少額の現金を騙し取る「寸借詐欺」~多様化する「詐欺」の種類~

寸借詐欺

「寸借詐欺」とは、人の善意につけ込む犯罪

「詐欺」という行為を行うことも、巻き込まれることも、普通に社会生活を送っていると、なかなか想像できないことでしょう。しかし「詐欺」の中には、突然加害者にも被害者にもなってしまう可能性があるものがあることを知っておきましょう。

その中でも、予想していない時に突如巻き込まれる可能性があるものが「寸借詐欺」です。誰もが持っている、「少しのお金なら大丈夫だろう」という善意と油断によって、罪を犯す意識も低いままに、手を染めてしまう行為と言えます。

「寸借詐欺」の典型的ケース

被害者の立場に立って、「寸借詐欺」の典型的なケースを紹介します。

ある日、街を歩いていると、見知らぬ人物が声をかけてきます。「寸借詐欺」の行為者は切羽詰った様子を装い、「財布を落としてしまった」、「財布をスリにすられてしまった」などと、手持ちの現金がなくて困っていることを被害者に伝えてきます。

その相手は見も知らぬ人ですが、一見して「詐欺」を行うような人には決して見えないことでしょう。そして行為者は、「帰りの交通費を貸して欲しい」などと、数千円から2~3万円の現金を要求してきます。

後で返すつもりであるという証明として、名刺を渡したり、携帯電話の番号を教えたりしてきますが、その名刺に書かれている内容は虚偽、携帯電話も繋がらないか、あるいは繋がっても相手が出ることがないものです。

お金を騙し取られたと気づくのは、約束した連絡が来ないと電話をしてみた時でしょう。

災害などに便乗した「詐欺」も横行

最近では、東日本大震災の被災地に家族がいて、安否確認のため現地に行きたいが旅費がないといった、誰もが助けたいという思いを利用して金を騙し取ろうとする非道な手口もあったようです。後に説明する、「募金詐欺」も似たようなものです。

さらに、「寸借詐欺」を仕掛けてくるのはさまざまな年齢や素性、身なりをしています。スーツを着ている明らかなサラリーマン風の風体だったり、地方から出てきて困っているような学生のようであったり、逆に思わず助けの手を差し伸べたくなるようは老人までいるようです。

また旅行先で財布をなくした振りをする外国人の様を装ったものもいます。

以上のように、人の善意につけ込んで、比較的少額の金銭などを騙し取る「詐欺」が、一般的に「寸借詐欺」と呼ばれるものです。

「寸借詐欺」は、「詐欺罪」が適用される。

「寸借詐欺」で逮捕された場合、警察による取調べの後、起訴相当と検事が判断すれば、基本的には「詐欺罪」が適用されます。

「詐欺罪」は、次の通り刑法第246条に規定されています。

刑法
(詐欺)

第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

「詐欺罪」とは、人を欺いて財物を交付させたり、財産上の不法の利益を得たり、これを得させる行為と定められています。また、実際に利益を得なくても、行為自体が行われた場合は「詐欺罪」の未遂として犯罪となります。

「詐欺罪」が適用された場合の刑罰は?

「寸借詐欺」で逮捕され、「詐欺罪」で起訴されて裁判にまで進んだ場合、どのような刑罰が下される可能性があるのでしょうか?

「詐欺罪」の刑罰は10年以下の懲役と、非常にあいまいに決められているだけですが、「詐欺」によって得た利益の大きさや、悪質な犯行かどうかで量刑が決められます。

「寸借詐欺」の場合は被害金額が少額で、たとえ「詐欺罪」が成立したとしても短期間の懲役になると考えられます。

しかし「寸借詐欺」で捕まるようなケースでは、繰り返し犯行を重ねていることが多く、その程度によれば非常に悪質と判断され、比較的長期の、また執行猶予のない実刑判決となる可能性があります。

犯行件数と被害金額で判断される

「寸借詐欺」で警察に逮捕され、検察に起訴された場合の量刑は、かなりの幅があるようです。「寸借詐欺」は食い逃げなどと同様に、「詐欺罪」の中でも場当たり的で計画性は乏しいのですが、多くの場合複数の余罪があるのが特徴的です。

その理由は、「寸借詐欺」の成功率が高く、慣れてしまえば犯人は同じ手口で犯行を繰り返し、その後ようやく警察に逮捕されるというパターンが多く、その頃にはかなりの犯行件数と被害金額に達しているのが常です。

