痴漢などの性犯罪は「強制わいせつ罪」~刑法改正で法整備が進む~

痴漢行為

「わいせつ」な行為には2種類ある

刑事事件における犯罪や刑罰などを定めた刑法をひも解くと、「わいせつ」という言葉は非常に多く見られます。

刑法第22章は「わいせつ、強制性交等及び重婚の罪」の章となり、項目だけを並べても、「公然わいせつ」、「わいせつ物頒布等」、「強制わいせつ」、「準強制わいせつ及び準強制性交等」、「監護者わいせつ及び監護者性交等」、「強制わいせつ等致死傷」と、多くの罪状が並んでいます。

一方で、これらの罪状に含まれる「わいせつ」という言葉はすべて同じものではなく、大きく分けてふたつの意味合いがあります。

ひとつ目は、「公然わいせつ」等に関わる性的感情に対するもので、ふたつ目は「強制わいせつ」等の基準となる性的自由に対するもので、法的性格が違うものと解釈されています。例えば、強制的に人に対してキスをするのは「強制わいせつ罪」の構成要因となりますが、人前で夫婦や恋人同士がキスをするのは「公然わいせつ」に問われるものではありません。

本項では、性的事項に対する個人の決定権、いわゆる性的な自由を侵害するとされる、「強制わいせつ」等の犯罪行為とその刑罰について説明します。

何が「わいせつ」なのか

「わいせつ」な行為の定義は、少し難しい問題です。

司法界では、「いたずらに性欲を興奮または刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反すること」と定義されていますが、これはどちらかと言うと上記の「公然わいせつ」に関わるものでしょう。

そのため、「強制わいせつ」における「わいせつ」の意味合いは、「広く人の性的羞恥心に関する行為」、と解釈するのが正しいと言われています。

「わいせつ」の定義が変わる?

具体的には、相手が同意していないのに、抱きしめる、身体を撫で回す、キスをするといった行為が該当し、それ以上の行為を無理矢理行おうとすれば、その際には「強制性交等罪」や「強制性交等未遂罪」となっていました。

しかし、「強制わいせつ罪」の構成要件については、2017(平成29)年7月に施行された刑法改正と、11月の判例変更によって、大きな変化が起こると見込まれています。単に、いわゆる痴漢行為は「強制わいせつ罪」にあたる、とひと言では言えない時代になったのです。

一般的にイメージされる痴漢行為に至るまでもなく、「強制わいせつ罪」で処罰を受ける可能性が出てきました。

次に、この刑法改正と判例変更について見ていきましょう。

刑法改正における「強制わいせつ罪」

2017(平成29)年7月13日に施行された刑法改正において、「強制わいせつ罪」よりも重い罪で、かつて「強姦罪」として定められていた性犯罪は、「強制性交等罪」に置き換わることになりました。同時に、「強制わいせつ罪」の呼び名は変わらないものの、条文に変更が加えられています。

まず、新しくなった刑法の条文を見てみましょう。

刑法
(強制わいせつ)
第百七十六条 十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、六月以上十年以下の懲役に処する。十三歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする。

この規定を読み解くと、13歳以上の者に対して、暴行や脅迫を用いて、わいせつな行為をした者は、「強制わいせつ罪」が成立されるというものです。また、13歳未満の者に対する「わいせつ」行為は、暴行や脅迫がなくても犯罪となります。

暴行や脅迫とは、殴って気絶させたり、抵抗の意思を弱めさせたり、押さえつける、監禁して縄で縛るなどして身動きができず逃げられないようにする行為です。そして脅迫とは、凶器をちらつかせることや、言葉による脅しが含まれます。

今回の改正点を確認してみると、旧刑法176条では、「13歳以上の男女に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の男女に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする」でした。

変更された点はひとつ、「男女」が「者」となっていることです。これは、より重い罪である「強制性交等罪」の定義において男女の差がなくなったことから、ここであえて「男女」と表現する必要がなくなったことを示しています。

大きな転換点になる!?~「わいせつ」の判例変更~

これまで、「強制わいせつ罪」の成立には、「性的意図が必要である」とされてきました。

これは、1970(昭和45)年に下された最高裁判所の判決によるものですが、この判例が2017年11月に、47年ぶりに変更されました。「強制わいせつ罪」を巡る刑事事件の上告審判決で、最高裁大法廷は「性欲を満たす意図がなくても成立する」との初判断を示したのです。

この事件は、13歳未満の少女の体を触って裸を撮影したもので、被告人には性的な意図がなかったものとされていました。しかし被告人の上告は棄却され、「強制わいせつ罪」が成立することとなりました。

今後は性的意図がなくても同罪が成立することになりますが、現在のところ賛否両論があり、慎重な運用が求められるところでしょう。

「強制わいせつ罪」の量刑は?

「強制わいせつ罪」の量刑については、6月以上10年以下の懲役で、これは改正前と変わっていません。初犯であれば、悪質な行為でない限り執行猶予がつく可能性が高いと考えられますが、「強制わいせつ罪」は、他の犯罪と比べると重罪であると言えるでしょう。

さらに犯行の際、被害者に怪我を負わせたり、死なせてしまったりした場合には、以下の条文に規定されているように、「強制わいせつ致死傷罪」となり、この場合は無期懲役か、3年以上の懲役になります。

刑法
(強制わいせつ等致死傷)
第百八十一条 第百七十六条、第百七十八条第一項若しくは第百七十九条第一項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は三年以上の懲役に処する。

ただし実際の事件の場合には、他にも「傷害罪」や「過失致死罪」、あるいは「殺人罪」といった犯罪が適用されるケースがあり、犯罪自体が「強制わいせつ」に該当するものであっても、これらのより重い罪で起訴される可能性もあります。

