刑事裁判の手順~人定質問に続いて、検察官が起訴状の朗読を行う~
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冒頭手続きにおける起訴状朗読
刑事裁判の公判は、第一回公判期日における一連の冒頭手続きから始められます。
一般的な流れとしては、被告人への人定質問、検察官による起訴状朗読、裁判官が被告人に行う黙秘権の告知、罪状認否と言われる被告人と弁護人の陳述、そして検察官の冒頭陳述まで、その後の証拠調べに入るまでが冒頭手続きとなります。
まず行われる人定質問では、法廷にいる被告人が起訴状に記載されている被告人と同一人物であるか、人違いがないかどうかが確認されます。
続いて行われる起訴状朗読は、検察官が起訴状を読み上げることにより裁判所に対して審判の対象を明らかにし、これは被告人と弁護人に対して、当該裁判における防御の対象を明らかにするものでもあります。
本項では、検察官が冒頭手続きにおいて行う起訴状朗読と、それに関する裁判におけるさまざまな原則について説明します。
検察官が朗読する起訴状とは
起訴状とは簡単に言うと、被告人がどのような行為を行い、この裁判において何の罪に問われているのかを、簡潔かつ明確に記しているものです。
起訴状を作成した検事はもとより、起訴状が届けられた裁判官や被告人、そして被告人を弁護する弁護人も含め、裁判に関わる当事者全員は、第一回公判期日の前に目を通しているはずです。
しかし後述するように、事件事実はすべて法廷で明確に口頭にて示したうえで進行するのが原則となりますので、裁判官は「では、あらためて検察官に起訴状を朗読してもらいます」と延べ、検察官による起訴状朗読を促します。
これは裁判を傍聴に来た、事情を知らない一般人のために読み上げるのではなく、裁判は法廷内での発言や、開示された証拠のみで審理されるため、これがいったい何のための裁判なのかという主旨も、法廷内で口頭にて発言しておかなければならないのです。
そのため裁判官をはじめ、裁判関係者がすべて内容を知っている起訴状も、あえて法廷内であらためて読み上げられるわけです。
起訴状には何が記載されているのか
検察官が朗読する起訴状は裁判の基点とも言えるものであり、何のために検察官が起訴を行い、裁判が始められたのかが書かれています。
地方都市で行われる刑事裁判の場合、起訴を決定した検察官と、起訴した被告人を法廷で追及する検事が同一人物という場合もありますので、起訴状は法廷にいる検察官自身が作成したものとなりますが、都市部になると起訴・不起訴を判断する捜査検事と、法廷で争う公判検事は別人となることが一般的です。
起訴状を作成した検察官と、読み上げる検察官が別人であることは特に問題はなく、当然ながら公判検事も事前に起訴状は熟読していますし、起訴状自体それほど複雑な事は書いてあるわけではありません。
起訴状については、以下の通り刑事訴訟法第256条に規定されています。
刑事訴訟法
第二百五十六条 公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。
2 起訴状には、左の事項を記載しなければならない。
一 被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項
二 公訴事実
三 罪名
3 公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。
4 罪名は、適用すべき罰条を示してこれを記載しなければならない。但し、罰条の記載の誤は、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない限り、公訴提起の効力に影響を及ぼさない。
5 数個の訴因及び罰条は、予備的に又は択一的にこれを記載することができる。
6 起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。
具体的には、事件を起こした人(被告人)の名前など、事件の発生した日時や事件の概要などの公訴事実、抵触する法律の名前や罪状が端的に記載されるものとなります。
つまり「被告人○○は、△△年の△△月△△日に、××にて××の行為を行いました。これは刑法(または特別刑法)●●条に違反する行為です」といった内容を明文化したものが起訴状なのです。
起訴状を朗読する意味
日本の刑事裁判は、いくつかの原則に基づいて執り行われます。
それは公開主義、弁論主義、口頭主義、直接主義といったもので、審判は公開の法廷において行われなければならない、当事者の主張や立証に基づいて判決が下されなければならない、訴訟資料は書面だけではなく口頭で提供されなくてはならない、裁判は裁判所が直接調べを行った証拠だけを基礎として行われなくてはならない、という決まりです。
これらの原則に則るため、起訴状はあらかじめ裁判官や被告人、弁護人に送付されていて手元にあったとしても、あらためて法廷の場において、裁判官の前で、検察官は起訴状を朗読しなければならないのです。
非常に形式的な側面が感じられますが、当該裁判においては、起訴状に記載されている事件事実以外については争点としてはならず、いくら社会的に反響を呼んでいてさまざまな憶測が報道されていたとしても、裁判官は起訴状、あるいは後に示される証拠以外のことは判決を下す判断材料としてはならないのです。
そのため、起訴状に記載されていない余罪については原則としては争点にしてはならないのですが、警察や検察による捜査段階で被告人(被疑者)が自白していて、弁護人が特に問題ないと認めた場合にのみ、起訴状にない余罪についての審議が進められることはあります。
起訴状一本主義とは
以上の原則に加えて、検察官は起訴状の提出に際し、裁判官が予断を生ずるおそれのある書類その他のものを添付してはならず、 起訴状にそれらの書類などの内容を引用してはならないとする、起訴状一本主義という原則もあります。
これは上記の刑事訴訟法第256条の6項に定められているもので、かつて戦前の裁判においては一切の証拠も同時に提出され、裁判官は被告人が犯罪を行ったであろうという予断を持って裁判に臨んでいたものを改め、戦後の改正において公平な裁判が執り行われるようにしたものです。
要するに戦前の裁判所では、公訴の提起が行われると裁判官は捜査機関が持つ嫌疑を引き継ぎ、公判でもその嫌疑を吟味して審判を下していましたが、この連続性は憲法第37条1項の「すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する」という定めに反するものとなります。
そのため現行法においては、裁判所が第一回公判期日までの間に、捜査機関の嫌疑を引き継ぐことのないように、起訴状一本主義が採用されているのです。
事件事実に対する裁判官の心証は、法廷に提出された当事者の証拠のみで形成されることになります。
被告人にとって起訴状朗読の意味は?
