最終弁論とは?被告人の最終陳述と続き結審へ

被告人

裁判の最終手続きとは?

刑事裁判の流れは、冒頭手続き、証拠調べ手続き、最終手続き、そして判決手続きと、大きく4つに分けることができます。

まず第1回公判期日から開始される冒頭手続きにおいては、被告人に対する人定質問、検察官による起訴状朗読、裁判官による被告人に対する黙秘権などの告知、被告人・弁護人による罪状認否と続きます。

証拠調べ手続きでは、検察官による冒頭陳述、証拠調べの請求、証拠調べ、証人尋問、被告人質問が行われます。

最終手続きは、検察官による論告求刑、弁護人の最終弁論で、これらは弁論手続きとも呼ばれ、検察官と弁護人が証拠に基づいて被告人が有罪か無罪か、あるいは刑罰の重さについて意見を表明する手続きです。

そして裁判官が被告人の最終陳述を求め、裁判はいよいよ結審を迎えます。当事者が主張を出し尽くした後に判決手続きが行われ、裁判長が判決を告知します。

本項では、最終手続きにおける弁護人の最終弁論と被告人の最終陳述という、弁護側の手続きについて説明します。

最も重要な弁護人の最終弁論

刑事裁判の最終手続きで最初に行われる検察側の論告求刑は、あくまでも警察や検察といった捜査当局の目線による事件のまとめであり、検察側の目的は被告人の有罪を立証し、その犯罪に見合った刑罰が下るように追及することです。

そのため、検察官による論告求刑だけを聞いていると、例えば殺人事件の場合には、「被告人は血も涙もない悪党で、どのような刑罰が下されても文句は言えない」と感じさせてしまうような内容となります。

しかし、犯罪事実という真実はひとつであっても、見方を変えればまったく違った様相が見えてくることがあります。罪を犯してしまった被告人にはさまざまな理由があり、犯罪に至ってしまった経緯も、情状酌量の余地があったりするのです。

そして弁護側の目的は、検察とは違った観点から犯罪事実を見て、検察の主張で否定すべき所は否定し、その理由となる証拠を示し、被告人に下される刑罰を少しでも軽くすることにあります。

そのためには、ありとあらゆる法廷テクニックを駆使し、検察官の狙いを打ち砕くことが必要で、被告人のことを強く非難する検察官からの論告求刑に対して、弁護人は最終弁論で反論するのです。

最終弁論は、弁護人の腕の見せ所

弁護人の最終弁論は、あくまでも被告人を無罪とする、もしくは刑罰を軽くするのが目的ですから、最初から被告人が起訴事実を全面的に認めている量刑裁判では、それほど熱のこもった弁論は見込めないかもしれません。

しかし量刑裁判においても、最終的に裁判官が下す判決が、懲役刑に執行猶予がつくかどうか微妙な状況、といった場合には弁護人にしっかり弁論してもらわなければなりません。

弁護人の最終弁論とは、弁護人が当該事件の情状や法律の適用について、これまでの裁判の推移を勘案したうえで、弁護人の最終的な意見を述べるものです。ある意味では、あらゆる法廷テクニックを駆使して、検察官の論告求刑に反論する場と言えます。

最終弁論においては、被告人が十分に反省していることを示し、被害者への贖罪を行っているなど、情状酌量を裁判官に向けて主張します。この主張を裏付けるために、被害者との示談が成立していることや、再就職先の見込みがあること、誰が監督指導を行うのかなど、社会復帰のための道筋が明らかになっていることを主張します。

また、検察官による求刑は不当に重いものであると主張し、弁護人が妥当だと考える刑期を示したり、執行猶予付きの判決を求めたりすることもあります。

証拠調べなどの公判において反論を行うことに加え、以上のような法廷外の事情も重要になるため、事前にすべての手続きを済ませておけるかどうかも、良い弁護士かどうかの分かれ目になります。

日本の刑事裁判では少数とされる、弁護側が検察側の主張をまったく認めない否認裁判になると、弁護士が活躍する余地はますます増え、無罪を主張するために警察や検察の目線で述べられた論告求刑の事実とは真っ向から対立する、弁護側目線による事実を主張し、検察側の見解の矛盾点を指摘します。