過去の判例などから見ると、「寸借詐欺」の刑罰は、懲役6月~2年程度と幅があり、執行猶予がつくこともありますが、初犯でいきなり実刑となることもあります。

「寸借詐欺」の量刑は、示談次第

「寸借詐欺」に限らず、刑事事件で有罪になった場合に、裁判において言い渡される量刑には、示談が成立しているかどうかという点が大きく影響を与えます。

「寸借詐欺」は、一件当たりの被害額は比較的少額であることが多いので、立件された事件の被害者に対して速やかに借りた金を弁済し、被害者との示談を成立させるのが少しでも軽い量刑で済ませるポイントとなります。

私選弁護人を選んだ方が示談交渉はスムーズ

「寸借詐欺」の事件では、たいてい被疑者の段階で逮捕されて、身柄が留置場で拘束されてしまうため、被害者との示談交渉を行うのは弁護士の役割となります。

逮捕容疑は最高刑が懲役10年の「詐欺罪」となりますので、被疑者の段階で国選弁護人を雇うことは可能ですが、国選弁護人の場合、被害者との示談交渉まで熱心にやってくれる人に当たるかどうかは運次第ということがあります。

そのため、多少の弁護士費用を支払ったとしても、私選弁護人を雇った方が示談の成功率は高いと考えられます。

示談金の支払いも必要

「寸借詐欺」などの刑事事件の示談交渉では、借りた金をそのまま返せば済むというわけではなく、被害額を大きく超える示談金を請求されることがあります。少額の詐欺で得た借金が、はるかに高い代償を支払わされる結果になってしまいます。

「寸借詐欺」をしないにこしたことはないのですが、何らかの誤解から被害届を出され逮捕されてしまった場合には、信頼のおける弁護士に刑事手続きを依頼し、なるべく量刑の少ない結果となるようにした方が良いでしょう。

実際には立証が難しい「寸借詐欺」

以上の通り説明してきた「寸借詐欺」ですが、被害者の立場になると刑事事件化させるのがかなり難しいという側面があることも事実です。

刑事事件の被害者になった場合、ひったくりや痴漢のように、発生してすぐに犯罪とわかる事件であれば、相手を緊急逮捕する、交番に駆け込む、110番に通報するなどの行動を起こせば、事件化はさほど難しくないでしょう。

ところが「寸借詐欺」の場合、犯人は最初に人の善意につけ込み、金は必ず返すなどと言ってお金を借りるため、騙されたことが分かるまで時間が掛かることがあります。しかも被害金額が数千円、多くても数万円と少額であることから、警察に被害届を出しても積極的にきちんと捜査を行ってくれないケースも見られるようです。

残念なケースでは、被害届すら受理されず、被害者が泣き寝入りになってしまうようなことも考えられます。

被害が続出してようやく事件化

同種の手口の「寸借詐欺」被害が頻発した場合に、ようやく警察が捜査に乗り出すということは珍しくありません。

加えて実際には、都道府県を跨いだ事件に関して警察内での情報共有はあまり行われていないのが実態のようで、「寸借詐欺」の犯人が県境を越えて複数個所で詐欺行為を行った場合、犯人の特定や逮捕までに相当な時間がかかることも見込まれます。

人の善意に付け込んだ悪質な「寸借詐欺」の犯人をどうしても許せない場合は、正式に「刑事告訴」手続きをする必要があります。

手続きは原則として警察に行って口頭でも行うことが可能ですが、警察の対応を含めて手続きをスムーズに進めるには、やはり書面を作成する必要がありますので、弁護士など法律の専門家に相談するのが良いでしょう。

判明している被害は、ほんの一部の可能性も

「寸借詐欺」は犯人にとって見知らぬ他人だけを標的にしているとは限らず、返す気もなく友人や知人に口先だけで、小口の借金を頼んで帰さないといった場合でも成立します。

とはいえ、借りた方が顔見知りの場合、借金を繰り返す相手に対して、刑事告発をするなどというのは余程のことで、普通は単に、金にだらしない人物として縁を切られることが多いのではないでしょうか。

しかし金を貸した人が本気で訴え出れば、「詐欺罪」として刑事事件となりますので、知人や友人間で安易な借金などは避けるべきだと思われます。

借金問題(外部リンク)

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