有罪率が99%を超える日本の裁判~執行猶予付き判決を得る条件は?~
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有罪率が非常に高い日本の刑事裁判
日本の刑事裁判において有罪判決が言い渡される確率は99%以上と言われています。
実際の統計を見てみると、平成28年度の確定裁判総数が320,488であったのに対して無罪判決は104件(総数の0.03%)と限りなく100%に近い結果となっています(平成29年版犯罪白書より)。
つまり、刑事事件の被疑者となり逮捕された後に検察によって起訴されてしまうと、ほぼ間違いなく有罪判決が言い渡されてしまうということです。刑事裁判では被告人が最初から罪を認めている場合も含まれていて、現実的には量刑相場に基づいて量刑を判断するだけの裁判になっているのも確かです。
しかし刑事裁判全体の一割にも満たないと言われている、本当の意味で有罪か無罪かを争う否認裁判でも有罪率は90%以上と言われているため、日本の刑事裁判で無罪を勝ち取ることは非常に難しいというのが現状です。
これだけ有罪率が高い理由として、日本の警察や検察が非常に優秀であるとか、的確な証拠がある場合、要するに有罪になると見込まれている事件のみ起訴しているからだとか、さまざまな理由が述べられています。
本来ならば不起訴を狙うべき
このような有罪率の高い現状を鑑みると、刑事事件の被疑者として逮捕されてしまったら、どうにかして起訴されない方法を探るのが最善と言えます。逮捕直後に弁護士を雇い、被害者には弁済を行って謝罪の意思を示して示談を成立させ処罰感情をなくさせるのが最も良い方法でしょう。
しかし罪を犯してしまい実害が出ている時には、いくら弁済し謝罪するからといってもすぐに被害者の処罰感情をなくすことは難しく、逮捕に伴う勾留期間はすぐに過ぎ、検察が起訴を行うことを止めることもできません。
それでも現状では50%以上の刑事事件は不起訴となっているため、早めに弁護士を雇い対策を講じることは無駄ではなく、たとえ有罪になったとしても、略式手続で刑事事件の手続きを終わらせ早期の社会復帰を実現する方法もあります。
それでも起訴されてしまったら、次の段階で目指すべきは執行猶予付き判決となります。
刑事裁判で言い渡される判決の種類
刑事事件の裁判で有罪となると、罪に見合った刑罰が言い渡されます。罪を犯した人が受ける刑罰は、生命刑、自由刑、財産刑の3種類に分類されます。
生命刑に該当するのは死刑のみです。
自由刑とは罪を犯した者の身柄を拘束する刑罰となり、具体的には懲役、禁錮、拘留となります。
財産刑とは、刑事事件を起こして有罪判決を言い渡された者から財産を奪う刑罰で、財産というと家財道具が差し押さえられるようなイメージがありますが、財産刑はもっと簡単なもので、罰金や科料が該当します。
現実的に多いのは懲役と罰金
日本の刑事裁判において、実際に被告人に言い渡される刑罰は、懲役刑、罰金刑、およびそれらの併用です。
平成29年版の犯罪白書によると、平成28年中の通常第一審における終局処理人員の内訳は、総数57,940件に対して、死刑3件、無期懲役25件、有期懲役55,125件、罰金等が2,425件となっています。
そして判決は有罪でも刑罰の執行が猶予される「執行猶予」が付けられるケースもあり、先に述べた有罪率の高さから、実質的に起訴された被告人はこの「執行猶予」を勝ち取るために弁護人と協力して法廷で戦うことになります。
もちろんまったく身に覚えのない罪で逮捕された冤罪の場合は、無実を目指して戦うべきなのですが、本項では実際に罪を犯してしまった被告人の立場に立って説明を続けます。
「執行猶予」付き判決とは?
