拘禁刑とは?懲役刑と禁錮刑 一本化の目的と新設でなにが変わる?

懲役刑・禁固刑は拘禁刑に

拘禁刑とは

拘禁刑とは、犯罪を起こした方に対して刑務所または少年刑務所への収容・拘束を行う刑のひとつです。拘禁により犯人を社会生活から隔離する自由刑にあたり、改善更生のために必要であれば、作業を行わせたり、指導をすることもできます。

令和4年3月8日に法務省から国会に提出された刑法改正案に盛り込まれた刑で、今までの懲役と禁錮の2つの刑を廃止し、拘禁刑として一本化させようというものです。

現在、国会にて法案の審議が進められており、成立すれば現在の刑法が定められた明治40年(1907年)以来で、刑罰の種類が変更されることになります。

拘禁刑を新設する目的

法務省の説明によれば、懲役と禁錮を拘禁刑に一本化させる目的は、「刑事施設における受刑者の処遇の充実を図るため」とされています。
参考:法務省WEBサイト「刑法等の一部を改正する法律案 資料:法律案・理由」

国がこうした目的を掲げるのは、刑を懲役と禁錮に分けた趣旨とかけ離れた処遇がなされているという指摘があるからです。

本来の趣旨とかけ離れた処遇とは、具体的には次の2つを指します。

  • 懲役と禁錮は執行の面で実質的に変わらない
  • 禁錮を科されるのは過失犯がほとんど

懲役と禁錮は執行面で実質的に変わらないのが現状

 
まず、禁錮受刑者が、懲役受刑者と実質的に変わらない処遇を受けていることが挙げられます。

本来、懲役受刑者は、刑務所に収容・拘束され、刑務作業を行わなければならない(刑法12条2項)のに対し、禁錮受刑者は、刑務所に収容・拘束されるのみで、刑務作業を行わなくてもよい(同法13条2項)のが基本です。

禁錮受刑者の大半が請願作業に勤しんでいる

刑務作業のイメージ
ただ、禁錮受刑者から刑務作業を行いたいとの申出があった場合、刑務所長はこれを許すことができます(請願作業。刑事収容施設被収容者処遇法93条)。

実際、受刑生活のメリハリと作業報奨金(同法98条)を求めて、多くの禁錮受刑者が請願作業を申し出て、これに勤しんでいます。
そして、いったん請願作業を許された者は、正当な理由がなければこれを辞めることができません。

その結果、禁錮受刑者の大半が刑務作業に従事しているのが現状です。

こうした状況は、懲役と禁錮が刑の執行面で実質的に変わらず、両刑を分けた意味が薄れていることを示しています。

禁錮を科される犯罪のほとんどが過失犯

現在、禁錮を科される犯罪のほとんどが過失犯であることも、禁錮という刑を設けた意味を薄れさせています。

禁錮は政治的信念に基づく犯罪を主眼に設けられた刑

懲役は、殺人・強盗・放火など道徳的に非難される犯罪に対する刑です。
これに対して禁錮は、政治犯や過失犯といった、秩序維持のための取り締まりの必要上、犯罪とされている行為への刑という違いがあります。

特に、内乱罪(刑法77条)や公務執行妨害罪(同法95条)のような政治的信念に基づく犯罪については、犯人の信念と名誉を重んじ、刑務作業に服させるべきでないという考えから、禁錮を科すことができるようになっています。

そして、政治的信念に基づく犯罪に禁錮を科すことこそが、禁錮という刑を設けた主眼であると考えられてきました。

禁錮を科されるのは過失犯がほとんどであるのが実状

ただ、現在は、禁錮を科される犯罪のほぼ全てが過失犯です。

たとえば、令和2年に全国の地方裁判所で禁錮の言い渡しを受けた2,735件のうち2,734件(99.9%)は、

  • 失火罪
  • 過失傷害罪
  • 自動車運転死傷処罰法違反

といった過失犯で占められています(「令和2年司法統計年報 刑事編」より)

こうした現状は、懲役の他に禁錮という刑を設けた本来の意味が薄れていることを示すものといえるでしょう。

なお、懲役と禁錮については、下記記事で詳しい解説がされていますので、ぜひご覧ください。

拘禁刑の新設でなにが変わる?

