痴漢は犯罪!~「強制わいせつ罪」や「迷惑防止条例違反」など~
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痴漢とは?
痴漢といえば、混み合った電車の中で異性の体を触るという行為がまず思い浮かびますが、広い意味でとらえると、もっとさまざまな行為が該当します。
警視庁ホームページから引用すると、痴漢行為は次のような行為とされています。
- 衣服や下着の上、あるいは身体に直接触れて、手で下半身や尻、胸、ふともも等を撫で回す
- 背後から密着して、身体や股間を執拗に押しつける
- 衣服のボタンやブラジャーのホックなどをはずす
- エスカレーターや階段などの場所で、スカート内をカメラやビデオで盗撮しようとする
このように、手で触るだけではなく、身体や股間を押し付けたり、盗撮したりすることも痴漢とされ、一般的には、公の場で相手の意に反して性的行為を行うこと、という定義がなされます。
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さまざまな法律や条例で処罰される罪
痴漢行為が発生するのは電車の中だけではなく、いわゆる公共の場所すべてが対象となり、人気の少ない場所、暗い夜道などでも起こります。
刑法では、殺人罪や暴行罪のように、痴漢罪という規定はありませんが、痴漢行為は「強制わいせつ罪」、「迷惑防止条例違反」、「公然わいせつ罪」、「軽犯罪法違反」、「器物損壊罪」といったさまざまな法律や条例で罰を受けることになるのです。
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また痴漢行為がエスカレートし、性行為等に及んでしまった場合には、より重罪となる「強制性交等罪」または「未遂罪」として処罰されます。
以上のように痴漢行為は、その状況や内容によって、さまざまな法律や条例によって刑罰を受けることになる犯罪です。
痴漢はどれくらい発生しているのか?
痴漢は犯罪が複数の罪状に分かれるため、統計としての資料はありません。また、痴漢はかつて被害者の告発がないと事件として扱われない「親告罪」であったため、実際の件数は計り知れないものになるでしょう。
実際に痴漢行為に遭ったという人は多いものの、なかなか言い出せない、告発することにかなりの勇気が必要なものだったのです。
犯罪白書をひも解いてみると、直近の年度版では記載がありませんが、平成27年版には次のような報告がありました。
迷惑防止条例違反の痴漢事犯および電車内における強制わいせつ事犯は、平成26年の認知件数はそれぞれ3,439件と283件で、同年の盗撮事犯の検挙件数は3,265件だったという統計があります。また、電車内での痴漢行為は全体の60~70%を占めるとされています。
電車内での痴漢行為の冤罪が映画などで有名になり、どのような行為が犯罪に該当するのかが周知されたこともあり、減少傾向にはあるようですが、依然として件数としてはかなりの数に上ると考えられます。
ここからは、適用される法律や条例に合わせて、どのような内容で、どれくらいの刑罰が科されるのかを見ていきます。
「強制わいせつ罪」に問われる痴漢
刑法で定められる痴漢行為は、「強制わいせつ罪」に問われるケースが多いとされます。
「強制わいせつ罪」は、条文では次のように定められています。
「強制わいせつ罪」は、13歳以上の者に対して、暴行や脅迫を用いて、わいせつな行為をした者が問われる罪です。また、13歳未満の者に対する「わいせつ」行為は、暴行や脅迫がなくても犯罪となります。
暴行や脅迫とは、殴って気絶させたり、抵抗の意思を弱めさせたり、押さえつける、監禁して縄で縛るなどして身動きができず逃げられないようにする行為です。そして脅迫とは、凶器をちらつかせることや、言葉による脅しが含まれます。
具体的な痴漢行為と刑罰は?
電車内での痴漢行為に対して「強制わいせつ罪」が問われるケースは、相手を押さえつけて身動きが取れない状態で、悪質な「わいせつ」行為を行った場合が考えられます。また、夜道で働いた痴漢行為についても、被害者にはかなりの恐怖感を与えることになるので、「強制わいせつ罪」が問われる可能性があります。
具体的な「わいせつ」行為は条文には明記されておらず、一般的には被害者の意志に反して、身体を触ったりする行為だと認識されていますが、衣服の上からなどという比較的軽い痴漢行為は「強制わいせつ罪」では問われないケースがほとんどです。
「強制わいせつ罪」と後述する「迷惑防止条例違反」には、明確な差を設ける基準はありませんが、処罰に大きな差が出てきますので、もし万が一、加害者として逮捕されてしまった場合には、弁護士の力を借りて対処方法を探りましょう。
「強制わいせつ罪」の量刑については、6月以上10年以下の懲役で、初犯であれば、よほど悪質な行為でない限り執行猶予がつく可能性が高いと考えられますが、この量刑は他の犯罪と比べると重いものです。
「わいせつ」の判例変更に注目が集まる
また、痴漢行為による「強制わいせつ罪」の成立について、大きな問題となってくる判例変更があったことには注意を払わなければなりません。これまで、「強制わいせつ罪」の成立には、「性的意図が必要である」とされてきました。
これは、1970(昭和45)年に下された最高裁判所の判決によるものですが、この判例が2017年11月に、47年ぶりに変更されました。「強制わいせつ罪」を巡る刑事事件の上告審判決で、最高裁大法廷は「性欲を満たす意図がなくても成立する」との初判断を示したのです。
この事件は、13歳未満の少女の体を触って裸を撮影したもので、被告人には性的な意図がなかったものとされていました。しかし被告人の上告は棄却され、「強制わいせつ罪」が成立することとなりました。
今後は性的意図がなくても同罪が成立することになりますが、現在のところ賛否両論があり、慎重な運用が求められるところでしょう。特に混雑した電車の中など身動きが取れない状態では、冤罪を生みかねません。
「迷惑防止条例違反」に問われる痴漢
「迷惑防止条例」とは、各地方自治体が制定している条例の総称で、公衆に著しく迷惑をかける不良行為等を防止し、生活の平穏の保持を目的とするものです。
