逮捕された後、起訴前に身柄を解放する方法③~勾留取消請求など~

示談

逮捕後の身柄拘束を解く方法は?

刑事事件の被疑者として逮捕され、勾留が認められてしまうと、ほとんどの場合は不起訴になるか、起訴後に保釈申請が認められるまでは留置場や拘置所での身柄の拘束が続いてしまいます。

勾留と勾留延長で認められている身柄の拘束期間は最長で20日間ですが、たいていはこの期限まで次の刑事手続きは進まないのが現状です。

警察と検察の捜査機関にとっては他人事かもしれませんが、自由を奪われて身柄を拘束されている被疑者は、犯してしまった罪は償うし被害者への賠償は行うので、早く社会生活に戻りたいと考えるのが普通でしょう。

本来ならば、刑事事件の手続きは被疑者の身柄を拘束しないと進められないわけではなく、在宅捜査といった被疑者の身柄を拘束しない手段もあるのです。

状況を判断して方法を選ぶこと

勾留による身柄拘束を解く主な方法には「勾留理由開示請求」、「勾留決定に対する準抗告」、「勾留取消請求」、「勾留執行停止の申立」があります。勾留を認めた裁判所に対して行うという点ではすべて同じですが、被疑者が置かれた状況や手続きの進展状況について、適切で効果的な方法を選ぶ必要があります。

「勾留理由開示請求」は、被疑者が正当な理由がなく身柄を拘束されている可能性がある場合に行い、その理由を明らかにさせることによって、裁判所に勾留の可否を考え直させる方法です。明らかに不当な勾留による身柄拘束だと考えられる場合には、勾留決定を取消すように抗議を行う「勾留決定に対する準抗告」という手続きがあります。

以上の2つが起訴前に勾留を受けている被疑者の身柄を解放するための一般的な方法ですが、当該事件の手続きの進展度合いや被疑者の置かれている状況次第では、「勾留取消請求」や「勾留執行停止の申立」を行うことが効果的な場合があります。

いずれも一般人の知識だけでは判断がつかないと考えられますので、弁護士に適切なアドバイスを求め、より身柄解放の可能性が高い方法を取ってみることをお勧めします。

本項では、「勾留取消請求」と「勾留執行停止の申立」について説明します。

「勾留取消請求」とは?

勾留取消請求」とは、勾留を行う要件がなくなったと判断される時に、勾留されている被疑者(被告人)あるいは弁護士(弁護人)などが裁判所に対して、勾留の取り消しを請求するもので、刑事訴訟法第87条の1項に規定されているものです。

刑事訴訟法

第八十七条 勾留の理由又は勾留の必要がなくなったときは、裁判所は、検察官、勾留されている被告人若しくはその弁護人、法定代理人、保佐人、配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹の請求により、又は職権で、決定を以て勾留を取り消さなければならない。

条文を読むと被疑者側だけではなく、裁判所も職権で勾留を取り消すことが可能だということが分かります。

「勾留取消請求」とは簡単に言えば、勾留の要件がなくなったので、裁判所に対して勾留を取り消してもらうように請求を起こすことです。一方で「勾留決定に対する準抗告」は、勾留を決定したことが違法であると裁判所に訴えることで、「勾留理由開示請求」は、正当な理由で勾留が行われているのかどうかを明らかにすることになります。

これらはすべて、勾留による身柄拘束を解く方法ではありますが、それぞれ被疑者が置かれている状況や、手続きの狙いに違いがあることが分かります。

勾留を行う要件がなくなるのはどんな状況?

刑事事件の手続きにおいて、警察や検察といった捜査機関が被疑者を逮捕して勾留するのは、被疑者が住所不定であったり、また逃亡や証拠隠滅をしたりすることを防ぐためです。しかし事件の捜査が進むうちに、被疑者を勾留するこれらの理由がなくなることがあります。

よほどの重大な罪を犯していない限り、捜査がすべて終了し、事件の状況や判例によって裁判で下される判決の見通しもついている状態であれば、今さら隠滅すべき証拠もなく、また家族や仕事をかなぐり捨て、人生を棒に振ってまで逃亡することは考えにくいのが普通だと考えられます。

こういった場合に「勾留取消請求」を行うケースだと言えますが、裁判所は「被疑者が自殺するかもしれない」、「被害者に会いに行く可能性がある」、「公判に出てこないかもしれない」などの理由で、請求を退ける傾向にあります。そして本当にこれらの理由があるということを精査したのかどうかも疑わしいのです。

この現状を受け、実際に「勾留取消請求」が行われる件数は非常に少なくなっています。平成28年度の司法統計によると、当該年度中に勾留状を発付された被告人員(被疑者含む)は54,992人ですが、「勾留取消請求」が出されたのは1,163人、請求により勾留を取り消されたのはわずか236人にとどまっています。

しかし「勾留取消請求」は法令で認められた正式な手続きであるため、実績が少ないというだけで諦めることはないでしょう。請求すべきところはしっかりと弁護士と相談したうえで、手続きを進めていきましょう。

最も有効的なのは、示談が成立した時

「勾留取消請求」を出して裁判所が勾留の取り消しを認めるケースで、最も多いのは弁護士(弁護人)の活躍によって被害者との示談が成立した場合でしょう。

前述のように勾留にはいくつかの要件が必要ですが、被害者の処罰意識は非常に重視されます。被害者が犯人を罰したいと強く思っているのに、逮捕後に被疑者の身柄の拘束が解かれ社会生活に戻るようなことがあれば、それこそ捜査当局や裁判所の問題になってしまいます。

逆に言えば、被害者から「もう被疑者を処罰したいという意思はありません」といった処罰感情はないと明記した書類に被害者の署名押印をもらい、被害届を取り下げてもらうことができれば、捜査当局としてもそれ以上取調べを続ける意味がなくなってしまいます。

被害者に処罰感情がなくなれば、被疑者が逃げたり証拠隠滅したりする意味もなくなるわけです。それにも関わらず、検察が被疑者を釈放しようしない場合、裁判所に対して勾留決定の処分取消を求めて請求するのが「勾留取消請求」になります。

勾留期間中に被害者との示談を成立させることができれば、「勾留取消請求」は必ず行うべき手続きなのです。

「勾留執行停止の申立」とは?

