罰金刑は分割払いできる?払えない場合はどうなる?

現金

刑事事件の刑罰~罰金刑~

刑事事件の裁判で下される刑罰は、一般的なイメージからすると死刑や無期懲役、懲役〇年といったものが浮かぶと思われます。確かにテレビドラマや映画においては生命刑と言われる死刑や、自由刑と呼ばれる懲役刑がほとんどで、他の刑罰が想像できない人もいるかもしれません。

しかし実際の法廷では、日本の刑事事件の刑罰として規定されている財産刑である罰金や過料が科されることもあるのです。シナリオとしては少し締まらない感じがする罰金刑ですが、どのように科されるのか、また支払いはどうすればよいのか、支払えない場合はどうなるのかなどについて確認してみましょう。

刑事事件裁判で罰金刑が少ない理由

まず、なぜ刑事事件の判決で罰金刑が少ないのか、という理由ですが、罰金が刑罰になるような事件の場合、その多くは公開裁判をしない略式手続で終わってしまうケースがほとんどだからです。略式手続とは、裁判を書面だけで終わらせてしまうもので、公判を開かずに非公開の書面だけで処分を決定してしまうものですから、当然ながら裁判において裁判官が判決を言い渡すことはありません。

具体的には、簡易裁判所の管轄となる刑事事件において、100万円以下の罰金または科料が科せられる際に限られ、加えて被告人が略式手続に同意している場合のみ略式手続は行われます。そのため、被告人が起訴事実を認めない否認裁判の場合、略式手続は適用されず、罰金のみで済むような比較的軽微な犯罪でも公開裁判が開かれ、それで有罪判決が下されれば罰金が言い渡されることになるのです。

罰金刑に執行猶予はつかない?

刑事裁判で下される判決が懲役や禁錮といった自由刑であると見込まれる場合、被告人と弁護人は執行猶予を得ることに尽力します。有罪であることが明らかな事件でも、刑期を短くすることももちろんですが、それ以上に早期の社会復帰が見込まれる執行猶予は、弁護人が行う弁護活動において逃すことができない条件のひとつとなります。しかし罰金刑に執行猶予が付くことは、まずないと考えるべきです。

法令上、罰金50万円以下の判決であれば、裁判官の裁量で執行猶予をつけることは可能なのですが、実質的な効果がないと考えられているため、実際にはほぼ行われていません。極めて稀なケースにおいて、罰金刑で執行猶予付きの判決を得た被告人は実在が、罰金刑の判決に執行猶予をつけないというのはほぼ慣例化していますので、検察側の求刑が罰金刑だった場合、執行猶予判決を期待しない方がよいでしょう。

罰金は原則として現金一括払い

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刑事事件の加害者に科せられる財産刑の罰金は、刑法や特別刑法など多くの法令に定められています。そして、生命刑や自由刑と比べた場合、比較的軽い罪に科されることが多く、加えて範囲は非常に広く、罰金は人だけではなく法人に科されることがあるのも特徴的と言えます。

この罰金は、罪状や金額に関わらず、原則として現金一括払いで、納付した罰金は確定申告の控除対象とはなりません。

本項では、その支払い方法や、現金で支払えなかった場合について説明していきます。

「罰金」は10,000円以上

罰金の金額は、刑法第15条に10,000円以上と定められており、減額する場合には10,000円未満に下げることができるとも記されています。しかし刑法では罰金の上限は定められておらず、犯罪を規定した法律によって個々のケースで金額が決められます。

例えば刑法第204条に規定されているように、他人を怪我させるような行為で逮捕され、有罪になった場合の罰金の最高額は50万円となります。

刑法
(傷害)
第二百四条 人の身体を傷害した者は、十五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

犯罪の状況、あるいは被害者の心証などにより罰金の金額は増減されますが、罪を犯して逮捕された人が、たとえ懲役刑を免れ社会復帰をしたとしても、すぐに十分な収入を得る仕事に就くことは難しいでしょうし、罰金はその後の家計に大きくのしかかる金額と言えます。

これはある意味、罪を犯した人に罰を与えるという点では正しく、簡単に払えてしまうようならば刑罰の意味がありませんが、実際に払えるかどうかは別問題で、加害者の家族にも大きな負担を強いてしまいます。