これまで説明したような原則や主義はあるとしても、被告人にとってほとんどの場合は初めての公判という場において、起訴状朗読が何を意味しているのかは判断がつかないと思われます。
刑事裁判の第一回公判期日では、人定質問で間違いなくこの法廷にいるのが被告人本人であると確認され、次に検察官による起訴状朗読が始まります。
その際、場合によっては裁判官が被告人に対して、「あなたの所に起訴状が届いていると思いますが、その内容は読まれましたか?」と尋ねることがあります。
起訴状は、検察官が起訴を決定した時点で被告人(被疑者)の元へ届けられる文書で、刑事事件の場合は、在宅捜査でなければ留置場や拘置所といった刑事施設に身柄を拘束されたままの状態で起訴状が渡されますので、被告人は必ず目を通しているはずですし、弁護人からも、公判が始まる前に起訴状を読んだかどうかは確認されるでしょう。
公判に向けた準備をしている段階で、万が一起訴状を読んでいないと言う被告人がいたとすれば、必ず弁護人が起訴状を読むように諭しますので、公判が始まった時点で被告人が起訴状を読んでいないことはあり得ないのですが、裁判官はあえて被告人に確認するために尋ねるのです。
事実として、裁判官の問いかけに対して被告人は「はい、読みました」と答えることになるのですが、裁判というものは、空気を読んであとは察するというような、融通が効いた手続きは許されず、面倒に思えても、必ず口頭で、分かりきったことも綿密に確認しながら進められていきます。
プライバシーにも配慮される起訴状朗読
裁判では、プライバシー情報も含め、何事もはっきりと情報開示させられてしまいます。
起訴状をはじめとするすべての裁判資料には、被告人だけではなく被害者の名前や住所もはっきりと記載されており、かつては起訴状の朗読だけではなく、公判の中で示される証拠資料に被害者の名前が記載されている部分は、そのまま読み上げられていました。
しかし被害者のプライバシーを守ろうという風潮が強くなったため、事件の内容によっては、被害者の名前が起訴状などに記載されていても、単に被害者と呼ぶだけで、住所や生年月日、あるいは勤め先などの個人情報は法廷で明らかにしない取り決めができることになっています。
以下の刑事訴訟法第290条の2に定められている決定がなされた場合は、検察官は秘匿事情が明らかにならないように起訴状の朗読を行います。
刑事訴訟法
第二百九十条の二 裁判所は、次に掲げる事件を取り扱う場合において、当該事件の被害者等(被害者又は被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系の親族若しくは兄弟姉妹をいう。以下同じ。)若しくは当該被害者の法定代理人又はこれらの者から委託を受けた弁護士から申出があるときは、被告人又は弁護人の意見を聴き、相当と認めるときは、被害者特定事項(氏名及び住所その他の当該事件の被害者を特定させることとなる事項をいう。以下同じ。)を公開の法廷で明らかにしない旨の決定をすることができる。
被告人の個人情報は?
被害者のプライバシーは守られる一方で、被告人は人定質問を始め、個人情報は公開の裁判においてすべて明らかにされてしまい、現在の日本の刑事裁判においては、被告人の個人情報を守る術はないと言っても良いかもしれません。
反面、被告人の個人情報を公開しない秘密裁判があったとしたら、一般の監視の目が行き届かない法廷において、捜査当局の良いように裁判が進められかねず、公開の場で公正な裁判を受けることは、却って被告人の利益になることもあると理解するしかありません。
どうしても被告人のプライバシーを守りたい場合は、起訴されて公判を迎える前に手続きを終わらせる必要がありますので、弁護士と十分に相談してアドバイスを受け、逮捕後の手続きを進めることをお勧めします。
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