検察官による論告求刑の倍以上ある分量の書面を読み上げる弁護人や、原稿を持たず身振り手振りを加えて熱く反論をする弁護人など、さまざまな弁護人がいます。テレビドラマの裁判でも熱弁が繰り広げられる最後の弁論ですが、法廷全体を巻き込むような雰囲気を作り出し、被告人と弁護人が見る事件の事実を、裁判官に訴えるのです。

弁護士選びを間違わないために

但し、弁護士の中には、否認裁判であってもあまりやる気が見られず、最終弁論もあっさりと終えてしまうような人もいるのが事実です。特に、被疑者・被告人が選任しない国選弁護人ではこうした弁護士人に当たる可能性も否定できず、その場合には残念ながら刑罰が軽減される見込みは少ないでしょう。

そこには、弁護活動を依頼してから被告人と弁護人の良好な人間関係を築けず、信頼関係がなかったことも理由として挙げられるかもしれません。弁護士が何もかもしてくれるという態度ではなく、お互いに力を合わせて望む判決が下されるように、共に努力することも必要でしょう。

最終弁論に至ってそのことに気付いても遅いので、依頼者のために真剣になってくれる弁護士を選任することはもちろんですが、最初の接見から信頼できる相手かどうか、相性が合うかどうかを見極めることが重要だと言えます。

自由に発言できる唯一の機会、被告人最終陳述

刑事裁判の手順において、最終手続きの最後に行われるのが被告人の最終陳述と呼ばれるものです。

弁護人の最終弁論が終わり、判決手続きに移る前に裁判官は、被告人に証言台の前に立つように促し、「これで審理が終わりますが、被告人は最後に何か話しておきたいことはありますか?」と尋ねます。

第1回の公判期日で人定質問に答えた後、公判で被告人自ら事件について語ることはなく、弁護人や検察官、そして裁判官からの質問に答えるだけでした。つまり被告人は裁判においてはほぼ自発的な発言はできないのです。

もちろん証拠調べにおける被告人質問では弁護人が、極力被告人が自分の言いたいことを主張できるように、上手く質問し誘導するのですが、それでも限界はあります。最後の最終陳述で裁判官から尋ねられる時は、自分の意見を思う存分法廷で主張できる唯一の機会になるのです。

最終陳述で話す内容は?

実質的には、公判の弁論手続は弁護人による最終弁論で終わるのですが、被告人の最終陳述の内容はもちろん裁判官も聞いていますので、当然ながら裁判官の心証に良い影響、または悪い影響を与えます。

腕の立つ弁護士であれば、最後の公判の前から被告人から話したいことを聞き出し、裁判官の心証を良くするような原稿を作成し、被告人に渡していることでしょう。

量刑裁判であれば、事件を起こしたことへの反省や被害者に対する謝罪などを主張し、社会復帰の道筋が付けられていることを示し、二度と罪を犯さないことを誓うといった内容も盛り込むのも有効でしょう。

一方、否認裁判であれば、あらためて自らの無罪を主張する最後の機会です。ただし感情的になって「オレはやってない!」と、検察官や裁判官に食ってかかるような態度は慎んだ方が無難です。

被告人の最終陳述が終わると、判決言渡しへ

被告人の最終陳述が終わり、裁判の最終手続きが終了すると、裁判官は判決の日時を告げます。ほとんどの場合は1~2週間後になりますが、事件や公判手続きの進展状況によって、当日となることもあります。

この判決言渡しをもって、いよいよ刑事裁判は一応の終了を迎えます。

弁護人のアドバイスで効果的な最終陳述を

普通の弁護人であれば、どのような陳述をすれば良いのかといったアドバイスは当然しているはずです。しかし準備をしていなければ、最終陳述は任意ですから、「特にありません」と答えてしまうなどで、せっかくの発言の機会を無駄にしてしまいます。

被告人と弁護人とのコミュニケーションがうまく行っていない時には、被告人の性格にもよりますが、とんでもない暴言が飛び出すこともあるようです。裁判官はそのような被告人の最後の言動を見聞きして判決を下してしまいます。

自身の身の潔白を訴えるにしても、それまでの公判で明らかになった証拠や証人の証言を元に、理路整然と無実を訴える方が、裁判官の心証には響くことでしょう。せっかくのチャンスを逃してしまわないように、被告人は弁護人と良好な人間関係を作り、最終陳述においても効果的な発言ができるように、準備を怠らないようにするべきです。

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