「準強制わいせつ」の規定

「準強制わいせつ罪」は、下記の刑法第178条に、今回の刑法改正で新たに規定された性犯罪です。

刑法
(準強制わいせつ及び準強制性交等)
第百七十八条 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、性交等をした者は、前条の例による。

第1項の「準強制わいせつ」は、条文に定められている通り、人の心神喪失や抗拒不能の状態にある人に対して、「強制わいせつ」に定められているものと同じ行為を行うものです。

心神喪失の状態とは、精神障害によって正常な判断能力を失っている状態で、熟睡している、泥酔している、麻酔状態にある、高度の精神障害にある、などを指します。

また抗拒不能とは、心神喪失の状態以外の理由で、心理的あるいは物理的に、性交等に対して抵抗することが不能、あるいは著しく難しい状態にあることを示します。具体的には、麻酔、催眠、薬物などを使用する、あるいは欺罔(人を騙す)などにより、「わいせつ」行為を行うことです。

「準」という言葉が付加されていますが、決して軽い犯罪ではなく、「強制わいせつ罪」と同様の刑罰が科されます。

「監護者わいせつ」も新たに規定される

「監護者わいせつ」は、下記の刑法第179条に規定された性犯罪で、これも新たに今回の改正で加えられたものです。

刑法
(監護者わいせつ及び監護者性交等)
第百七十九条 十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じてわいせつな行為をした者は、第百七十六条の例による。
2 十八歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした者は、第百七十七条の例による。

第1項の「監護者わいせつ」は、条文に定められている通り、監護者が「わいせつ」行為を行うものです。監護者とは、18歳未満の者を保護、あるいは監督している者で、最も典型的な例としては、同居している親が該当します。

親ではない場合には、親と同程度に保護、あるいは監督しているかどうかで決められ、具体的には、同居しているかどうか、生活状況はどうか、生活費の負担はどうなっているか、などで判断されます。

親以外で監護者に該当する者とは、例えば養親、養護施設などの職員などがあり、教師や運動部の監督などは該当しないとされています。

そしてこの監護者が、18歳未満の者に対して、監護者としての影響力を利用して、「わいせつ」行為を行った場合に、「監護者わいせつ罪」が成立します。また、「強制わいせつ罪」と違う点として、暴力や脅迫が成立要件とされていない点が挙げられます。

被害者が加害者に経済的または心理的に依存している、断れば暴行されるかもしれないという恐れを持っている、被害者が幼い場合には性的被害に遭っているという意識が希薄であること、など監護者としての立場を利用しての犯罪であると言えます。

「監護者わいせつ罪」の刑罰は、「強制わいせつ罪」と同様となります。

「非親告罪」への変更

今回の性犯罪における刑法改正において、「強制性交等」と同様に「強制わいせつ」も「親告罪」から「非親告罪」へと変更されました。

「親告罪」とは、被害者から、あるいは被害者が死亡してしまった場合にはその親族などから刑事告訴が行われなければ、刑事事件として警察などの捜査機関が捜査を進めることができないものです。

改正以前の性犯罪が「親告罪」であった理由は、被害者の感情やプライバシー保護を重んじていたからと言われ、強姦やわいせつ行為の被害に遭ったことを周りに知られたくない、あるいは捜査によって事件を思い出したくないという気持ちを勘案しているとされていました。

また強姦やわいせつ行為の加害者の多くは被害者の身辺を知るものであり、捜査を進めて告訴したならば、刑期を終えた後に復讐されるのではないかという恐れを感じることもあったでしょう。

しかし性犯罪に対しては厳罰で臨むべきだという社会情勢の変化を踏まえ、今回ようやく以上のような性犯罪が「非親告罪」とされたのです。

「非親告罪」の問題点

性犯罪が「非親告罪」となったことは、新たな問題を生むという可能性が指摘されています。

例えば被害者が告訴を希望しない場合にも、捜査機関が独自に捜査を進めることができるため、被害者が第二次被害や第三次被害に遭ってしまうことも考えられるのです。性犯罪は、たとえ軽い犯罪であっても、被害者の心には一生の傷を負わせてしまいます。

捜査が進められてしまった場合は、プライバシーの保護に問題が生じ、報道機関やSNSによるセカンドレイプといった状況も生みかねません。加えて、冤罪を生んでしまう可能性も指摘されています。「強制性交等罪」の「非親告罪」化については、慎重な運用が求められるところです。

「強制わいせつ罪」で起訴されてしまったら?

もし万が一、性犯罪の加害者として告訴されてしまった場合には、まず被害者との示談を急いで進めるべきです。「強制わいせつ罪」が「非親告罪」になったことから、被害者が告訴の意思がなくても捜査が進み、立件され裁判が行われる可能性が高くなりました。

一方で、被害者感情を考えると告訴は望まないというケースが一定割合はあると考えられます。そのような場合には、早急に被害者との示談を成立させれば、告訴取り下げ、不起訴になる可能性は残っていると言って良いでしょう。

性犯罪に強い弁護士の力を借り、示談の手続きを進めてもらうことが大切です。また、性犯罪の場合によくあるケースですが、性交等の行為について相手の合意があったと考える場合も、同様に不起訴処分や無罪判決を得るための努力が必要です。

相手との関係性や事件(とされる)当日の状況や、性交等の行為に至るまでの状況をよく説明し、弁護士の力を借りたうえで、手続きを進める必要があります。性犯罪の厳罰化が進んでいますが、冤罪は絶対に避けなければなりません。

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