被害者不明の盗撮は罪になる?

被害者不明

被害者不明の盗撮とは

殺人罪であれば殺された被害者、窃盗罪であれば盗まれた被害者、などのように一般的に思いつきやすい犯罪には、被害者が存在するものです。盗撮もこれらの犯罪と同じで、「盗撮された被害者」が存在する犯罪です。

しかし、盗撮事事件の場合には少し特殊な事情が含まれることがあります。たとえば、被疑者のスマホ内データを確認したところ多数の盗撮データが発見されたが被害者がどこの誰なのかを特定することができない、というようなケースです。

盗撮は、電車などの公共の場所で無差別的に行われることが多く、犯行が捜査機関に露見してもなお、被害者不明の状態が続くケースも見られます。被害者が見つからないのに捕まってしまうというところに違和感を持つ方もいらっしゃるでしょう。

そこでこのページでは、被害者不明の盗撮であっても犯罪として処罰されるのかについて説明します。

盗撮事件で被害届は必要?

犯罪と聞くと、被害届が必要と思われる方も多いのではないでしょうか?何らかの被害を受けた人が、捜査機関に対して被害届を提出するケースは、どんな犯罪でもあることです。しかし、被害者不明の盗撮事件の場合には、そもそも被害届が提出されることはありません。

被害届とは?

被害届とは、被害者が捜査機関に対して、被害にあったという事実を申告するために作成する書類です。いつ、どこで、どのような被害にあったのかを捜査機関に申告し、捜査を開始するかどうかの判断をしてもらうための材料となるものです。

つまり、捜査機関が事件の存在を知ることができているのであれば、被害届をわざわざ提出する必要はないということを意味します。捜査の端緒になるべきものが被害届ですので、捜査を開始するための要件ではありません。

告訴とは違う?

被害届と似たものに「告訴」があります。聞いたことがある方も多いのではないでしょうか?

告訴とは、被害届と同じように犯罪の事実を捜査機関に対して申告するものですが、これに加えて、加害者に対する処罰意思をも表明する趣旨が含まれるものです。告訴は口頭でも可能ですし、特別の書式があるわけでもありません。

捜査のきっかけとなるという意味では、被害届も告訴も同じですが、犯罪の内容によっては、告訴の有無が捜査にとって大きな意味を持つことがあります。問題となる犯罪が親告罪に分類される場合、告訴によって被害者の訴追意思がなければ捜査を続けることはできません。しかし、非親告罪に分類される犯罪の場合には、告訴の有無は問われません。

盗撮は非親告罪

親告罪とは、告訴が公訴提起のための要件となっている犯罪のことを言います。刑事裁判に進むために告訴が必要とされることは、告訴がなければそもそも刑事裁判手続に進むことができないということです。捜査は刑事裁判に向けて行われるものですから、告訴がない状態では、捜査自体を進めることが許されません。

盗撮行為は、迷惑防止条例、軽犯罪法、建造物等侵入罪のいずれかに抵触するとして立件されるものです。全てが非親告罪なので、被害者の告訴が要件になることはありません。したがって、被害届の提出や告訴の余地がない被害者不明の場合であったとしても、捜査を進めることが可能な犯罪と言うことができます。

被害者不明の盗撮事件はどうなるか

盗撮事件において被害者の特定ができないとどのようなことが起こるのでしょうか?

当然立件されない?

犯罪捜査において、捜査機関は被害者に対しても聴取を行います。被害者の供述は重要な証拠として犯罪の事実を証明するものですので、犯罪捜査にとって非常に重要なポイントとなるものです。しかし、被害者不明の盗撮事件の場合には、被害者の供述調書が作成されることはありません。そのため、どうしても犯罪事実の立証という面では弱さを持つことになってしまいます。

ただし、だからと言って当然に立件されないということではありません。たとえば、電車内でスマホ搭載カメラを利用して女性のスカート内部を盗撮していたところを現行犯逮捕されたが、被害女性がその場を立ち去ってしまったというケースについて考えてみましょう。

盗撮のような性犯罪の場合、関わり合いになりたくないなどの事情から現場を去ってしまう女性も多くいます。確かにこの場合、残念ながら被害者に対する聴取をすることはできません。

しかし、現行犯逮捕されるだけの客観的な状況がそろっていたのもまた事実です。被害者がどこの誰かが分からないことと、被害者がいないということは全く異なります。したがって、被害者不明だからと言って、当然に立件されないということにはなりません。

不起訴処分になりやすい

もちろん、どのような対応の盗撮事案であったのか、どれだけの余罪があったのかにもよります。しかし、盗撮で逮捕された場合には、さらに重い犯罪と比較すると、不起訴処分を獲得できる可能性は高くなります。

たとえば、前科も余罪もない人が電車内で衝動的に持っていたスマホを利用して盗撮をしてしまったところを現行犯逮捕されたというケースを想定します。盗撮は比較的軽微な犯罪であるので、初犯で、被害者との示談も成立しているようなら、まず間違いなく不起訴処分を獲得できる類のものです。しかし、被害者が特定されていて、処罰感情が強いとどうなるでしょうか?

