「自由刑」は「懲役」「禁錮」「拘留」~受刑者の自由を奪う刑罰~

網走

「自由刑」とは、受刑者の移動の自由を制限するもので、有期と無期の「懲役」および「禁錮」、そして「拘留」があります。掲載裁判の判決結果のほとんどを占める「懲役」と、「禁錮」には執行猶予が付きますが、「拘留」には執行猶予は付かず実刑判決のみです。

受刑者の自由を制限する「自由刑」

刑事事件を起こしてしまい、起訴され裁判で有罪判決を受ける場合、刑罰は「生命刑」「自由刑」「罰金刑」の3つに分かれます。

日本で「生命刑」に該当する刑は「死刑」しかなく、人の生命を奪う刑罰となり、「極刑」や「処刑」といった婉曲的な表現で表されることも多くあります。

本項で説明する「自由刑」は、一般の方が最も想像しにくいかもしれませんが、罪を犯した者の身柄が拘束される刑罰となり、具体的には「懲役」「禁錮」「拘留」となります。

「自由刑」は刑務所や拘置所などの刑事施設に罪を犯した者が収容され、移動や生活を大幅に制限する刑罰で、自由が制限されるために「自由刑」と呼ばれるものです。

もうひとつの「財産刑」は、有罪判決を言い渡された者が財産を奪われるもので、「財産」というと家財道具が差し押さえられるようなイメージがありますが、代表的な財産刑は「罰金刑」となります。

以上の刑罰については、刑法9条に定められています。

刑法
(刑の種類)

第九条 死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。

それでは、刑事事件で最も象徴的な刑罰である「自由刑」について見ていきましょう。

「自由刑」は刑法に規定されている

「自由刑」に含まれる3つの刑罰は、以下の通り刑法第12条、13条および16条に規定されているものです。

刑法
(懲役)
第十二条 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
2 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。

(禁錮)
第十三条 禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、一月以上二十年以下とする。
2 禁錮は、刑事施設に拘置する。

(拘留)
第十六条 拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。

「懲役」については無期と有期に分かれ、有期の場合は1カ月以上20年以下となりますが、「死刑」または有期の「懲役」が軽減された場合、もしくは有期の「懲役」が加重された場合には最長30年となります。

これは、下記の刑法第14条に定められており、「禁錮」の場合の扱いも同じです。

刑法
(有期の懲役及び禁錮の加減の限度)
第十四条 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮を減軽して有期の懲役又は禁錮とする場合においては、その長期を三十年とする。

2 有期の懲役又は禁錮を加重する場合においては三十年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては一月未満に下げることができる。

「懲役」「禁錮」「拘留」のそれぞれの特徴や違いについては、後述します。

日本に「終身刑」はない

「懲役」における「無期刑」と極めてよく似た刑罰の言葉として「終身刑」があります。

しかし「終身刑」は日本の刑事法には存在しません。

「終身刑」とは、文字通り死ぬまで刑事施設に収監される刑である反面、「無期刑」は刑期を決めずに刑事施設に収監される刑となります。

そのため、「無期刑」と「終身刑」は、意味は同じであって表現が違うだけで、自由刑として終身にわたり刑事施設に収監されることは同じであり、仮釈放の可能性があるものを「無期刑」、ないものを「終身刑」とするのは誤りとされています。

刑罰の減免措置や恩赦、仮釈放については、刑罰とは別で考えるべきとされ、たとえ「無期刑」でも仮釈放が認められなければ終身にわたり収監されたままですし、仮釈放が認められたとしても、無期の刑に処せられていることが取り消されるわけではなく、保護観察下に置かれ、微罪でも罪を犯せば再び収監されるのです。

そして「終身刑」があったとしても、仮釈放の可能性はあるのです。

テレビなどでは間違った表現が繰り返されているようですので、日本の刑事法上に「終身刑」という定めがないことは覚えておきましょう。

「懲役」「禁錮」「拘留」の違い

「自由刑」には「懲役」「禁錮」「拘留」の3種類があります。

「懲役」については一般的によく知られていて、テレビや映画でも監獄の中の様子が描かれていますが、「禁錮」や「拘留」が何を意味するのかを理解している人は少ないでしょう。

なお、「拘留」と「勾留」の読み方は「こうりゅう」で同じですが、意味はまったく違いますので注意しましょう。

「拘留」は有罪が確定したうえでの刑事罰であり、「勾留」は刑事手続き上で警察に身柄を拘束されることで、無罪であっても「勾留」されてしまうことがあります。

「懲役」は刑務作業あり。「禁錮」はなし。

「懲役」「禁錮」「拘留」では、それぞれ受刑者に対する処遇が違います。

「懲役」とは、受刑者が拘置され所定の作業、いわゆる刑務作業が科せられる刑罰です。

刑務作業は、受刑者の勤労意欲を高め、職業上有用な知識および技能を習得させるという目的で行われるもので、1日8時間、週に5日間となり、拒否することはできません。

刑務作業では1カ月約4,000円程度の作業報奨金が支給され、刑期中の日用品や切手などの私物購入に充てたり、刑期終了後または仮釈放時の生活資金として使ったりすることができます。

