな行為も処罰対象となる可能性があります。

この記事では、不同意性交等罪の成立要件や強制性交等罪との違い、罰則などについてわかりやすく解説していきます。

不同意性交等罪とは

不同意性交等罪とは、被害者が「同意しない意思を形成、表明または全う」することが困難な状態で性交等を行った場合に成立する犯罪です(刑法177条)

不同意の意思表示を困難な状態にさせた場合だけでなく、すでに意思表示が困難な状態であることに乗じて性交等を行った場合にも、同罪が成立します。

「同意しない意思を形成、表明、全う」することが困難な状態にさせる手段については、刑法でいくつかの類型が規定されています。

性交等の定義

不同意性交等罪における「性交等」とは、性行為または性交類似行為のことを指します。

具体的には、次の行為があれば「性交等」に該当する可能性があります。

  • 性交
  • 肛門性交
  • 口腔性交
  • 膣もしくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)もしくは物を挿入する行為であってわいせつなもの

不同意性交等罪の構成要件

刑法177条で規定されている不同意性交等罪が成立するための要件(構成要件)は、大きく次の3つに分類されます。

1項 一定の行為により、同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態にさせ、もしくはその状態にあることに乗じて性交等を行う
2項 わいせつな行為ではないと誤信させたり、人違いをさせたりすること、もしくはそのような誤信や人違いに乗じて性交等を行う
3項 16歳未満(13歳以上16歳未満の場合、行為者が5歳以上年長である場合に限る)のものに対し性交等を行う

おおまかにまとめると、同意のない性交等、相手を騙しての性交等、16歳未満との性交等の3つの条件いずれかに当てはまる場合、不同意性交等罪に該当します。

性行為について知識がない被害者に、わいせつな行為ではないと信じ込ませて性交等を行った場合や、暗闇の中で行為者が自分の彼氏であると信じ込ませて性交等を行った場合には、不同意性交等罪に該当する可能性があります。

また、16歳未満の相手と性交等を行った場合には、たとえ同意があったとしても不同意性交等罪が成立します。

刑法では、「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」の原因となる行為・状態について、8つの類型を定めています(刑法176条1項、同法177条1項)。

暴行もしくは脅迫を用いる性交等

「暴行」とは、人の身体に向けられた不法な有形力の行使のことです。たとえば、殴ったり、蹴り飛ばしたり、無理やり体を押さえつけるなどの行為が暴行に当たります。

「脅迫」とは、他人を畏怖させる害悪の告知のことです。たとえば、ナイフを持ちながら「抵抗すれば殺す」などと脅したり、裸の写真を撮影して「拒否すればこの写真をネット上にばらまく」などと脅す行為は、脅迫に該当します。

なお、暴行・脅迫を用いて性交等を行った場合、法改正前の強制性交等罪に該当します。

心身の障害を用いる性交等

「心身の障害」とは、身体障害・知的障害・発達障害・精神障害などのことで、一時的なものを含みます。

心身の障害がある場合、性交等に同意する能力が欠けているもしくは不十分であると考えられます。

よって、これらの障害を生じさせたり、その障害があることに乗じて性交等を行った場合には、不同意性交等罪が成立することになるのです。

なお、心身の障害を用いる性交等については、法改正前の準強制性交等罪に該当します。

アルコールや薬物を摂取させての性交等

飲酒や薬物の投与・服用で、相手が同意するか否かの判断力を奪った状態で性交等を行った場合には、不同意性交等罪が成立します。

なお、アルコールや薬物を摂取させての性交等については、法改正前の準強制性交等罪に該当します。

睡眠その他の意識不明瞭な状態につけこんだ性交等

睡眠中や、それ以外の原因で意識がもうろうとしている状態を利用して性交等を行うと、不同意性交等罪が成立する可能性があります。

意識がはっきりしない状態であれば、性交等に同意するかしないかを判断できない状態だといえるからです。

なお、睡眠その他の意識不明瞭な状態につけこんだ性交等については、法改正前の準強制性交等罪に該当します。

不意打ちの性交等(同意しない意思の形成・表明・全うするいとまがない状態)

不意打ちによる性的行為とは、性的行為に気付いてから実際にその行為が行われるまでの間に、同意するか否かについて自由な意思決定をする時間のゆとりがない状態のことです。