日本の47都道府県や一部の市町村にこの種の条例は制定されており、場所によって「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」(東京都など)、「神奈川県迷惑行為防止条例」(神奈川県)というように名称が違います。
日本国内の公共交通機関では年間2,000件ほどの痴漢事件が発生していると言われていますが、その痴漢行為に適用されることの最も多いものが、この「迷惑防止条例違反」です。
「迷惑防止条例」はもともと痴漢だけを取り締まるために作られたものではなく、終戦後に各所の治安を安定させるために制定されたもので、1990年代以降に痴漢行為に刑事罰を与えることを目的として条例の解釈を拡大され適用されるようになりました。
それ以前は「強制わいせつ罪」までは問えないような、比較的軽度な痴漢は微罪事件として交番で警官に訓戒を与えられて釈放というパターンが一般的でしたが、「痴漢は犯罪」というスローガンと共に、どのような痴漢でも刑事手続きで処分されるようになったのです。
東京都の「迷惑防止条例」の場合
「迷惑防止条例」で、どのような規定がなされているのか、東京都の例をとって見てみましょう。
東京都の「迷惑防止条例」の正式呼称は、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」です。
第5条 何人も、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような行為であって、次に掲げるものをしてはならない。(1) 公共の場所又は公共の乗物において、衣服その他の身に着ける物の上から又は直接に人の身体に触れること。
(2) 公衆便所、公衆浴場、公衆が使用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部若しくは一部を着けない状態でいる場所又は公共の場所若しくは公共の乗物において、人の通常衣服で隠されている下着又は身体を、写真機その他の機器を用いて撮影し、又は撮影する目的で写真機その他の機器を差し向け、若しくは設置すること。
(3) 前2号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、卑わいな言動をすること。
(第2項以降省略)
以上のような条例が全都道府県の「迷惑防止条例」に規定されており、また性別においても女性を対象としたものから、性の別を問わない規定へと変更されています。
また、「迷惑防止条例違反」は「親告罪」ではないため、被害者からの告発がなくても事件化され、捜査機関は捜査を進め、加害者は起訴されることになります。
東京都の「迷惑防止条例」に規定されている痴漢行為に対する刑罰は、6月以下の懲役または50万円以下の罰金とされています。常習の場合の刑罰が条文に規定されているのも特徴的で、その場合は1年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。
盗撮においては、1年以下の懲役または100万円以下の罰金と、痴漢行為のケースよりも罰則は重く、常習の場合は2年以下の懲役または100万円以下の罰金となります。
「強制わいせつ罪」と比較した場合、「迷惑防止条例違反」の方が刑罰は軽く、より重い痴漢行為の場合は「強制わいせつ罪」、比較的軽い場合は「迷惑防止条例違反」として起訴されることが理解できます。
この境界は明確ではありませんが、一般的には衣服の上から触る痴漢行為が「迷惑防止条例違反」で、衣服の中に手を入れた場合は「強制わいせつ罪」に問われる可能性があると言われています。
しかしこの判断基準はケースバイケースで、決して衣服の上からだから刑罰が軽くなるというものではありません。
冤罪を生む「迷惑防止条例」?
痴漢事件の多くは、被害者の証言だけで警察が加害者(と訴えられた人)を逮捕し、捜査を進めてしまう傾向にあることから、冤罪を生み出す可能性がある事件と言われます。
組織立って痴漢の被害者を装い、加害者に仕立て上げた人から慰謝料などを奪い取ろうとする事件も起こりました。映画では冤罪を晴らすためにはかなりの労力が必要だということが描かれ、痴漢を疑われたら逃げるが勝ちという話も出てきました(これは間違いです)。
「迷惑防止条例」により、比較的軽い痴漢行為も処罰の対象になったことから生まれた現象ですが、いくら軽くても痴漢は被害者の心に一生の傷を負わせるものであり、決して行ってはならない行為です。しかし冤罪も、生み出してはいけないものです。
もし、まったく身に覚えがないのに痴漢の加害者として調べを受けさせられそうになったら、毅然とした態度で自分はそのような行為は行っていないと主張し、その場で目撃者を募り、なるべく多くの味方を得る努力が必要です。
それでも現行犯として駅員や警察官に逮捕されてしまったら、弁護士に依頼して無実を証明する力になってもらいましょう。
その他の犯罪が問われる痴漢
「強制わいせつ罪」と「迷惑防止条例違反」以外の犯罪が問われる痴漢行為には、次のようなものがあります。
- 「公然わいせつ罪」
公衆の面前で陰部などを露出したり、自慰行為をしたりした場合などに適用されます。
酒に酔って人前で全裸、もしくは全裸に近い状態になってしまえば、それだけで「公然わいせつ罪」が成立します。 - 「器物損壊罪」
痴漢行為と言うよりも、傷害に近いものがありますが、スカートなどの衣服を切り裂くような行為は、「器物損壊罪」が適用されます。
衣服に精液などを付着させる行為も同様です。 - 「軽犯罪法違反」
つきまといや、のぞき行為は「軽犯罪法違反」に問われます。 - 「強制性交等罪」
痴漢行為がエスカレートし、暴力や脅迫をもって強制的に性行為等をすれば、性犯罪では最も重い「強制性交等罪」が問われます。
以上のような、さまざまな痴漢行為は多くの規定によって処罰され、近年では性犯罪の厳罰化が進んでいます。
これくらいで罰せられることはないだろうということはありませんので、冤罪に対する自衛策も含めて、性犯罪について一度考えてみるのが良いかもしれません。
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