刑事裁判の手順(5)証拠調べ

刑事裁判における“証拠”とは

証拠物

裁判官は法廷の中で真実を見つける

「人定質問」で被告人を特定し、「起訴状朗読」で裁かれるべき罪状を明らかにし、「冒頭陳述」で事件のあらましを説明したところで、いよいよ本格的な裁判の審理が始まります。

裁判官は、この裁判の法廷内で明らかになった証拠のみで、判決を出すことになっています。
テレビや新聞などのメディアが報じる犯罪ニュースは、事件のスキャンダル性や社会感情などが影響し、偏りのある報道になってしまう可能性がどうしても存在します。
裁判官は、公平性に欠けた情報により判決が影響されることを避けるため、法廷内で明らかになった証拠のみで判断する考え方を行うよう教育されています。

法廷内で示される証拠

法廷内で示される証拠は、以下の3つがあります。

  • 証人
  • 証拠書類
  • 証拠物

「証人」は、ご存知の方も多いとは思いますが、法廷で証言する人のことです。

次に「証拠書類」は、被告人や被害者の供述調書などをはじめとした事件に関する書類になります。

そして「証拠物」は被告人が犯行に使った凶器や道具といった“物的証拠”全般です。

「証拠の不同意」とは

証拠書類は使わせないこと出来る

民事裁判の場合、原告・被告双方が出した証拠は、基本的に全て採用されて裁判官の審理の対象になります。ところが刑事裁判では、検察側や弁護側が証拠として提出しようとしても、裁判官が却下して不採用になるケースがあります。

刑事裁判の立証責任は検察側になります。検察側は「冒頭陳述」を終えた後、裁判官に様々な証拠を提出するわけですが、証拠書類に対して、弁護側が
「不同意です」
と言ってしまうと、原則として裁判では証拠として認められません。ただこの「証拠の不同意」は、弁護側が出した証拠に対して検察側も発動できる権利です。

検察側も弁護側も不採用になった証拠書類に書かれた事実を裁判官に示す方法は、書類証拠のネタ元になった人物を法廷に呼んで「証人」として証言してもらうという手段を使います。

証拠書類が採用されないことがある理由

刑事裁判は書類を信用していない

こうした煩雑な手続きがあるのは、刑事裁判は伝聞を信用しないからです。
“伝聞”というのは「Aがこう言っていた」というような、法廷にはいない人物がした証言になります。

証拠書類の多くは被告人や被害者、あるいは目撃者などが語ったことを書き留めた供述調書です。被告人本人は法廷にいますので問題はありません。
ところが被害者や目撃者の詳述調書を読んだときに、疑問があってもそれを問いただす事は出来ない“伝聞”になってしまいます。

したがって刑事裁判においては、検察官も弁護人も相手の主張を崩すために書類証拠を不同意にして、被害者や目撃者を法廷に出廷させ、論戦を挑むのが法廷テクニックとして行われています。
また裁判官も書類に疑問があれば、直接本人に質問できますので、書類証拠より証人を重要な審理対象にしています。

日本の刑事裁判で「不同意」は滅多に聞けない?

証拠書類の脆弱性を狙って、証拠採用に「不同意」をするような裁判は、被告人が起訴事実の一部、あるいは全部を否認しているケースです。日本の刑事裁判の90%以上は、もともと被告人が起訴事実を全面的に認め、あとは量刑を決めるだけの「量刑裁判」になっています。

起訴事実をとことん争う「否認裁判」であれば、ありとあらゆる法廷テクニックを使って検察官と戦う必要がありますで、証拠の不同意も行うでしょう。しかし量刑裁判の争点はいかに罪を軽くするかですので、検察官の提出する証拠書類に対して個別の反論は行われません。

そのように検察官(あるいは弁護人)の提出した書類に同意する場合は、ただ単に
「同意です。」
という他、
「しかるべく(然るべく)」
という言い回しも法廷ではよく使われます。

提出された証拠の量で裁判の期間は変わってくる

刑事裁判は日本の場合、そのほとんどは被告人が最初から罪を認めている量刑裁判ですので、検察側と弁護側が証拠を出し合って厳しい論戦を繰り返す審理は滅多にありません。大抵の公判は第一回で結審し、第二回で判決となるのが普通です。
しかし起訴事実を否認している否認裁判は、検察側も弁護側も多くの証拠を提出します。

特に双方が証人を呼び、「証人尋問」が行われると、一回の公判で行われる証人尋問は一人か二人、多くても三人程度で終わってしまいますので、裁判自体が長期化するわけです。完全否認の裁判であれば、初公判から1年以上かかるケースも珍しくはありません。刑事裁判の否認事件で、弁護人の腕をみる場合、どれほど多くの証拠を提出できるかという点は重要だといえるでしょう。

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