罰金の高額化が進んでいる

近年、刑事事件刑罰の厳罰化に伴い、加害者に科せられる罰金の高額化が進んでいます。詐欺罪など多額の金銭を騙し取るものや、企業絡みの犯罪で高額の罰金が科せられることは昔から珍しくなく、それだけのお金を犯罪で得たのですから当然と言えます。

一方で誰でも加害者となり得る自動車運転に関する刑罰も厳しくなり、2014年に施行された「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律(自動車運転死傷行為処罰法)」では、最高100万円の罰金が定められています。

自動車運転死傷行為処罰法

(過失運転致死傷)
第五条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の懲役若しくは禁錮又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。

社会情勢に合わせて自動車の危険運転に対する厳罰化が行われ、他の刑罰と罰金の金額が釣り合わないという指摘もありますが、罰金の額が緩和されるとは考えられませんし、刑事罰における罰金の高額化は避けられない状況です。

罰金の支払い方は?

罰金の納付は、裁判で言い渡された人の義務となり、所定の期間内に検察庁に納めなければならず、納付された罰金は国庫に入り、国の予算として使われるため、検察庁がこれを使うことはありません。また罰金は前述したように現金一括納付が原則となり、検察庁が指定する金融機関に納めるか、検察庁に直接持って行く必要があります。

しかし刑事事件で逮捕され起訴されてしまった、あるいは略式手続であっても罰金刑が科されるような事態になれば、まとまったお金を用意するのは簡単ではありません。事件を起こしたことで会社も解雇され、事件前に働いていた収入も途絶えてしまうわけですから、支払いに窮してしまうことは想像に難くなく、一家の大黒柱であったとしたら、これ以上家族に迷惑をかけることもできないでしょう。

罰金の一括納付ができない場合は、まず納入先である検察庁に相談することから始めるのが基本です。

相談窓口は検察庁の徴収事務担当

罰金を期日までに納めることが難しい場合、検察庁の徴収事務担当にその旨を告げ、次善策を相談することができます。納付する側から先に相談に行けば、期限を延長したり、分割払いに応じてくれたりする可能性がありますので、裁判などでお世話になった弁護士にも事情を伝えて、対処方法を検討してみるのも良いでしょう。

もし罰金の支払いを先に延ばしてもらったり、分割にしてもらったりしても、一般的な借金や分割払いのような利息や手数料は不要です。

無視して放置すれば、資産の差し押さえが行われる

罰金を期日までに支払わなかった場合、検察庁から連絡がきます。書面による督促状が来ると同時に、直接電話が掛かってくることも珍しくはないようです。検察の担当者に罰金が払えないことを正直に言えば、最初は支払期限の延長を認めてくれたり、分割払いにも応じてもらえたりするかもしれませんが、ここは納付する側から先に動いておきたいものです。

どの程度の期限延長が認められるかはケースバイケースですが、数カ月も待ってくれるような甘い期待はしない方が良いでしょうし、改めて設定された期限も守れないような事態になると、当然ながら検察の担当者も徐々に厳しくなっていきます。そして罰金がどうしても支払えない、支払う意思がないと検察庁が判断する相手に対して取られる処分は資産の差し押さえになります。これは民間の借金でもよくある手法ですが、罰金を現金で払えない相手に対して、その相手の資産を強制的に差し押さえするものです。

差し押さえの対象は銀行口座であったり、家財道具だったりとさまざまで、この差し押さえで罰金に相当する金額が回収でされればそれで済みますが、差し押さえを受ける側からすれば結構厳しい状態となってしまいます。そして差し押さえでも回収できなければ、次は「労役」となるのです。

刑罰は楽にしてもらえないという現実

公開裁判において有罪判決で言い渡される罰金は、数十万円になることもよくあります。いきなり数十万円の罰金を請求されて、簡単に支払えるような資産があれば問題はないのですが、逮捕され長期にわたり身柄の拘束を受け、仕事を失ってしまう人も多いと思われますので、支払いに窮するケースもあるでしょう。しかし原則として、罰金の支払いは現金一括払いであり、分割払いは不可とされます。

罰金はあくまでも刑罰ですので、楽な償い方は認めてもらえないのです。以下に説明するように、罰金の一括払いができない場合は、元被告人は引き続き身柄を拘束されて、通常ならば刑務所や拘置所内にある労役場で、労役に服することと定められています。