「執行猶予」付きの判決は、有罪であっても1年以上5年以下の一定期間にわたり刑罰の執行を猶予され、その「執行猶予」期間中に他の罪を犯さなければ、刑罰そのものが免除されるというものです。
そのため、判決で「執行猶予」が付けばそのまま家に帰ることもできますし、特定の国家資格が必要な仕事を除けば、ほぼ普通の社会人として働くことも可能で、学生ならば学校へも通えるものです。
「執行猶予」の制度は、刑務所へ収容し罰を与えるよりも、社会生活を送る中で被告人を更正させようというのが目的だと言われているため、「執行猶予」期間中に別の刑事事件を起こさなければ、刑罰が執行されることはありません。
「執行猶予」付き判決を得るための条件
法令において「執行猶予」付き判決は、刑法第25条から27条に以下のように規定されています。
刑法
(刑の全部の執行猶予)
第二十五条 次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。
(刑の全部の執行猶予の必要的取消し)
第二十六条 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消さなければならない。ただし、第三号の場合において、猶予の言渡しを受けた者が第二十五条第一項第二号に掲げる者であるとき、又は次条第三号に該当するときは、この限りでない。
一 猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
二 猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。
(刑の全部の執行猶予の裁量的取消し)
第二十六条の二 次に掲げる場合においては、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消すことができる。
一 猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき。
二 第二十五条の二第一項の規定により保護観察に付せられた者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき。
三 猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき。
(刑の全部の執行猶予の猶予期間経過の効果)
第二十七条 刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、効力を失う。
(以上、抜粋)
同条の条文からも分かるように、刑事裁判の判決において「執行猶予」が付くためには、いくつかの条件があります。
ひとつ目の条件は、該当する判決が「3年以下の懲役または50万円以内の罰金」であることです。
そのため、法定刑が3年を超えるもので減刑の理由がない犯罪、例えば殺人や強盗といった重罪については、「執行猶予」が付くことはありません。但し、日本の刑事裁判で下される判決は、検察側が求刑した量刑の8掛けが相場とも言われているため、法廷での戦い方次第では予想を覆して「執行猶予」を勝ち取ることも不可能ではありません。
次の条件は、被告人の状況です。
原則として、該当する罪が初犯であったり、前科があったとしても罰金刑のみであったりした場合には「執行猶予」が付く可能性があります。また、過去に起訴され禁固以上の刑に処せられたとしても、刑の終了から5年以上経過し、その間に禁固以上の刑を受けていなければ、「執行猶予」が付く対象となります。
「執行猶予」中の制限について
判決において「執行猶予」を得た後の話になりますが、刑務所に行くことなく社会に復帰して通常の生活を送ることが可能となりますが、「執行猶予」の期間中には制限があることを知っておきましょう。
まず「執行猶予」付きとはいえ前科が付いていることに違いはなく、弁護士、弁理士、教員の職に就くことはできず、国家資格によっては欠格事由とされることがあります。しかし前科はプライバシー情報であり、就職に際して特に問われることがなければ、基本的に一般的な職業に就くことに問題はないと考えられます。
そして、「執行猶予」の期間中に自分から罪を犯すことはまずないと信じたいところですが、予期せぬ事態に巻き込まれることはあり、特に気をつけたいのは交通違反です。軽微な違反であれば罰金刑だけで済むため問題はないのですが、人身事故を起こしたり飲酒運転が明らかになったりすれば、懲役刑を受けてしまう可能性があるのです。
その際には「執行猶予」は取り消されてしまい、懲役に服さなければなりません。
「執行猶予」を得るには弁護士の力が必要
「執行猶予」付き判決を得るためには以上で説明したような条件がありますが、最も重要なことは裁判官の心証です。「執行猶予」を付けるかどうかは、裁判官が決めるのです。
条件にすべて適っていなくても裁判官の心証が良ければ「執行猶予」を得ることも可能ですし、逆に言えば心証が悪ければ実刑判決になることもあるのです。そのため「執行猶予」付きの判決を得るために一番肝心なことは、十分に反省していることを裁判官に理解してもらうことかもしれません。
被害者との和解を始めとして、罪の弁済が順調に進んでいるという事実や、裁判が終了した後の社会生活への復帰の方法が明確であるかなど、今後再び罪を犯す可能性がないということを主張することが必要なのです。しかし被告人やその家族などだけで被害者と示談交渉を進めることは難しく、裁判においていかに反省の念を示せば良いのかといった技術については、一般人には理解しがたい部分もあるのが事実です。
法廷でのさまざまな駆け引きもありますので、実刑が予想される裁判で「執行猶予」を獲得して刑事事件を終わらせるためには、やはり経験豊富な弁護士のアドバイスが欠かせないでしょう。
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