たとえば、路上でうしろから突然押し倒して性的行為を行った場合には、不意打ちの性交等に該当する可能性があります。

フリーズ状態に乗じた性交等

フリーズ状態とは、突然のことで体が固まってしまう状態のことです。

予想していなかった事態に直面したことで、自身の身に危害を加えられるかもしれないと極度に不安になったり、強く動揺して平静を失ったりした状態にさせた場合、性交等について自由な意思表示をすることは困難であると考えられます。

たとえば、2人きりになった瞬間に襲いかかり、相手がパニック状態になっている状態でそのまま性交等を行った場合などが、この類型に該当します。

虐待に起因する心理的反応を用いる性交等

身体的・精神的・性的虐待などを原因とする恐怖心や無力感を利用して性交等を行った場合のことです。

たとえば、小さい頃から虐待を受けていたことから、「虐待に対しては抵抗しても無駄だ」という心理状態に
陥りやすい状態になっていた場合に、その心理状態を利用して性交等に及んだケースなどが挙げられます。

このケースでは、性交等について明確に否定しなかったとしても、それは性的行為に対して自由な意思で同意しているとはいえないため、不同意性交等の処罰対象となる可能性があります。

経済的な関係や社会的地位に基づく不利益の憂慮を利用する性交等

経済的な関係とは、金銭・その他の財産に関する関係、社会的関係とは、上司や部下、教師と生徒、家族間などの関係を指します。

被害者との関係性から、行為を受け入れないと何らかの不利益を被るかもしれないと考えたことを利用して性交等を行った場合、不同意性交等罪の処罰対象となります。

たとえば、上司からの誘いを断ったら、左遷されたり、仕事を失うかもしれないと心配することで、泣く泣く行為を受け入れるような場合がこの類型に該当します。

不同意性交等罪と強制性交等罪の違い(変更点)

強制性交等罪と準強制性交等罪が統合されて新たに創設された不同意性交等罪ですが、従来の強制性交等罪との違いはどこにあるのでしょうか。

ここでは、改正前後の法律について、4つの視点から違いを解説していきます。

性交等の範囲拡大

法改正に伴い「性交等」に該当する範囲が拡大しました。

改正前の強制性交等罪における「性交等」では、

  • 性交
  • 肛門性交
  • 口腔性交

がその対象となっていましたが、罪の対象となるのはすべて男性器の挿入に限られていました。

不同意性交等罪では、これに「膣もしくは肛門に身体の一部(陰茎を除く。)もしくは物を挿入する行為であってわいせつなもの」が追加され、手指や物の挿入など、男性器以外でも現実的に起こり得る性被害にも対応できるようになりました。

また、相手と婚姻関係にある場合でも不同意性交等罪が成立することが明確化するために、条文に「婚姻関係の有無にかかわらず」との文言が追加されています。

構成要件の見直し・拡大

不同意性交等罪は、従来の強制性交等罪では処罰できなかった行為を処罰するために、構成要件の見直し・拡大がされています。

法改正前後の構成要件の違いは、次のとおりです。

強制性交等罪と不同意性交等罪の構成要件の違い
 

強制性交等罪 不同意性交等罪
構成要件 暴行・脅迫を用いて性交等を行う 同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態にさせ、もしくはその状態にあることに乗じて性交等を行う
手段 暴行・脅迫を用いた場合のみ
  1. 暴行もしくは脅迫を用いる性交等
  2. 心身の障害を用いる性交等
  3. アルコールや薬物を摂取させての性交等
  4. 睡眠その他の意識不明瞭な状態につけこんだ性交等
  5. 不意打ちの性交等(同意しない意思の形成・表明・全うするいとまがない状態)
  6. フリーズ状態に乗じた性交等
  7. 虐待に起因する心理的反応を用いる性交等
  8. 経済的な関係や社会的地位に基づく不利益の憂慮を利用する性交等

不同意性交等罪では、強制性交等罪の「暴行・脅迫」を用いた性交等に加え、準強制性交等罪の処罰対象であった「心神喪失・抗拒不能」状態を利用した性交等についても処罰対象としています。

従来、暴行・脅迫要件は、被害者が抗拒不能であったことを考慮する際の要素として考えられていました。そのため、たとえ暴行・脅迫があったとしても、客観的に抵抗できない状態だったことを証明できなければ加害者の故意を認定できず、強制性交等罪として処罰できないことが問題視されていました。

