刑事裁判の手順(6)証人尋問

証拠調べのヤマ場「証人尋問」

証人席

一人の証人対して検察官・弁護人・裁判官が質問する

刑事裁判の証拠として提出された証拠書類は、基本的に裁判官が読んで審理しますので、わざわざ法廷内で全文が読み上げられることはありません。法廷内で公開で行われる主な証拠調べは、被害者や目撃者、あるいは証拠書類で証拠の鑑定をした鑑定人といった証人に直接質問をする「証人尋問」です。

証人尋問は、一人の証人に対して、検察官と弁護人両方が質問する上、多くの場合裁判官自らも質問します。ですから1回の公判で証人質問が出来る人数はそれほど多くありません。法廷に何人の証人を召喚するかで、その裁判の期間は決まってくるわけです。

証人への召喚は拒否権なし

出廷は強制だが、日当と交通費は支給される

証人は
「この人を証人として法廷に呼んで欲しい」
と検察側・弁護側、双方から裁判官に申請しますが、裁判官が申請された証人全てを採用するとは限りません。裁判所も役所のひとつとして効率を重視します。無駄に審理を長引かせるだけだと思われた場合は、申請した証人が却下されることがあるわけです。

証人として採用された人の元には裁判所から「召喚状」が届きます。

「何年の何月何日に○○地方裁判所に××の事件に関して証人として出廷してください」

という主旨の手紙ですが、拒否権はありません。病気など正当な理由がない場合、召喚状を無視して出廷しないと、刑事罰(罰金刑)に処せられる可能性があります。

さらに最悪の場合、召喚を無視し続けると裁判所から下される処分は「勾引」です。勾引というのは強制的に身柄を拘束されて、裁判に出廷させられることで、通常は公判の開かれる前日から裁判所の最寄にある刑事施設(拘置所か留置場)に拘束されてしまいます。
ただ証人としての召喚は、ある日突然裁判所から通知が来るわけではありません。

事前に警察か検察、あるいは弁護士から「裁判で証言してくれませんか?」という打診があります。この時点で頑強に拒否すれば、証人として申請される可能性は低くなるでしょう。

裁判所が遠隔地にあっても、証人として出廷するための交通費、そして日当は当日現金で支給されます。日本の司法の考え方では“裁判で証人として証言することは国民の義務”となっています。証人として出廷を求められたら、極力協力しましょう。

証人が嘘をつくと罪になる

黙秘権はなし/証人の発言は責任が重い

証人として刑事裁判に出廷する場合、基本的に証人本人は傍聴席に座ります。話題になって傍聴席が満席になるような場合でも、証人の出廷は事前にわかっていますので、傍聴席の中に証人の指定席が設置されているわけです。また性犯罪の被害者や、組織犯罪の証言者など、証人が被告人や傍聴人に対して顔出しできない場合は、別室で待機するケースもあります。

公判が開廷されて証人尋問が始まると、証人は証言台に立ちますが、顔出しNGの場合は仕切り板が立てられたり、隣室からビデオ中継をします。そこで証人が最初にするのは「宣誓書」の読み上げです。地方によって文面は微妙に違いますが、「包み隠さず、真実だけを証言します」という意味の宣誓をします。

この宣誓をしたことで、証人は法廷内の証言に関して嘘をつくと「偽証罪」に問われることになるわけです。といっても裁判の判決を左右するような嘘を除けば、本当に偽証罪に問われる事はまれです。また、あまり知られていませんが、証人には“黙秘権がない”という事実があります。

確かに証人というのは裁判の法廷において、何かしらの証言をするために出廷するのですから「黙秘します」というのでは話になりません。
ただし刑事裁判の場合、証人が自分の発言によって家族などが罪に問われる可能性がある場合に限って、証言を拒否できる「証言拒絶権」は認められています。また医者や弁護士などが持っている「守秘義務」も有効です。

もっとも人の記憶というのは、いつまでも鮮明に残っているとは限りませんので、
「記憶にありません。」
「覚えていません。」
というのは“アリ”とされます。
証人の証言は裁判では重要な証拠になります。証人に黙秘権は認められませんが、責任が重要であるからこそ、曖昧な記憶で証言するのではなく、記憶に自信がないばあいは、素直に忘れたとか覚えていないと言いましょう。

尋問の流れ

出廷した証人は検察側・弁護側、双方から尋問される

普通はその証人を申請した側、たとえば検察側が被害者本人を証人として申請した場合は、検察官から質問を開始するわけです。ただ刑事裁判の証人は、原則自分から発言することはありません。
検察官が
「事件当日、証人はどこにいましたか?」
「被告人とは面識がありますか?」
といった質問をして、証人は質問されたことに答える形で証言をします。

この時、よくあるのは、証人が質問をした人の方を見て質問に答えることです。
こうした場合、証人は裁判官から
「証人は裁判官の方を見て答えてください」
と軽く注意を受けます。

証人にしてみれば、会話は質問をした人の方を見て話すというマナーを守っているつもりなのですが、裁判官は審理をする上で、証人の目の動きや、表情の変化も慎重に観察したいわけです。裁判官の方を向きながら証言をするというのは、裁判の法廷独特の作法だと言えるでしょう。

証人を呼び出した側は、証人の証言によって自分の主張を、十分裁判官に伝えると質問を終えます。しかし次には「反対尋問」と呼ばれる相手側からの質問があるわけです。検察側が呼んだ被害者本人であれば、検察官の質問が終わった後、今度は被告人側から被害者に質問をします。

ただ被告人本人が質問することは出来ません。検察側の呼んだ証人に質問をするのは被告の弁護人です。検察官が証人にする質問の内容は、あくまで被告人を有罪にするためにする質問ですが、弁護人がする質問は真逆で被告人の無罪を証明するためのものや、罪を軽くするための質問になります。

したがって起訴事実を否認しているような裁判だと、弁護人は検察側の証人の証言に対して矛盾点を指摘したり、まるでドラマのような展開をみせるわけです。もっとも、実際の法廷で「否認裁判」は滅多にありませんので、そうしたドラマチックな証人尋問はそうそうありません。

そして双方の質問が終わると、基本的に「証人尋問」は終わりなのですが、終わる前に裁判官が証人に対して直接質問することがあります。
検察側からも弁護側からも質問されなかったことや、質問の流れの中で裁判官が個人的に持った疑問を尋ねるわけです。
こうした流れで一人の証人に対する「証人尋問」は終わります。

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