勾留執行停止の申立」は、被疑者に特殊な事情が発生した際に、勾留を一時的に停止することを目的として行われるものです。起訴前の被疑者の勾留を解く方法としては特殊なものですが、この申立により身柄が解放されたとしても、それはあくまでも執行の停止にとどまり、取り消されるわけではないことに注意が必要です。

「勾留執行停止の申立」は、刑事訴訟法第95条に規定されています。

刑事訴訟法

第九十五条 裁判所は、適当と認めるときは、決定で、勾留されている被告人を親族、保護団体その他の者に委託し、又は被告人の住居を制限して、勾留の執行を停止することができる。

勾留の執行を停止できるのはどのようなケース?

「勾留執行停止の申立」を行い、勾留の執行停止が認められるのは、具体的には被疑者の家族が急死してしまい、葬儀に出席しなければならないというようなケースです。

一方で、家族が危篤状態に陥ったと連絡が入っても、勾留執行停止は認められないのが現実で、刑事事件で逮捕され勾留されている間は、親の死に目にも会えない厳しい状況にあるということは覚悟しておきましょう。

もっとも、「勾留執行停止の申立」を受けて勾留停止の可否を判断するのは裁判官になりますから、一人ひとりが独立した権限を持っていることもあり、被疑者に対して温情をかけるタイプの裁判官ならば、親が危篤だという理由ならば執行停止が認められるケースがあるかもしれません。

決して無駄とは言えない申立になりますので、どうしてもひと目親に会いたいというならば、弁護士(弁護人)を通じて手続きをしてもらいましょう。家族の不幸以外にも、被疑者本人が重病に罹り身柄拘束の生活に耐えられない場合も「勾留執行停止の申立」を行い、設備の整った病院に入院して治療を受けることも可能です。

この場合は、被疑者本人が耐えられないと主張するだけではもちろん認められず、留置場に出入りしている医師の診断により、入院加療が必要であると判断された場合のみ申立を行うことができます。

勾留執行停止中は、細心の注意を払った生活を

なお、勾留執行停止中は、保釈期間と同様に厳しい制限が課せられています。刑事訴訟法第96条に定められている条件に該当してしまったら、すぐに勾留執行停止が取り消されてしまいますので、細心の注意を払って行動することが肝心です。

刑事訴訟法

第九十六条 裁判所は、左の各号の一にあたる場合には、検察官の請求により、又は職権で、決定を以て保釈又は勾留の執行停止を取り消すことができる。
一 被告人が、召喚を受け正当な理由がなく出頭しないとき。
二 被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
三 被告人が罪証を隠滅し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。
四 被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え若しくは加えようとし、又はこれらの者を畏怖させる行為をしたとき。
五 被告人が住居の制限その他裁判所の定めた条件に違反したとき。

特に、本人にその意思がなくとも、事件に関係する人物に連絡したり、意味のない移動をしたりしないように心がける必要があります。

勾留が解かれても、事件は終わっていない

以上に紹介したような手続きを経て、勾留の取り消しが行われて自宅に戻れても、事件は終わったわけではなく、在宅捜査に切り替わっただけです。

起訴前に身柄の拘束が解かれて自宅に戻るというのは、あくまでも勾留が取り消されたり、一時的に執行が停止されたりしているだけということを忘れてはいけません。確かに留置場での身柄拘束が解かれて自分の家に戻ることができ、社会生活を取り戻すことが可能となるケースもありますが、事件そのものが終わったわけではありません。

事件の捜査は続いていることに留意

勾留が取り消されたとしても、警察や検察による事件捜査は続いていますし、必要があれば捜査当局から呼び出しがあり出頭しなければなりません。

これはいわゆる在宅捜査というもので、検察の検事が起訴を行うという判断をすれば裁判にかけられ、実刑の有罪判決となれば法廷で再び身柄が拘束されてしまい、拘置所を経て刑務所で服役することになるのです。

弁護士とのコンタクトは密に取り続けること

ただし、刑事事件の手続きを留置場や拘置所で身柄を拘束されたまま受けるのと、自宅に戻って自由な生活を送りながら受けるのとでは、後の社会復帰を目指すにあたり大きな違いが生じてきます。

ちなみに在宅捜査で警察や検察から呼び出しを受ける場合、検察からはやはり平日の昼間になる事が多いのですが、警察はもう少し柔軟で取調べの時間を夜にしてくれたりするようです。

勾留の取り消しが実現されたということは、ほとんどの場合は弁護士に依頼して手続きを行っているはずですが、身柄が解放されたということだけで気を緩めることなく、引き続き弁護士と密に連絡を取りながら、来るべき裁判に備えることが重要です。

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