留置場(留置所)の管轄は警察~担当さんと呼ばれる留置担当官が被疑者を管理~
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留置場(留置所)の管理を行うのは警察の「担当さん」
刑事事件の被疑者として逮捕された際、まず収容されるのは留置場(留置所)です。
原則として留置場では被疑者のみが身柄の拘束を受けるのですが、さまざまな理由から、勾留が決定した被疑者、検察によって起訴されてしまった被告人も、留置場にて収容されることがほとんどです。
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その際、留置場の管理をしているのは「担当さん」と呼ばれる警察の留置担当官で、一般的に知られている「看守」ではありません。「看守」は刑務所や拘置所といった法務省管轄の刑事施設の管理や警備を行う刑務官です。
刑事事件に関わりのない人がほとんどだと思いますが、留置場は警察の管轄、刑務所や拘置所は法務省の管轄であるということを知っておくとよいでしょう。
留置担当官とは?
留置場は警察が管理している刑事施設となりますので、そこに収容されている被疑者や被告人を管理しているのも警察官になるのです。留置担当官は、他の警察官や留置場に収容されている被疑者や被告人からは「担当さん」と呼ばれていることが多いようです。
警察官が留置担当官に任命されるのですが、その際には専門的な知識を習得するために研修が実施され、各都道府県の警察本部の留置業務担当課が管下施設の実地調査を行い、警察庁の職員も全国の留置施設の巡察を行うなど、現場職員の指導が行われます。
また、以下に説明するように、同じ警察官であっても捜査を行う部署とは違う部署に所属することになるため、「担当さん」は被疑者など収容者の味方になることもあるようです。
ずさんな留置場管理が生んだ違法な取調べ
ここで、現在の留置場の管理体制がどうやって整備されてきたのかを振り返っておきます。1980(昭和55)年まで、留置場を管理していたのは警察の刑事課でした。警察の捜査部門の下に捜査業務と留置業務が属している形になっていたため、事件を担当する警察官の都合で24時間、いつでも好きな時に好きなだけ被疑者を取調べることができたのです。
昼夜を問わない長時間の取調べを受けた被疑者は、やってもいない罪を認めてしまったり、強引な取調べにより心身共に疲弊し、自分に不利になると分かっていても警察の言い分を認めてしまったりしていたのです。このような取調べの体制が冤罪を生み出す温床になり、人権的にも問題が指摘され、社会問題化してしまいました。
当時の法制審議会で監獄法の改正作業が進み、代用監獄制度に対しても「捜査機関である警察が同時に被勾留者の身柄を拘禁していることにより、人権侵害等の弊害を生んでいる」といった批判もなされるようになりました。以上のようなことから1980年に、警察の捜査業務と留置業務を行う部門が分離され、留置場の管理は刑事課から切り離されることになったのです。
都道府県によって違いますが、具体的には業務部あるいは総務の下に警務課または総務課、留置管理課といった部署が新設され、組織的に刑事部ではなく警務部または総務部系列の部署となり、事件の捜査だけの都合で取調べを行うというような、上からの圧力がかからないようになりました。
留置施設における処遇改善も行われる
1980年の留置業務独立と同時に、留置施設における処遇改善も進められました。具体的には、収容者のプライバシーへの配慮から居室配置の変更や遮蔽板の設置などが採用され、衛生環境の確保、居室の適正な居住面積の確保、適切な食事の提供、留置場と取調室接続の廃止など、一連の措置が行われました。
この結果、かつては劣悪だった環境も徐々に改善され、現在では快適とは言えないまでも、さまざまな制限がある生活にはなりますが、それなりに納得して暮らせる状況になっているようです。
留置場の管理に関する法令
留置場の管理などに関する法令は近年整備が進められています。
2007(平成19)年には国家公安委員会規則第十一号として、「被留置者の留置に関する規則」が施行されました。
ここに第1条から第3条までを引用します。
被留置者の留置に関する規則(抜粋)
第一条 この規則は、留置施設の管理運営及び被留置者の処遇について必要な事項を定めることを目的とする。
(処遇の原則)
第二条 被留置者の処遇に当たっては、その人権を尊重しつつ、その者の状況に応じた適切な処遇を行うものとし、いやしくもその権利を不当に侵害することのないよう注意しなければならない。
(構造及び設備についての配意)
第三条 留置施設の設置及び維持管理に当たっては、被留置者の逃走、自殺、通謀その他の罪証の隠滅等を防止し、かつ、被留置者の健康及び留置施設内の秩序を維持するため、構造及び設備が、堅ろうで看守に便利なものとするとともに、通風、採光、区画、面積等を考慮しなければならない。