被害者の処罰感情が強いがために、示談が一切まとまらない状況だと、検察官もその被害者の意思を無視することはできません。残念ながら、示談が成立する場合よりも、厳しい処遇となる可能性が高まります。

これに対して、被害者不明の場合だと、そもそも「処罰感情」というものが存在しません。検察官が被疑者に対する処分を決定する際には、盗撮行為の態様、反省の意識があるのかなどの事情だけが考慮されることになります。初犯で余罪もなく、特に複雑な盗撮機器を用意したわけではない事例ですと、犯人が反省の態度を示している限りは、比較的軽い処分で済むはずです。

示談を成立させることができない

被害者不明が故に処分が軽くなるケースもあれば、逆に被害者が分かっていないために処分が重くなってしまうケースもあります。

盗撮事案の場合、被害者との示談が処分の軽重を左右する重大なファクターとなります。示談の成立内容には、これ以上処罰を望まないという被害者側の意思表示が含まれますので、これが検察官に尊重されて、処分が軽くなることは往々にして期待できることです。

たとえば、現行犯逮捕された被疑者のスマホ内から、数十枚もの過去の盗撮データが発見されたとしましょう。逮捕されたのは初めてであったとしても、過去の余罪の露見は、盗撮行為の悪質性を際立たせる事情として考慮されざるを得ません。このような事案であったとしても、被害者が特定されていて示談を成立させることができれば、いくらか処分が軽く下されることも期待できたでしょう。

しかし、被害者不明である以上示談を成立させることはそもそも不可能なわけですから、検察官は盗撮行為の悪質性のみを純粋に判断して処分を下すことになります。結果、被害者が判明している場合よりも処分が重くなる可能性を否定することができません。

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盗撮事件の解決に示談が重要な理由

贖罪寄付とは?

被害者不明のために示談を成立させることが出来ない被疑者のために「贖罪寄付」という制度が用意されています。

示談を成立させるためには、示談金の支払いが必要となります。もちろん、反省の意思を示して被害者に許しを得ることが最も大切なことです。ただ同時に、被害者が受けた心的な損害に対する賠償として支払う金銭もまた、とても重要な要素です。極端な言い方で語弊もありますが、「反省の意思をお金の支払いで表現している」との見方も可能です。

被害者不明が原因で、反省の意思を表明する機会を奪われてしまった被疑者のために用意されているのが「贖罪寄付」です。弁護士会や法テラスなどの司法関係団体に対して、反省と贖罪の気持ちを表明するために寄付をするというものです。

贖罪寄付をしたという事実は、検察官や裁判官が何らかの判断をする際に考慮されます。この贖罪寄付によって、被害者不明の事案であったとしても、被疑者に処分減軽を求める手段が残ることになります。

余罪の被害者が特定できない場合

盗撮事案では、逮捕された被疑事実以外にも余罪が多く露見するということがよくあります。余罪に係る被害者を特定できない場合だと、その余罪が別件として扱われることはほとんどないようです。

盗撮の余罪の扱いは大きく二つの方向に分かれます。別件で逮捕するのか、既に逮捕されている盗撮事案内において量刑面で考慮するのかです。ただでさえ余罪の捜査はコストを要するものです。被害者の特定が難しいと、その手間は余計に増してしまいます。

したがって、余罪の悪質性がよほど高い事案でない限り、盗撮の余罪に関して被害者が不明の場合には、別件としての扱いを受ける可能性は低いでしょう。

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盗撮の余罪で立件・再逮捕はあり得る?

被害者不明の盗撮事件は弁護士に相談!

盗撮事件で被害者不明であったとしても訴追され、有罪となる可能性は十分あることをお分かり頂けたと思います。注意すべき点としては、被害者不明のために示談等の交渉ができず、場合によっては不利益を被るおそれがあるということです。

弁護士であれば、検察官がどのような処分をする見立てなのかなどを考慮しつつ、贖罪寄付の提案など、今後の対応について的確なアドバイスをすることができます。盗撮事件で逮捕された場合には、すぐに盗撮事件に強い弁護士に相談するようにしましょう。

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