そこで、改正後の不同意性交等罪では、構成要件の中核を「性的行為に同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態にさせた(あるいはその状態に乗じた)」とすることで、処罰範囲の適正化を図っています。

公訴時効の延長

強制性交等罪の公訴時効は10年でしたが、不同意性交等罪の公訴時効は15年に延長されています。

性犯罪は、被害者が2次被害を恐れて申告しにくいことから、周囲の人も気づきにくい犯罪類型です。こうした犯罪の特性を踏まえて、法改正により公訴時効が5年延長されることになりました。

また、被害者が児童である場合、さらに被害を申告しにくくなることから、15年に加えて「犯罪が終わったときから18歳になるまで」の期間が、公訴時効に追加されます。

たとえば、13歳で不同意性交等の被害に遭った場合には、基準となる15年に加えて、18歳になるまでの5年間を追加した20年が公訴時効期間となります。

性交同意年齢の引き上げ

改正前の強制性交等罪では、13歳未満の者に対して性交等を行った場合には、同意の有無を問わず同罪が成立するとされていました。

一方、改正後の不同意性交等罪では、性交同意年齢(性的行為について有効な同意ができる年齢)が16歳に引き上げられています。これにより、16歳未満の者に対して性交等を行った場合には、同意の有無を問わず同罪が成立することになっています。

ただし、交際している同級生同士など、同世代間での性的行為まで一律に処罰の対象とするのは、適切ではないと考えられます。

よって、性交等の相手が13歳以上16歳未満だった場合には、行為者が相手よりも5歳以上年上だった場合に限り、処罰の対象とされています。

なお、年齢要件で不同意性交等罪が成立しなかったとしても、具体的なケースによっては児童買春や青少年育成保護条例違反などの処罰対象となる場合もあるので、注意が必要です。

不同意性交等罪の刑罰と罰則

不同意性交等罪の法定刑は、5年以上の有期拘禁刑です。

拘禁刑とは、従来の懲役刑と禁錮刑を一本化したものとして新たに創設された刑罰で、2025年6月1日に施行される予定となっています。
刑務作業が義務付けられる従来の懲役刑とは異なり、受刑者の改善更生のために必要な作業や指導、教育プログラムなどを柔軟に実施できるのが、拘禁刑の特徴です。
なお、施行日以前の不同意性交等に対しては、懲役刑が適用されます。

また、不同意性交等罪には基本的に執行猶予がつきません。そのため、刑罰が確定した場合は必ず執行されます。
ただし、刑罰が確定する前に、自首や犯行を途中でやめていた、被害者との示談を締結したことなどを理由として刑の減軽が認められ、執行猶予を得られるケースもあります。

不同意性交等罪の具体例

ここでは、不同意性交等罪で有罪判決を受けた事例を3つご紹介します。

登校中の12歳の女の子に無理やり性行為を行ったとして懲役6年6か月の判決下されたケース

加害者(20歳・無職)は、事件当時12歳だった登校中の女児に背後からいきなり抱きつき、無理やり性行為を行ったとして逮捕・起訴されました。

行為態様は悪質で、逃げようとした女児の口を抑え付け、「大声を出したら包丁で殺す」などと脅したうえで性交および口腔性交に及んでいます。

このケースでは、「殴る蹴るより一生キズが残りやすいように性行為をした」との加害者の供述や、被害者が男性に恐怖心を持ち、父親ですら2人きりになれなくなるなどの精神的被害を被ったことなどが考慮され、懲役6年6か月の判決が下されています。

参照:《福岡・12歳女児を路上で襲い不同意性交》「一生キズが残るようにした」八並孝徳被告は「コミュニケーションが上手くないタイプ」「小さい子にもオドオド……」 ボランティアで“地域見守り活動”も

電車内での痴漢行為で懲役4年の判決が下されたケース

加害者は、電車内で15歳の女子高生のお尻を触るだけでなく、下着の中に手を入れて、約5分間にわたり性器に触れるなどの痴漢行為を働き、不同意性交等罪として逮捕・起訴されました。

このケースでは、加害者がストレスを発散するため痴漢行為を繰り返していたことや、被害者が恐怖心からすぐに下車できる各駅停車にしか乗れなくなったなどのトラウマも考慮され、初犯にもかかわらず、執行猶予なしの懲役4年という実刑判決が下りました。
参照:「ストレスと欲望が制御できなかった」痴漢行為でも不同意性交  “初犯”男性に「実刑4年判決」が下ったワケ