2 留置施設には、警報ベル、消火器、非常口等を設け、被留置者の逃走の防止又は非常災害に備えなければならない。
しかし一方で、少し遡りますが2005(平成17)年に法定された「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」では、以下のように留置業務管理についての定めがありますが、代用監獄制度とも呼ばれる代用刑事施設が法定されるといった問題もあります。
刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律(抜粋)
(留置業務管理者等)
第十六条 留置施設に係る留置業務を管理する者は、警視庁、道府県警察本部又は方面本部に置かれる留置施設にあっては警視以上の階級にある警察官のうちから警視総監、道府県警察本部長又は方面本部長が指名する者とし、警察署に置かれる留置施設にあっては警察署長とする。
2 留置施設に係る留置業務に従事する警察官には、被留置者の人権に関する理解を深めさせ、並びに被留置者の処遇を適正かつ効果的に行うために必要な知識及び技能を習得させ、及び向上させるために必要な研修及び訓練を行うものとする。
3 留置担当官は、その留置施設に留置されている被留置者に係る犯罪の捜査に従事してはならない。
収容者の健康面にも気を遣う「担当さん」
現在、留置場管理課などに所属し留置場の管理を行う「担当さん」の仕事は、被疑者を監視しつつ健康を保つこと、になっています。具体的には、留置場のタイムスケジュールに従って収容者を管理しますので、刑事課も留置場の決まりには署長の許可がなければ異例は認められません。
そのため、取調べが長引き食事の時間に影響が出そうな場合には、「担当さん」が刑事課に内線電話をかけ「もう食事の時間だから、早く取調べを終わらせて、被疑者を留置場に戻せ」と言ってくれるようです。
また、週に数回しかない午前中の入浴に関しても、被疑者は必ず入れるように気遣いを行うため、取調べは原則入浴後になり、検察や裁判所に呼び出しを受けている被疑者は、出かける前に優先的に入浴させてくれるのです。
留置場内では、自殺や脱走防止のために細々とした規則があります。それらの規則を守らせるために、「担当さん」は厳しく被疑者や被告人をチェックしますが、24時間勤務でほとんど一緒に暮らしている感覚もある「担当さん」たちは、割合気さくに話ができることも珍しくはないようです。
しかし、あまり気を許しすぎないように
「担当さん」は、時には刑事課に楯突き、留置場の収容者を守ってくれているような気分にもなります。しかし、留置場は警察の施設であることは間違いなく、何を話してもよいというわけではありません。
収容者の監視も「担当さん」の業務ですから、自身が起こした刑事事件の手続きに関してあまりにも何でも話したり、弁護士と打ち合わせて言わないでおこうと決めたことなどは決して口にしたりしない方がよいでしょう。
留置場のアットホームな感じは拘置所や刑務所を取り仕切る刑務官とは明らかに違いますが、馴れ合って余計なことを喋ると翌日の取調べの時に担当の捜査官がその内容を知っている可能性もあります。
つまり、留置場内での被疑者の言動が刑事課に筒抜けになっているのです。
「担当さん」と刑事の微妙な関係
留置場に収容された被疑者や被告人とはあまり関係ないかもしれませんが、「担当さん」についての裏話を少し紹介します。実は留置場で勤務する「担当さん」は二種類いると言われています。
まず比較的齢を重ねた「担当さん」は、身体を壊して現場の最前線では活躍できなくなった人が多く、若い「担当さん」は刑事課配属直前の警官であることが多いとされているのです。最近は、過酷な勤務体制や拘束時間が長いことから刑事になりたい若者がいないとも言われていますが、警察の花形と言えばやはり捜査課であり、その最前線に立つ刑事です。
刑事への道は、普通ならば見込みのある制服警官が刑事課から引っ張り上げられるのですが、その際にいきなり刑事課に配属になることはなく、まずは留置場管理課などに配属されるのが定石だとも言われています。
建前上の目的は、留置場で直接被疑者と触れ合って、身柄拘束中の被疑者の心情を知るためということになっていますが、実際は留置場内の情報を刑事課にあげるのが真の目的なのかもしれない、という見方もあります。
違法な取調べと感じたら弁護士に相談を
以上のように、留置場では「担当さん」が収容者の管理を行い、取調べ以外では事件の捜査を行う刑事課とは隔離されているはずですが、この体制の運用はすべて警察の管轄のもとに行われるものです。
決して違法な取調べが根絶されたとは言い難く、何が違法かも分からない被疑者や被告人にとっては、どこまで取調べを受忍するべきか判断に困るかもしれません。そのような時には、決して自分で判断せずに、刑事事件に強い弁護士に相談して対応を検討してもらいましょう。
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