刑務作業とカウンセリング
今回の刑法改正案が成立した場合、受刑者への処遇、あるいは刑罰全体に対して、どのような変化をもたらすのでしょうか。

予想される変化として、次の4点を挙げることができます。

  • 刑務作業が義務でなくなる
  • 再犯防止につながる柔軟な処遇が可能になる
  • 懲役と禁錮が廃止されることにより、多くの犯罪の法定刑が変わる
  • 刑務所における改善更生プログラムの策定と人材確保が必要になる

刑務作業が義務ではなくなる

拘禁刑受刑者にとって、刑務作業が義務でなくなります。

これまで、懲役受刑者は当然、刑務作業が義務付けられていました(刑法12条2項)。

法改正後は、拘禁刑受刑者が刑務作業を義務付けられるのは、刑務所が、本人の改善更生のために必要と判断したときに限られることになります。

参考:刑法等の一部を改正する法律案 第2条(PDF) 

再犯防止につながる柔軟な処遇が可能に

刑務所が拘禁刑受刑者に対して柔軟な処遇ができるようになります。

そもそも個々の受刑者の性格、価値観、境遇、犯罪歴、受刑態度などは様々です。

拘禁刑の導入は、こうした各受刑者の特性に応じて、収容・拘束に止める、さらに刑務作業を義務付ける、あるいは指導(矯正教育)を行う、というように処遇に変化と柔軟性を持たせることができます。

こうした受刑者それぞれの特性に応じた柔軟な処遇は、これまでの懲役受刑者は刑務作業があり、禁錮受刑者は刑務作業がないという形式的区分けによる処遇に比べ、より高い再犯防止効果が期待できます。

懲役・禁錮が廃止に。多くの犯罪に影響

  
刑法が定める犯罪のうち、法定刑に禁錮が含まれる犯罪は内乱罪(刑法77条)や公務執行妨害罪(同法95条)など十数種だけです。これに対し、刑法が定めるほとんどの犯罪の法定刑に懲役が含まれています。

今回の刑法改正案が成立すれば、刑法上のほとんどの犯罪の法定刑が変わることになります。

拘禁刑への一本化により特別刑法、条例、刑事手続法の改正も必要に

刑法における拘禁刑への一本化により、暴力行為等処罰法や道路交通法などの特別刑法、罰則を定めた都道府県条例、刑事訴訟法など刑事手続法といった関係諸法の改正も必要になってきます。

そのため、今回の刑法改正案が成立した場合、施行まで4~5年の準備期間が設けられるというのが大方の予想です。

刑務所における改善更生プログラムの策定と人材確保が必要になる

受刑者の改善更生のためには、刑務所における改善更生プログラムの策定が必要です。

たとえば、

  • 薬物犯罪や性犯罪の改善プログラム
  • 若年受刑者への学力向上支援
  • 高齢受刑者への福祉支援

などが考えられます。

こうしたプログラムを実施するためには、医療・心理・教育・福祉などの関連分野に精通した人材確保も欠かせません。

こうした点で、今回の法改正は、刑務所での処遇における広範囲な変化を求めるものといえるでしょう。

「応報」から「教育」へ。背景にある刑罰の捉え方の変化

今回の刑法改正の動きの背景には、刑罰の捉え方の変化があるといわれています。

犯罪を犯した者に刑罰を科することができる理由については、昔からいくつかの考え方が唱えられてきました。

そうした中で、「刑罰は犯罪に対する正当な当然の報い」とする考え方(応報刑主義)を基本とし、「刑罰によって犯人を教育し、真人間として社会復帰させ、再犯を防ぐ」という考え方(教育刑主義)も取り入れながら刑を決めるのが、これまでの我が国の刑事裁判実務の流れです。

今回の刑法改正法案では、拘禁刑に処せられた者の「改善更生を図るため」という目標が明記されています。
参考:法務省WEBサイト「刑法等の一部を改正する法律案 資料:法律案・理由」

このことは、刑罰の正当化理由について、教育刑主義の考え方が強くなった現れととらえることができるでしょう。

まとめ

今回の法改正による拘禁刑導入の主な目的は、受刑者を改善更生させ、その社会復帰を図ることにあります。

そして、罪を犯した者の改善更生を図るのであれば、刑務所収容の時からだけでなく、捜査や裁判の段階においても、個々の特性に応じた対応が大切になってきます。

捜査機関や裁判所にそうした対応を求めるのに最も強い味方になるのが、弁護士です。

自分あるいは家族が犯罪に手を染めてしまい、その改善更生を願うのであれば、まず刑事事件に強い弁護士に相談することをお勧めします。

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