SNSで知り合った女子中学生2人に対する性的暴行で懲役5年の判決が下されたケース

加害者(32歳・長崎県大村市職員)は、SNSで知り合った女子中学生2人に対して、16歳未満であることを知りながら性的暴行をしたことから、不同意性交等罪として起訴されました。

裁判では、およそ1か月半の間で3回も犯行に及んでいることから常習性が認められること、被害者の性的理解の不十分さに付け込んだ卑劣な犯行であることなどが考慮され、懲役5年の実刑判決が下されました。

なお、加害者は懲戒免職処分となっています。

参照:不同意性交罪などの裁判 大村市元職員に懲役5年の実刑判決

不同意性交等罪の施行はいつから?

不同意性交等罪を含む改正法は、令和5年(2023年)7月13日に施行され、すでに適用されている現行の法律です。

なお、令和5年7月12日までに起きた性犯罪については、改正法施工前の事件として扱われることから、改正前の強制性交等罪などが適用されることになります。

不同意性交等罪の問題点

改正法では処罰できなかった行為まで罰することができるようになった不同意性交等罪ですが、未だ解決しなければいけない課題も存在します。

ここでは、不同意性交等罪における問題点について解説していきます。

構成要件が不明確

不同意性交等罪の問題点の1つは、構成要件が不明確であることです。

不同意性交等罪では、「同意しない意思を形成、表明、全うすることが困難な状態」の原因となる行為・状態について、8つの類型を定めています。

しかし、定められている犯罪類型には不明確なものがあり、実際にどのようなケースであれば犯罪が成立するのかハッキリしないものもあります。

たとえば「アルコールや薬物を摂取させての性交等」について、どの程度の飲酒量・薬物の投与であれば、同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態になるのかが明確ではありません。
違法薬物の投与で意識不明の状態に陥っている場合は別として、どれだけお酒を飲めば不同意の意思を表明できなくなるかは人によって異なるからです。

判断基準が不明確なまま運用を続けると、本来であれば処罰されるべきではない行為まで処罰され、また、処罰されるべき行為が処罰されないという事態につながる可能性があるでしょう。

冤罪の可能性

処罰対象が広がったことにより、冤罪を生み出すリスクが高まったことも問題点の1つとして挙げられます。

たとえば、一緒にお酒を飲んだあとに性行為に及んだケースでは、アルコールを摂取させて性行等を行ったとして、不同意性交等罪が成立する可能性があります。

もし、加害者が「相手は同意していると思っていた」と主張し不同意性交等罪の成立を免れるためには、相手が同意できない状態ではなかったことを捜査機関に認めてもらう必要があります。

このような場合、もし飲んでいる最中に性行為について口頭で同意を得ていたとしても、相手が不同意の意思を表明できたことを客観的に証明できない限り、犯罪が成立してしまう可能性があります。

同意の証明がしづらい

性交等について、同意があったことの証明がしづらいことも、不同意性交等罪の問題点の1つとされています。

同意があれば不同意性交等罪は成立しませんが、性行為を行う際に、わざわざ同意を得たうえで始めるケースはほとんどないのではないでしょうか。

多くの場合、暗黙の了解のうえで性行為を行うことになるため、あとから「本当は性行為について同意していなかった」と主張されても、同意があったことを証明するのが極めて難しくなります。

同意があったことを証明するために、同意書を書いてもらうのは現実的ではありませんし、仮に同意書があっても、何らかの理由でその同意書は本心ではなかった、と主張される可能性もあります。

信頼できる相手以外と性的関係を持つ場合には、性的行為について同意があったことを証明するためにも、電話やLINEなど、何段階かに分けて同意のステップを踏んでおくと良いでしょう。

まとめ

令和5年7月13日に施行された不同意性交等罪は、構成要件が拡大したこともあり、暴行・脅迫を用いない行為についても処罰できるようになりました。

有罪判決を受けると、5年以上の有期拘禁刑に処せられる可能性があります。

また、この記事でもご紹介した裁判例のように、行為態様や被害の程度によっては、たとえ初犯だったとしても、執行猶予が付かず実刑判決を受ける可能性もあります。

該当する行為に心当たりがある場合には、速やかに弁護士などの専門家に相談するのが良いでしょう。

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