実際に判決が下される際、判決公判で裁判官が「主文、被告に罰金○○万円の支払いを命じる。罰金を完納する事が困難な時は、金×××円を1日に換算した期間、被告人を労役場に留置する」と判決で述べます。刑務所での労役などと言われると、脅しではないですが、たいていの人は留置が続くことを恐れて、借金をしてでも期限日までにお金をかき集めて一括支払いするしかないと考えるでしょう。

支払えない場合は、労役で納める

刑事事件の裁判において、判決で科せられた罰金を納められない時に代わりに科せられることは労役場留置と呼ばれます。罰金や科料の判決が確定して相当金額の納付が命じられたものの、一括払いで完納できない人に対し、裁判において定められた日当の金額が、罰金や科料の金額に達するまでの間、労役場に留置されて所定の作業を行って支払うというものです。

労役場とは、刑務所や拘置所の刑事施設内において受刑者などが作業に従事させられる施設で、懲役刑を言い渡されて労役に服する場所と同じですが、受刑者たちと一緒に労役に服することはないとされています。

労役場留置の規定

罰金が一括払いできない場合に科せられる労役場留置の制度は、刑法第18条に規定されています。

刑法
(労役場留置)
第十八条 罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間、労役場に留置する。
2 科料を完納することができない者は、一日以上三十日以下の期間、労役場に留置する。
3 罰金を併科した場合又は罰金と科料とを併科した場合における留置の期間は、三年を超えることができない。科料を併科した場合における留置の期間は、六十日を超えることができない。
4 罰金又は科料の言渡しをするときは、その言渡しとともに、罰金又は科料を完納することができない場合における留置の期間を定めて言い渡さなければならない。
5 罰金については裁判が確定した後三十日以内、科料については裁判が確定した後十日以内は、本人の承諾がなければ留置の執行をすることができない。
6 罰金又は科料の一部を納付した者についての留置の日数は、その残額を留置一日の割合に相当する金額で除して得た日数(その日数に一日未満の端数を生じるときは、これを一日とする。)とする。

罰金を支払えない場合は、1日以上2年以下にわたり、労役場に留置されて労役に服し、働いて罪を償うことになるのです。

この際の日当と期間は罰金刑の判決とともに言い渡されますが、現在、多くの場合に1日の留置は5,000円相当と換算されており、例えば罰金が20万円の場合は40日間の労役が必要となる計算です。

罰金回収の実情は厳しいもの

かつては、罰金が支払えない場合に労役場で完済するまで労役を科せられると言われれば、たいていの人は無理してでもお金を用意して完納していたと言われます。労役場留置は罰金刑を自由刑に置き換えるもので、懲役刑を受けているのと同様に刑事施設の厳しい規則を守り、秩序を守って時を過ごさなければならないのです。

ところが近年、罰金を支払うよりも労役を選択する人が急増しているようです。道路交通法違反の罰金額が高額化したことや、もともとの収入が低い低所得者層が拡大したことなどが原因とされていますが、かつて通用していた国や検察側の目論見、いわゆる労役を科すと突きつければ罰金の金額に関わらず支払うだろう、というような考え方は通用しない時代になっているのが現実です。

事実、検察が資産差し押さえをしようにも本当に資産がなく、本当に罰金が払えずに労役を選ばざるを得ない人が増えてしまったということでしょう。また労役といっても、実際には紙袋作りのような内職のようなもので、規律は厳しいのですが、監視員の元で過酷な肉体労働を強いられるようなこともありません。

元被告人側の不都合となることは、労役場留置は労役場のある刑事施設内に身柄が拘束されてしまいますので、普通の会社員の場合は職を失う可能性が高いのですが、非正規社員が多い現状では、失職を心配することもない労役志願者もまた増えているのです。検察の側からすると、労役も懲役と同じく完全な赤字経営であり、罰金を労役で返させたところで、利益どころか損失となるばかりと言われています。

支払いに窮した場合は、弁護士に相談を

以上のような背景があることも踏まえ、罰金の金額が高過ぎて一括払いができない場合には、弁護士に相談して検察庁の担当者に話を付けてもらうことが有効です。検察庁は労役をさせるよりも確実に罰金を回収したいという意向があるため、数回の分割払いが認められたケースもあると言われています。

罰金が一括払いできないからといって、再び身柄を拘束され労役場留置になるよりは、前向きに社会復帰に向けて歩み始めることをお勧めします。

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