しかしあまりにも金額が少ないことから、社会復帰後の資金としては心もとない限りです。

「禁錮」とは、受刑者が拘置されるだけの刑罰となりますが、刑務所で寝転がっていることは許されず、読書または運動をするという決まりがあります。

なお、「禁錮」の受刑者でも、希望すれば刑務作業を行うことは可能です。

やや特殊な事件で科せられる「勾留」

「拘留」は1日以上30日未満の範囲で身柄が拘束される刑罰で、刑務作業は科せられないために「禁錮」の短期版とも言えますが、「懲役」や「禁錮」とは違い執行猶予が付けられることがないので、この判決が下される場合は必ず実刑となります。

「拘留」刑が科せられる犯罪は、「懲役」や「禁錮」と比べて、非常に少なく刑法において「拘留」の刑罰が定められている罪は、公然わいせつ、暴行、侮辱のみです。

刑法
(公然わいせつ)
第百七十四条 公然とわいせつな行為をした者は、六月以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

(暴行)
第二百八条 暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、二年以下の懲役若しくは三十万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

加えて、民事訴訟法第193条に定められている「不出頭に対する罰金等」、酒に酔って公衆に迷惑をかける行為の防止等に関する法律第4条の「粗野または乱暴な言動」に「拘留」の刑罰が定められています。

加えて、軽犯罪法に規定されている33種類の行為にも「拘留」が定められていますが、近年では年間に数人程度しか「拘留」の刑罰を受けた受刑者はいません。

「自由刑」の刑罰を受けた者の状況

2016年の検察統計によると、同年に確定裁判を受けた者の総数は320,488人で、うち「生命刑」である「死刑」判決は7人、「自由刑」の合計は55,038人、「財産刑」の合計は265,061人となっています。

圧倒的に「財産刑」の「罰金」が多く、次に「自由刑」の「懲役」が続きます。

3年以下の「懲役」が多く、執行猶予が付けられている

「自由刑」の内訳を見てみると、「懲役」が51,839人と多数を占め、「禁錮」は3,193人、「拘留」はわずかに6人です。

「懲役」のうち「無期懲役」は15人で、実刑判決では20年を超えるものは20人、20年以下が50人、15年以下が147人、10年以下が770人、5年以下が2,342人、3年以下が11,524人、1年以下が5,279人となっています。

そして刑の全部の執行猶予が付けられたのが30,837人と多く、この年から新たに制定された刑の一部の執行猶予は855人と、多くの判決で執行猶予が付けられていることが分かります。

執行猶予付きの判決を得れば、社会復帰も早まりますので、3年以下の「懲役」刑を下されるような罪を犯した人は、刑期を短くするのもよいのですが、執行猶予が得られるように弁護士と協力して刑事事件の手続きを進めるべきでしょう。

執行猶予とは、判決は有罪となりますが、刑罰が即座に執行されずに、一定期間刑の執行が猶予される措置です。

新たに定められた「刑の一部の執行猶予」

なお、刑法27条2項に定められている(刑の一部の執行猶予)は、2016年の改正によって新たに追加されたもので、2016年の検察統計では、同年に855人が「刑の一部の執行猶予」を受けています。

(刑の一部の執行猶予)

第二十七条の二 次に掲げる者が三年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けた場合において、犯情の軽重及び犯人の境遇その他の情状を考慮して、再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められるときは、一年以上五年以下の期間、その刑の一部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者
三 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者

以上、抜粋

自由を奪われるとはどういう事か?

日本では「憲法」によって国民の自由が保障されています。

刑事事件の刑罰の「自由刑」は、国民に与えられた自由を大幅に制限する刑なのです。

まず一番に奪われるのは移動の自由で、裁判で有罪となり執行猶予が付かずに実刑が言い渡されると、被告人の呼び名は受刑者に変わり、身柄が拘束されて拘置所や刑務所といった刑事施設に収容されてしまいます。

刑事施設に収容されてしまえば、基本的には刑期を終えるまで自分の意思で移動することはできません。

これが「自由刑」の名称にもなっている移動の自由の制限となります。

一方で、「懲役」には刑務作業も科せられますが、かつては受刑者に安価な労働力として働かせるのが狙いであったようですが、現在では社会復帰した後の生活を見据えたものへと変わってきています。

しかしながら作業報奨金は安すぎるため、見直されるべき問題と言えるでしょう。

「自由刑」の実態に見る問題

日本の「自由刑」には、単に移動の自由だけでなく、毎日の行動パターンや食事の量に至るまで厳しい制限や規則が多くあります。

かつては移動の時には軍隊のような行進をさせ、身体チェックの時には全裸にさせられるなど、人権的に問題がある行為がまかり通っていました。

このような厳しい刑罰ですが、人によれば「懲役」期間、いわゆるムショ暮らし長さを自慢したり、社会で暮らすよりも三度の飯が保障されているという理由で、刑務所に入りたいと考えたりする者もいるようです。

人権に配慮して刑務所などでの生活が改善されているようですが、快適すぎる「懲役」は果たして犯罪の抑止効果になっているのか、疑問を呈する声もあります。

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